放送内容

第1669回
2023.04.02
かがくの里 の科学 場所・建物 水中の動物

 2014年11月から始まった長期実験企画「かがくのさと」。毎年豊かな実りにめぐまれるだけでなく、鳥や虫、動物たちが共存する多様性豊かな場所になっていったんです。
 今ではフクロウやムササビ、里山図鑑の製作など様々なプロジェクトが進んでいますが…、あの企画、忘れていませんか?そう、5年前にスタートしたウナギ養殖プロジェクト!ここ2年の間、このプロジェクトは放送されていませんでしたが、実は、ちゃんと進んでいたんです!
 今回のかがくの里はひさしぶりの復活!?ウナギ養殖プロジェクトスペシャルです!

里のウナギに衝撃的な事件が!

 去年の夏。里山の達人西野さんが、田んぼ脇の水路でウナギの死骸を発見しました。外から天然のウナギは入ってこられない仕組みのため、このウナギは、ここで育ったもの。そう、2018年、ウナギ絶滅の危機が叫ばれる中、立ち上がった「ウナギ養殖プロジェクト」で放ったウナギ。
 一般的な養殖場で育てると、ほぼオスになってしまうウナギ。しかし自然環境に近い、里のため池ならメスとオス1:1になるのでは?そして、メスを含む里育ちのウナギを川に放流することで、激減しているウナギの数を増やせるかも!?という夢のプロジェクトが始まったのです。
 1年目、千葉先生が大学で研究用に購入したシラスウナギを100匹池に放って、同時にエサとなるスジエビを入れ、あとはそのまま放置すること5カ月。なんと、自然環境に近いかがくの里の池では、天然で育つウナギと同じく、ほぼ1:1の割合でメスになっていたんです。

 かがくの里の環境は、自然と同じようにオスとメスほぼ半々に育つという事が分かったところでプロジェクトは次の段階に!
 プロジェクトの最終目標は、里のウナギを川に放流し、川で何年かかけて産卵の準備をしたウナギは大海原へ出て、マリアナ海嶺あたりまで長旅をして産卵をしてもらうこと。
 しかし、その前にクリアしなければならない課題が。
 千葉先生によると、養殖ウナギは温室育ちで、河川に放流しても適応できず、天然ウナギとの競争にも負けてしまうなど、うまく資源増殖に結びつかないといいます。千葉先生の実験では、ほぼ同じ大きさの、天然ウナギと大学で育った養殖ウナギを同じ水槽に入れて実験したところ、養殖ウナギが攻撃され、ボロボロになったんだそう。

 つまり、里のウナギが天然ウナギと同じく、強い個体に成長するのかを見極める必要があるということ。そこで、ここ2年、里のウナギが大きくなるのを待っていたんです。
 そんな中、見つかった巨大ウナギの死骸。発見から5日後、千葉先生に来てもらいました。千葉先生、早速サイズを計測。すると、かがくの里最大の53.2cm。

 これは食用として出荷される立派な大人サイズ。4年前台風で増水した時、ウナギがすべて逃げてしまい、水路にはもういなくなったと考えていました。どうやら、この巨大ウナギはその生き残りのようです。
 実は、増水によって池が崩壊したため改良したんです。元々は、池と田んぼが地下で繋がっていて魚が行き来できるシステムだったのですが、これだとウナギたちが田んぼ脇の水路に逃げ込んでしまい、そこからさらに水路の外に逃げてしまうことがあったんです。そのため、改良と同時に水路に網をかけ行き来できなくし、その結果、このウナギは水路に住み続けていたのです。
 千葉先生によると、水路は栄養を含んだ水が沈殿してヘドロ状態。ヘドロで酸素が少ない欠乏状態になり、真夏に熱くなると代謝が高くなり、大きいだけに逃げ場がなく、ヘドロに潜らざるおえなくなる。さすがのウナギもそういう状況では生きていけなかったとのこと。
 水路のウナギは死んでいましたが、池にいるはずのウナギは大丈夫なのでしょうか?

池のウナギは生き残っているのか?

