放送内容

第1665回
2023.03.05
林業ボーイズのはじめての林業
林業実践&森の機能編
自然・電波・鉱物・エネルギー

 林業ボーイズがいよいよ本格的にチェーンソーの使い方を身に付けます。さらに、代々山を育ててきた林業家に弟子入り!長年にわたり適切な管理がされてきた森は、人工林でありながら天然林なみの生態系を育むだけでなく、私たちの生活にとって重要な役割を持っていたんです。
 「林業ボーイズのはじめての林業」。今回は、「林業実践&森の機能」編です!

林業ボーイズのチェーンソー講習

 林業の作業には欠かせないチェーンソー。これを業務で使う場合には、安全に関する講習を受けなくてはなりません。
 そこで、今回は、ベテラン講師の上野さんをお招きして、まずは2日間に渡り、座学を受けます。大きな木と鋭い刃物を相手にする林業は、危険と隣り合わせの仕事。過去の事故から得られた教訓や、守らなくてはならない法令。さらに、チェーンソーの使い方・メンテナンスから、安全ズボンやゴーグルの重要性、さらには木を伐る際の注意事項など多岐にわたります。
 そして3日目、いよいよチェーンソーの実技。実技を教えてくださるのは森田洋平さん。この道26年、現役の林業従事者です。
 ここで、木を伐る前にチェーンソーで絶対に気を付けなければいけないことが!それがキックバック。キックバックとはチェーンソー事故を引き起こす現象の1つ。チェーンソーの刃に当たり所によっては、回転力でそのままチェーンソーが弾かれてしまうのです。キックバックの原因となる場所に、モノを当てないよう気をつける必要があります。

 それでは酒井さんから、立木に見立てた丸太を使い、チェーンソーの練習です。しかし、酒井さんの切り口は、先生のお手本と比べてかなり右下がりになってしまいました。

 その後、ボーイズ全員が一通りの使い方を学び余裕が出てきた時、森田さんから「この業界の人達は、毎日生きて帰る、そのくらいの気持ちで挑んでいる。気をつけて作業にあたってください」と厳しい言葉が!
 林業の厳しさと楽しさを感じた三日間でした。。

いよいよチェーンソー実践!

 やってきたのは、徳島県那賀町。お会いしたのは、橋本光治さん。一家三人で林業を営んでいる、今年で44年のベテラン林業家です。管理している山はおよそ110ヘクタール。東京ドーム24個分程度の広さ。
 そんな橋本さん、実は以前、取材をした自伐型林業家、滝川さんの先生。橋本さんは、これから林業を始めようとする方たちに、同じ山を長期に管理していく自伐型林業の方法を広める活動をしています。今回は、そんな橋本さんに弟子入りし森作りを学びます。
 ですがその前に、覚えたてのチェーンソーの実践を行わせていただきます。
 今回は、実践練習のために間伐をしますが、どの木を伐るかにも橋本さんの考えがありました。
 橋本さんは、悪い木から切っていくといいます。木を伐るときに考え無しには切らず、残せる木は雑木であっても全部残していくんだとか。そんな悪い木の見極め方の1つが、人間と同じで色だといいます。今回は、周囲の木と比べて樹皮が白っぽく変色しているヒノキを伐ることにしました。

 それでは、金丸さんからチェーンソーの実践です。手前の広葉樹を避けて、奥のヒノキにも当たりづらい、谷側に向けて倒します。

 いよいよ、チェーンソーに火を入れて、林業ボーイズにとって新たな一歩です。まずは木が倒れる方向を決める受け口。橋本さんに調整してもらいながら伐り進めます。さらに、追い口も切り、クサビを打ち込みます。すると、手前の広葉樹を避け、奥のヒノキに引っかかることもなく狙い通りに倒すことができました。

 続いては石田さん。細めのヒノキを切りましたが、こちらもまずまずの出来!
 最後は林業ボーイズのリーダー酒井さんが挑戦!指導してくださるのは、お母さんの延子さん。もちろん普段からチェーンソーを使いこなしています。
 まずは、伐る木と倒す方向を決めます。そして、お母さんの指導の下、受け口を切りますが、酒井さんが空けた受け口は、講習の時のように右下がりになってしまいました。
 これがどう影響するのか?なんと倒れ始めた木は狙った方向を逸れて、他の木にひっかかってしまいました。

 この木は後日、橋本さんが処理してくださいました。

適切に管理された人工林の機能とは?

 橋本さんが行なっている林業は山の面積を10等分し、1年でそのうちの1区画の2割程度の間伐を行ないます。それを毎年場所を変えながら10年で1周するというサイクルにしています。10年後には1年目の場所の他の木が生長しているため、森林全体の体積を減らさずにすむといいます。

 この様な方法で整備している山には、他所の人工林にはない特徴があるといいます。その特徴に注目したのが徳島大学の鎌田先生と田村先生。橋本さんの山を研究のテーマにしているんです。
 スギやヒノキを植えた人工林は、収穫を優先してそれ以外の植物は伐られてしまうことがあります。ところが鎌田先生によると、橋本さんの山は、色んな樹木があり、全体で言うと約250種も。その場を見回してみても、シイノキ、カシノキ、ほかにもモチノキや美しい花を咲かせるツバキ。そして、ヤマザクラなどがすぐに見つかりました。山には鳥や風が運んできた種が芽吹き、様々な植物が自然に生えてきます。皆伐や広葉樹の駆除を行なわない山作りをすると植物の多様性が生まれるのです。そして、この多様性が保たれているということが、重要な機能を生んでいるんです。
 田村先生は森が洪水を抑制する機能について研究しています。那珂町は、1年間で3000ミリくらい雨が降るところ。日本で平均が1800ミリくらいで約2倍弱です。そういう中で、他の山では他の災害が起こっても橋本さんの山ではほとんど起こらないそう。橋本さんの山の災害の起きにくさは、多様性が関わっていることが田村先生の研究で分かってきました。
 そもそも、雨が降り木の葉っぱに当たると、一部がしぶきとなって霧状になったり、蒸発して地面まで届きません。田村先生の研究によると、徳島県の別の地域の人工林では、降った雨の20パーセント程度が地面まで届かないことが分かりました。一方で、橋本さんのところだと平均して25パーセント~30パーセントが地面に届かないんです。
 一般的な人工林は同じ様な高さの1種類の木しか生えていない為、雨を弾く葉っぱの層が1層です。しかし、橋本さんの山は、背の高い針葉樹の下に、広葉樹などがあり、さらにその下には若い木や草が生えておりいくつもの層で雨をはじく複層林になっています。この構造の違いが、地面に落ちる雨の量に差をもたらしたと田村先生は考えます。

 さらに、地面に届いた雨も、下層に生える様々な植物が食い止め、雨水が沢や川に流れ込む時間を遅らせて洪水を防ぐといいます。田村先生が研究したデータに基づくと、結果的には洪水のピーク流量を約20パーセント橋本さんの山の方が小さくなっているとのこと。生物の多様性と人の暮らしの繋がりが分かる研究です。
 最後に鎌田先生は、この森も1つのインフラ、グリーンインフラだと受け止めて、そのための森づくりのあり方を考えた方がいいとおっしゃっていました。