放送内容

第1627回
2022.05.29
林業ボーイズのはじめての林業
林業入門編
自然・電波・鉱物・エネルギー

 国内の木を活かし、里山の整備にも繋がる林業。しかし、私たちは林業についてなにも知りません。そこで、石田剛太、酒井善史、金丸慎太郎、この3人の男たちが立ちあがりました。全国各地の林業を学び、技術を身に着け、人と森との関係を取り戻す新企画「林業ボーイズのはじめての林業」!
 第1回は「林業入門編」です!

林業ボーイズのはじめての伐採現場

 林業を学ぶためやってきたのは東京都森林組合。ここで、待ち合わせしていたのが、林業の研究を行う東京農業大学の関岡先生。
 東京は世界有数の大都市でありながら、その4割が森林。今回訪れた多摩西部には、そのうち7割を占める広大な森が広がっています。

 江戸の町が発展すると、建築用の材木として、また煮炊きの燃料である炭、薪となる木の需要が大きく増加しました。多摩西部は巨大都市江戸を支える林業地として賑わいをみせ、また、この地域の里山としての機能を果たしていたそう。
 3人は早速、林業の作業をしている現場へ。今回、伐るのは推定樹齢50年、根元の直径50cmの杉。

 木を伐るときは、2カ所に切れ込みを入れます。まずは、木を倒したい方向に三角形の受け口を入れ、その後、反対側に追い口を入れていきます。さらにクサビを打ち込むことで、倒したい方向に重心を傾け、そのまま追い口を深く入れて木を倒します。
 その後、ハーベスターという機械が登場し、木を爪で持ち上げ、長さを測ります。

 そして、アームの先端に組み込まれたチェーンソーで、一気に丸太にします。この伐り倒した木を切りそろえて丸太にする工程を玉切りといいます。玉切りされた丸太は集められ、木材市場へと出荷されていきます。

 一般的な林業のサイクルは、生長した木を大規模に切り出す「伐採」。切り出した木を木材、製品に加工して「利用」。その土地の気候や将来どのような森にしたいかを考え、山にまた木を植える「植林」。植えた木を育てる「保育」。保育には森のコンディションを整える作業「間伐」も含まれます。林業は、このようなサイクルを一般的に5~60年の周期で回します。

 育ち盛りの若い木は、光合成により二酸化炭素をたっぷり吸収します。林業のサイクルは、こうした森林循環を促しているんです。

 今回、伐採を行なった現場は4.5ha。伐採された森を空から見てみると、木が全部なくなっているのが分かります。

 ある程度の面積をまとめて伐採する方法を、皆伐といいます。森林には、降った雨を蓄え、下流に流れる水の量を調節してくれる「水源涵養」や、土を支えて山が崩れたり、浸食されたりするのを防ぐ「土壌保全」の機能があります。そのため、森林を失った山は災害に弱くなってしまうといいます。
 しかし、関岡先生は林業のサイクルを守り植林すれば、災害を軽減できるといいます。さらに、小面積の皆伐にとどめて、大面積の皆伐は行わないことも重要だとか。東京都の場合、環境へのインパクトが大きくなりすぎないよう、伐採面積に上限を決めています。
 つづいて、皆伐した後の山を緑に蘇らせる、植林の現場へ。森を再生し、災害を軽減する大切な作業。現在、東京都では、花粉をあまり出さない杉を選んで植林する取り組みをしています。斜面が急で崩れやすいのが東京の山の特徴。厳しい環境での肉体労働です。
 まずは、苗を植える場所のゴミをとりのぞきます。そして、根っこが埋まりきる深さの穴を掘って苗を植え、周りを踏みつけます。3人も作業すること1時間。今回は、1人5本ずつ植えました。
 そんな植林ですが、林業の中でも機械化が難しいと言われています。それでも、近年では苗をドローンで運搬するなどの工夫がされています。苗がつまった重さ10kg以上の袋を持ち上げ、徒歩では15分かかる山頂まで、わずか30秒で苗を届けることができます。知らないことだらけだった林業を、少しだけ理解した林業ボーイズでした。

