放送内容

第1663回
2023.02.19
かがくの里 の科学 場所・建物 食べ物

 今回は、カナダのケベック州にいってきました!カナダの特産品といえばメープルシロップ!カナダのメープルの森で暮らし伝統的な田舎暮らしを行う農家に密着!そこには、メープルの森の多様性を守る暮らしがあった!?
 今回は、カナダに暮らすメープルの森での田舎暮らしスペシャルです!

メープルの森の恵みを受けて暮らす親子

 2022年12月。やってきたのはカナダのケベック州リゴー。メープルシロップの世界生産量のうち、カナダがおよそ79%を占めているのですが、その9割がケベック州で作られているんです。お会いしたのは、森と共に暮らすメープル農家のピエールさんと息子のステファンさん。メープルシロップの原料は、シュガーメープルことサトウカエデの樹液。こちらの森には、樹液がとれるメープルがおよそ千本もあるそうです。

 そもそもカナダのケベック州はメープルの原生林が多い地域。夏は暑く、冬はマイナス30℃になるほど寒い、寒暖差が大きい気候でメープルはその気候に適応している樹木。カナダのメープル農家は近代化が進んでおりチューブを木に取り付け樹液を電動で集める農家が増えてきているそうですが、ピエールさん親子は伝統的な方法で樹液をとっていると言います。
 メープルシロップの原料となる樹液、メープルウォーター。樹液が流れているのは木の表層から約4cm。ドリルで穴を空けると樹液が滴ってきて、それを長い時間かけてバケツにためていきます。この樹液を糖度66%まで煮詰めていくとメープルシロップになります。
 しかし、なぜ樹液がそんなに甘いのでしょうか?取材した12月は樹液が出ない時期で、甘い樹液が出るのは3月4月。シュガーメープルの木は、春から秋の暑い時期に光合成を行い、細胞にデンプンを貯めていきます。冬を迎えると、マイナス30度という寒さで細胞が凍らないように、デンプンを分解して糖に変え、細胞内の糖の濃度を上げていきます。その後、寒い冬が終わり、暖かな春が近づいた3月、細胞に貯めておいた糖が、根から吸い上げられた水に染み出して樹液が甘くなるんです。
 ちなみに、樹液がバケツ1杯採れるようになるのは、樹齢40年を超えてから。そこで、このメープルの森で最も古い木を見せてもらいました。樹齢200年を超える、この森最年長のメープルの木。

 シュガーメープルは300年から400年の寿命があると言われておりまだまだ樹液がたっぷりとれる現役の木だそうです。樹液の採集は3月以降。冬の時期はどんなことをしているのでしょうか? メープルの木は弱酸性の土壌を好みます。この時期、メープル以外の木を伐って間引くそうですが、すべてメープルだけにすると、適した酸性の土壌が保てなくなるそうで、ある程度別の木を残すのも大事なんだそうです。
 そもそもカナダのケベック州は17世紀フランスの植民地となり、多くのフランス人が渡ってきて、開拓を進めました。2人の先祖もフランスから渡ってきた移民。その後、先住民からメープルシロップの作り方を教わり、今もなお伝統的な方法でメープルの森を管理しているといいます。
 枝集めを行っていると、果実か木の実を咥えたリスを発見!カナダにはリスが多く生息しており、メープルの森では日常的に見かけるそうです。

 他にもアカギツネなどの中型の肉食獣だけでなく、大型の肉食獣であるコヨーテもしばしばみられるそう。メープルの森で代々伝わる間伐方法をとることで、豊かな生態系を守り様々な動物が暮らす森作りを行っていました。

シロップを煮詰めて作るメープルシュガー作りに挑戦!

 森の後は、「シュガーシャック」と呼ばれるメープルシロップを作る作業場へ。

 樹液がとれないこの時期は、メープルシュガーを作っているんです。
 収穫の時期、シュガーシャックの中でメープルの樹液を煮詰めてシロップを作っていくのが、もっとも大変な作業。1Lのメープルシロップを作るのに、平均40Lの樹液が必要なんです。20分ごとに薪を追加していくのですが、メープルシロップができるまで10〜12時間ずっとその作業をしないといけません。
 間伐で伐った木や枝を、薪として利用するのも日本の里山の暮らしと同じ。かがくの里でも伝統的な手法を使ってメープルの樹液を集めてメープルシロップ作りに挑戦しましたが作れたのはわずかでした。
 そんなメープルには種類があるそうで、シーズンが進むことに色が濃くなっていって、収穫が最後に近づくと黒っぽくなるといいます。

 なぜ色に違いがでるんでしょうか?それは、採取の時期によって樹液の糖度が変わり、煮詰める時間に違いが出るから。透明な樹液を煮詰める時、メイラード反応で色づくのですが、収穫時期が早いゴールデンは、樹液の糖度が高く、煮詰める時間が短いので色が薄くなります。一方、収穫時期が遅いベリーダークは樹液の糖度が低く煮詰める時間がかかるためメイラード反応が進んで、色が濃くなるそうです。そのため樹液の採取時期で、4つの等級に分かれるというメープルシロップ。
 採取時期の早い順からゴールデン、アンバー、ダーク、ベリーダーク。中でも「ゴールデン」は、生産時期が短く流通量が少ないため、一番値段が高いそうです。
 それでは、メープルシュガーを作っていきます。メープルシュガーとは、メープルシロップをさらに煮詰め水分を飛ばして固めたもの。

 まずは小さなコンロに火をつけて30分ほど煮詰め、その後、かき混ぜながら氷で冷やし、固めていきます。手を止めることなく混ぜること5分。つやつやとしてきたら型に流し込んでいきます。あとは冷えて固まるのを待つだけ。
 待っている間に、氷にメープルシロップをかけて固めただけの伝統的なおやつ、メープルタフィーを頂きました。

メープルシロップをかける伝統料理

 メインロッジでお昼ご飯を頂くことに。ピエールさんが、カナダの伝統料理を作ってくれました!

 シロップはそのままかけても加熱調理しても合うアンバーを使うそう。
 まずは、シロップがたっぷりかかったベーコンから。調理科学の専門家露久保先生によると、メープルシロップをベーコンと共に加熱することで、カラメル化やメイラード反応が起きます。すると、焦げ目と香ばしさが加わるためシロップのコクのある甘味がベーコンの塩味,うま味と合わさり絶妙な味わいになるんだそう。続いてはふわふわのスフレオムレツ。もちろんこちらにもシロップをかけます。そのお味は、お菓子っぽいものに。
 ピエールさんがこの土地を訪れた時、所有するメープルの森は小さかったといいます。メープル農家として暮らしながら、ここに自ら家を建て、メープルの原生林を買い、自分の森を広げていったんだそうです。メープルの木の数を増やすことで、樹液をとる木を一部に限定、森に過度な負担をかけることなく持続可能なメープルの採取を行うことができていると言います。
 自然を尊重し伝統を守るメープル農家の暮らし。そこには、「人と森の共生」のかたちがありました。