 果たして、里の池でウナギがちゃんと生き残り、育っているのか?今回、それを調べるため用意したのが、モニター付きの水中カメラ。赤外線ライトがついていて、夜でも観察ができるすぐれもの。このカメラで、ウナギの撮影に挑みます。今回は池の中央付近にカメラを設置。
 ウナギは日没前と深夜に活動が活発になります。この時、午後5時。観察するには絶好のタイミング。が、しかし何も映らないまま1時間30分が経過。日が暮れてしまいました。まさか、池のウナギも死んでしまったのか?
 と、その時!カメラに向かってくるウナギの撮影に成功!

 池でウナギは元気に泳いでいました!さらに別のウナギも発見。複数のウナギがいることも確認できました。
 プロジェクトの目的は、十分に成長したウナギを川に放つこと。そこで、池にいるウナギの大きさ、そして何年でその大きさになったのかを知る必要があります。
 そのことがわかるものがウナギの体内にある耳石。耳石と炭酸はカルシウムの塊で、魚類では脳や目の近くにあります。まるで木の年輪のように輪ができるため、魚の年齢を調査するのに使われているんです。池にいるウナギを捕獲し耳石をとり確認することでウナギが何年でここまで大きくなったのか、がわかるんです。
 そこで9月中旬の、ある夜。ウナギを捕獲し調査するためトラップを仕掛けることに。中にエサとなるミミズを入れて入ったら出られなくなる仕掛け。さらに釣り糸と針を使ったトラップも用意。合計14箇所のトラップを、池を囲むように仕掛けました。
 仕掛けたトラップは翌日回収する予定だったんですが…ここで想定外の展開に!仕掛けて20分。トラップの1つに異変が!なんと、池の端にしかけたトラップにいきなりウナギがかかっていたんです!

 さらに別のトラップでは、体長が短いウナギを捕獲。わずか20分で大きさのちがう2匹のウナギが見つかりました。
 2日後。トラップで取れたウナギを解剖し調査することに。まずは長さを測ると、体長50cmの大物。

 さらに重さを測ると189g。立派な商品サイズです。
 そんな大きく育ったウナギの耳石を取り出します。果たして何年でこの大きさにまで育ったのか?とった耳石を顕微鏡でチェック。里のウナギは、3年前のものから薬液に入れ、耳石に蛍光色をつけて放しているので、蛍光顕微鏡で見ただけでいつ放流したものか、わかるようになっています。
 すると、今回捕獲したのは、3年前に池に放流したウナギだということが判明。天然のウナギは50cmになるのに4年はかかると言われているのですが、今回捕獲したウナギはそれよりも早い3年で50cmになっていることから、かがくの里のウナギは天然と同じかそれ以上のスピードで成長していることがわかりました。
 なぜ天然よりも早く育ったのかは今後調査していくとのこと。今回捕獲したウナギは千葉先生の研究室で、さらなる調査の上、大事に美味しくいただいたそうです。

ウナギ養殖プロジェクトの今後の展望は?

 細く暗い所が好きなウナギ。そのウナギの居場所にしようと、4年前に池に塩ビ管を入れていました。今回それを回収してみると、エサで捕まえたのと同じ50cmクラスのウナギが入っていたんです。塩ビ管が、隠れるのに最適な居場所となっていて、住みかとして使っていたと考えられるそうです。無傷で捕まえられたウナギはサイズだけ測りより大きくなることを願って池に戻しました。
 大きい個体が増えている里のウナギ。今後のプロジェクトの展望は?
 千葉先生によると、天然だとオスで4年、メスだと7〜8年で産卵のために海に向かう個体が出現するそうで、その時に銀化という現象が起きるといいます。
 銀化は、川で成長し海に下る魚に起こる現象で、体の色が徐々に銀色に変化します。ウナギの場合も産卵のため海に向かう前に、体の色が変化していきます。

 そのほかにも胸ビレが黒くなり眼球も大きくなるなど、川から海に順応できるよう、体が大きく変化していくんです。
 千葉先生は、例年だと秋口に体が銀化して降下行動という川を下って海に向かう行動が見られ、オスだったら十分にサイズが達しているので早ければ今年あたりからそういった個体が出る可能性が高く、数尾でも出てきたら天然の河川に戻して産卵回遊に参加させてあげるべきといいます。
 つまり、今年の秋には銀化し、海に放流できる個体が出てくる可能性があるとのこと!今年はウナギ養殖プロジェクトから目が離せません!