第1667回 2023.03.19 |
氷下待ち網漁 の科学 | 場所・建物 物・その他 自然・電波・鉱物・エネルギー |
今回、いかちゃんが訪れたのは、北海道の東、オホーツク海に接する野付半島。ここ野付半島には、多種多様な生き物が生息しているんです。そのため、野付周辺は、環境省の「生物多様性の観点から重要度の高い海域」として選ばれています!
そんな野付半島では、人と自然との共生関係が築かれた伝統漁、氷下待ち網漁が行われています。古くから伝わる伝統漁と自然とのつながりとは?
今回の目がテンは、北海道、野付半島、冬の伝統漁を科学します!
野付半島ってどんな場所?
いかちゃんがやってきたのは、北海道、野付半島。この野付半島は、砂嘴と呼ばれる特徴的な地形をしています。
砂嘴とは、海流により運ばれた砂が、長年に渡って堆積して作られた地形のこと。全長およそ26km、日本最大の砂嘴なんです。細長い形をした半島には建物や道路もあり、最も狭いところでは、幅は40mほどしかありません。
そして、湾内は水深が浅く、波が穏やかなため、冬には、海の部分が結氷し、氷の平原となるんです!
野付湾の面積は、およそ57平方km。これは、世田谷区がほぼ凍るほどの広さ。独特な自然環境を持つという野付半島には、一体、どんな生き物がいるのでしょうか。ネイチャーガイドの坂口さんに案内してもらい、生き物探しを開始!
すると早速、エゾシカのメス3頭を発見!
さらに、別の場所でも、オスの群れを見つけました。そして、キタキツネや、国の天然記念物で絶滅危惧種に指定されている、オジロワシの姿も。冬になると、ロシアの極東地域から北海道に渡来してくるのです。
他にも、オオハクチョウやユキホオジロといった渡り鳥や、固有種のノサップマルハナバチをはじめ、様々な昆虫が。そして、海ではゴマフアザラシ。もちろん、動物だけではなく、クロユリやエゾカンゾウという植物もたくさん自生しています。
どうして砂が堆積してできた場所に多様な動植物が、生息、生育しているのでしょうか。坂口さんによると、野付湾は、流れが穏やかで、深さがない。そうゆう場所にアマモが育つといいます。海のゆりかごとも言われるアマモは、海の生き物たちにとってなくてはならない棲みかであり、産卵場所。
野付湾は、面積のおよそ70%にアマモが生い茂っていて、そこに棲む小さな生き物を狙い、2万羽以上の渡り鳥が渡来してくるなど、豊かな生態系を築き上げているのです。さらに、野付半島には、森林や草原、湿地や沼、そして海など多様な環境が広がっているため、それぞれに適した動植物が生息しています。
そのため、野付半島、野付湾は、水鳥の生息地の重要な湿地として、ラムサール条約湿地にも登録されています。
野付半島は、多様な自然環境が野生動物や植物を育む生き物たちの楽園だったんです!
冬にしか行えない氷下待ち網漁とは?
お会いしたのは、野付湾で氷下待ち網漁を行う、漁師の武井さん。氷下待ち網漁とは、氷の下に網を張る定置網漁のこと。魚の習性を利用し、回遊している魚を袋状の網へと誘い込む漁法です。
海が凍る冬の時期にだけ行う漁法で、野付湾を始め、近くの風蓮湖などで行われる明治時代から続く伝統漁なんです。
凍った海の下にどうやって網を張るのでしょうか?同行し、漁を見せてもらいます。
普段は一人で漁をしているそうですが、今日はいかちゃんと武井さんの仲間の3人で行います。すると、武井さんがロープを用意。このロープ、氷の下に仕掛ける定置網の形になっており、これで型をとるんです。
まずは、氷の上で、ロープを使い、海の下に設置する定置網の位置を決めていきます。続いて用意したのはチェーンソー。固定したロープをガイドに穴をあけていきます。あける穴の数はなんと、全部で29個。チェーンソーであけた穴から網を入れ、氷の下に広げていきます。作業を始めて3時間半、穴をすべてあけ終えました。
いよいよ網を入れていきます。氷の下に網をいれるために使うのが、長い棒。海中に入れた棒に、網のついたロープをくくりつけ、棒を隣の穴へと送っていきます。そして、また次の穴へと棒を送っていきます。棒を使い、氷の下に網を広げていくため、穴がたくさん必要なのです。網をくくりつけたロープが先端まで来ると、ロープを引っ張り、網を氷の下へ。およそ60mの魚を誘導するための網、そして、およそ28mの定置網を仕掛け終えました。
凍った海だからこそできる伝統漁、一体どんな魚がとれるのでしょうか?
氷下待ち網漁の水揚げ!
網を設置してから一晩。昨日と同じ場所へと向かい、、網を引き上げていきます。網を上げるのは、人力。いかちゃんも水揚げに参加し、長い網を引っ張っていきます。すると、網の中には、チカ、コマイ、オオマイ、カレイなどたくさんの魚が。
チカは、キュウリウオ科の魚で北海道、北日本の海に生息する海水魚。そして、コマイは、タラ科の魚。氷の下の魚と書いて、コマイといい、野付半島周辺が最も大きな産卵場となっています。地元では、チカはフライに、コマイは干した後に、焼いて食べることが多いのだそう。とった魚はかごに移し、水揚げは終了。
すると、武井さん、せっかく集めた魚を外に放り出し始めました。これらの魚は、放置して、ワシにあげるというんです。放置する魚は、ナガガジやカジカなど。実は、これらの魚は繁殖力が高く、チカやエビなどを食べてしまうため、 海に戻さず、放置。漁で水揚げした命を無駄にしないため、生き物たちにおすそわけしているのです。
しばらく観察してみると、やってきたのは、国の天然記念物で絶滅危惧種のオジロワシ。いかちゃんが放置した魚に、ゆっくりと近づいていき食べました。
さらに、今や世界に5000羽程度しか生息していないという同じく国の天然記念物で、絶滅危惧種のオオワシもやってきました。
氷下待ち網漁は、人と生き物の間で自然に築かれた共生関係を垣間見ることができる漁なのです。