2020年4月13日配信
【目次】
新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない東京。全国で感染者が増える前の1月から今まで、治療の最前線で指揮を執る国際感染症センターの大曲貴夫医師は、東京の状況について「ニューヨークなど感染が急増した地域の最初の段階とよく似ている」と危機感をにじませます。新型コロナ対策について東京都に助言も行っている大曲医師に、news zeroの有働由美子キャスターが聞きました。
■東京の感染者の増え方、ニューヨークと似ている
Q:東京での感染者が増え続けています。感染者数の増加をどう見ますか?
この1、2週間(インタビューは4月6日)の患者数の増え方は、すごく驚くような状況ではありません。
やっぱり増えてきてるなと改めて思いましたし、簡単じゃないなと思いました。
増えること自体は予測されていました。ただ、この数字自体は決して良いとは思っていない。
1日に140〜150人の陽性が出るということは、それだけの方々を入院させるならさせる、自宅待機にするならするという判断を病院と行政はしなければいけない。 それを同時にすることはものすごい大量のエネルギーがいるし、入院の場所も探さないといけないうちも含めて都内の医療機関はどこも大変です。感染者の増加傾向自体は、急にガクっと下げられるものではないので。もちろん減ってほしいとは思いながらみています。
今回の増え方を見ると、ニューヨークなど、感染者数が急増した地域の最初の段階とすごくよく似ている。そういう意味で気持ち悪い、怖いと思って見ている。なんとか抑えなきゃなと思っています。ほかの地域はそこから指数関数的に(注:感染者数が前日の2倍になり、翌日はその2倍に、翌日もその2倍に…と同じ倍率で増え続けること、つまり飛躍的に増えること)患者さんが増えていったので、そうならないようにしないといけない。
3月30日の小池都知事会見で発言する、大曲貴夫医師
Q:コロナウイルス感染症の印象は
この病気はやっぱりとんでもないなって。気を抜くと病院で感染症が広がらないように対応している職員たちの裏をかいて広がっていく、本当に「いやらしい」病気だなと思います。
今回のコロナの問題は、見つかりにくいことじゃないかな。感染しても症状が軽い。全員に39度や40度の熱が出るわけではないし、ひどいせきをするわけでもない。パッと見は普通なんです。だから病院を受診する場合も、風邪など別の理由ですーっと病院に入ってくる。
頭が痛い方がいたら、頭をみますよね。そうするとコロナのことなんてなかなか思いつかない。患者が入院したらすーっとしみこむように、病院の中で広がっていくということは、十分あり得ると思います。
職員がかかることも十分あり得るし、ひょっとするとコロナに感染した非常に軽い症状の職員が、同僚とかに広げたということは考え得るかと思っています。でもそれって相当見つけにくいだろうなと。そういういやらしいふるまいをするウイルスなので、我々の認識する認知の裏をかいて、サーッて広がっていったんだろうなと。だからこそあれだけ多くの患者さんが出る。本当にやらしいなって。対策をしっかり考えないとなって思います。
NIAID-RML
Q:外国に比べ、日本はPCR検査の数が少ないと言われています
検査の数をもって、適切な医療かどうかを決めることはできません。
ただ、職員が感染しているかどうかを調べる、病院の院内感染対策に関しては、検査は使った方がいいと思うんです。現場で必要なときに検査ができるようにしていかなければいけない。
Q:一般へのPCR検査はした方がいい?それとも絞った方がいい?
いろいろな考え方があると思います。自分や周りが感染しているかどうか知りたいのは、根本的な不安、現状を知りたい期待があるからですよね。
全員を調査することは難しいので、統計学的に適切な範囲でサンプリングをして、日本の大体の状況がわかる調査はあった方が良いと思います。
なるべく多く検査して、感染状況を確認したいという考え方もよくわかる。でも、PCR検査をする側、実際に(鼻の奥に綿棒の様なものを入れて)検体をとって検査する職員は(採取時のせきなどによるウイルス感染の)リスクにもさらされます。やりたくないわけではないのですが、すごく大変なんです。
■感染者が2万人になることは十分起こりうる
Q:東京都が確保するとしている新型コロナウイルス感染者用のベッド数や感染者数などの想定についてどうみていますか?
東京都のベッドの想定数は最大4000床と言われています。その裏には最大同時に2万人程度の患者さんがいる想定がある。2万人のうち、病院に入院をして、しっかり医療を受けなきゃいけない人たちが20%いる。2万人の20%なので、4000というベッドの数が出てきています。
感染者が2万人ほどになることまでは十分に起こりうると思っています。それを超えそうな場合は、すぐに対応を変えなきゃいけない。
(資料写真)
Q:仮に4000床がいっぱいになったとすると、亡くなる方はどのぐらいになる?
WHOが出した中国のデータをもとにした場合、患者さんのうち、比較的重症が2割くらいで、実際に集中治療がいる方は5%と言われています。
亡くなる方の数は、国の状況でかなり変わることがわかってきたので一概には言えないのですが、おそらくきちんと診断をして、患者の1%か2%だと思います。
■今後は回復した人から別の施設へ
Q:東京都が軽症、無症状の方を病院からホテルなどの施設に移す方向性となりました。医療現場としては少し余裕ができてくるんでしょうか?
しっかりとした医療が必要な方のベッドが確保できるという意味では、軽症者に退院していただいて療養施設や宿泊施設に移っていただく仕組みができるのは、ちょっとホッとするところはあります。もちろんそこにはまた重症の方が来られるので、我々は大変かもしれないですが、ベッド不足でお断りすることがなくなっていくと思います。そういう意味では良かったと思います。
Q:一方で、呼吸に影響がなければ、「軽症」と判断されてしまいます。そういう方がホテルや施設に行ったとき、どのような対応をとるべきなのでしょうか?
これはまだ(注:4月6日現在)議論していることだと思いますが、まずは良くなりかけの方、あるいはかなり良くなっている方から移っていただくのがいいのではないかと思います。
新型コロナウイルスの診断を受けて入院されて、2週間弱ほどで良くなる方がほとんどです。急に具合が悪くなることもほとんどない。そういう方々からまず移っていただくのがいいんじゃないかなと思います。熱もないし酸素もいらないしご飯も食べれるし、もう身動きもとれるということで、ある程度安心して見ていられる方から移っていただく。
Q:軽症者は別の施設に行って良くなるのを待つ。何かあったら病院で診てもらえるということ?
そうです。
Q:そのままほっておかれるわけではない?
全然全然! そんなことはないです。
今、私たちでもどうしたら上手く様子をみられるのか、もし体調不良が起こったらどうやって探し出せばいいのか、など、患者さんの安全のためにいろいろ対策を考えています。
(注:東京都の場合、療養用ホテルに看護師は24時間常駐、医師は日中、配置され、看護師が、療養者の健康状態を定期的に把握すると発表された。)
>>>続く
「マスク・手袋…防御具が足りない。それがあればまだ頑張れる」――新型コロナ治療の最前線
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