林業に取り組む若手企業

 関岡先生によると、国内で使われる木材の総量のうち約40%程度しか国産の木材は使われておらず、この数字をもっと上げるべきだといいます。日本の森林には、たくさんの木材として利用できる樹木が育っており、もっと国産材の利用率を高めることができ、そのポテンシャルもあるんです。
 国産木材が外国産木材より使われない理由として、外国産材が安く、国産材が高いからと言われますが、近年になって外国産の木材の方が高くなっています。にもかかわらず、国産材に戻ろうという動きにはなかなか繋がらないのには、外国産材が安定的に供給できるというのが主な理由として挙げられます。その結果、外国の木材が未だに多く使われているんです。
 さらに、かつては、生活の色んな所で使われていた木材が、他のものに替わることで、木材が商品価値を失ったことも大きな要因の一つだといいます。魚を輸送するのも今はほとんど発泡スチロールが使われていますが、かつては木箱でした。建築に使えない木にも燃料や資材としての需要がありましたが、新しい材料にとってかわられ、その価値を失ってしまったんです。
 そんな厳しい業界の中で、活路を見出している企業があると聞き、3人は奥多摩にやって来ました。訪ねたのは、2013年創業「東京・森と市庭」。現在東京都では、幼児・児童が木についての学びを深める「木育」が推進されています。この会社はその活動に貢献するべく保育園・幼稚園に向けて多摩産材を使った遊具を製造・販売しているのです。さらに遊具を収めた施設の子どもを会社の森に遠足として招いたり、園で出張ワークショップを行うなどの活動をしています。
 まずは、ワークショップや遠足で使う社有林を見せてもらうことに。この場所には杉とヒノキが植えられていますが、左右の違いは一目瞭然。実は左は間伐を行っていない森で、右は間伐をした森なんです。

 林業のサイクルの1つ間伐。植林をしてから20年目、40年目に木を間引き間隔をあけることで木の成長を促します。実験的に、間伐していない森と間伐した森を並べることで、子供たちも直感的に間伐の大切さが理解できるといいます。間伐が行われた森は、森全体に植物が広がっています。これは、間伐した森に風や鳥が運んできた種が発芽して大きくなってここに根付いたから。木の実や若葉など、動物の食料が豊富な森が育つことで、野生動物などが人里までエサを求めて下りてくることも減らせるかもしれないといいます。一方、間伐をしていない森は暗く、ヒノキ以外の植物がほとんど生えていません。

 それでは、間伐体験です。間伐するのは樹齢40年、直径20cmの比較的細いヒノキ。ノコギリで受け口を作ったらワイヤーをかけ、倒す方向を決めます。今回は、密に木が生えている場所なので、隣の木に引っかからないようコントロールする必要があります。そして、チェーンソーで追い口をいれてウインチでワイヤーを引っ張ります。しかし、隣の木に引っかかってしまいました。間隔が狭い木を倒す間伐作業の難しさです。ワイヤーを引っ張りどうにか木を倒すことができました。木を伐った場所からは、空を見上げることができました。

 続いては、切られた木が利用されるまでの流れを見てみます。森と市庭では、伐った木、仕入れた木を自社で製材しています。まずは、丸太の皮をむきます。丸太が機械に飲み込まれていきます。機械の中では高圧の水流を丸太にぶつけ、皮をはがしているんです。これで丸太を製材できるようになります。
 一方で、大量に出てきた木の皮。かつては、屋根や壁に使われていた杉やヒノキの皮。現代ではほとんど建築に使われなくなってしまいました。ですが、これも子供たちの遊びになるんです!木の皮を煮だして、布を漬ける。熟練者が行えば、渋い色の染物をつくることができるんです。
 木を余すことなく使うということに、かがくの里母屋プロジェクトのヒントがありました。