2020年4月17日配信
新型コロナウイルスの感染拡大で懸念される東京の状態について、治療の最前線に立つ国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は「重症患者らを受け入れる医療機関が足りなくなっている」と危機感を示します。
医療現場の状況や症状、治療法について、忽那医師に聞きました。
(取材日は4月13日)
【目次】
1)慢性的な満床状態が続く
2)個人防護服の不足は危機的な問題
3)新たな患者を出さないために身を守って
1)慢性的な満床状態が続く
--医療従事者の疲労はどのようなものでしょうか?
チャーター便の対応やクルーズ船の対応などから含めると、3か月以上ストレスがかかる状況で働いています。みんなかなり疲弊している状態です。精神的にも疲労度は日々増しています。
--「緊急事態宣言」が出て数日が立ちました。医療現場の対応は
東京都内はこの3週間くらい患者が増え続けていて、感染症指定医療機関は満床が続いている状態です。新しく診てくれる医療機関が増えているので何とか回っている状況かと。それでも、新しく感染がわかった人の入院先を何十件探しても見つからず、こちらへ依頼が来ることもまだあるので、やはり慢性的な満床の状態が続いています。
--東京では軽症者を宿泊施設(ホテル)へ移す取り組みも始まっています
急にたくさんの患者の移動は難しいです。うちの病院だと1日3人ずつ。一気にベッドが空くことはなく、3人空いたら3人新しい患者が入ってくる状況です。回転はよくなっていますが、満床状態は続いています。
同意書を書いてもらっていて、ホテルに行きたくない人は行っていない。ただ、病院にいるよりも、ホテルの方が自由度が高いので、希望していく人が多いです。いったん良くなってしまえば、重症化する人ってほぼいないんですよね。診断されたばかりで症状が軽い人はこれから重症化する可能性がある。そういう人よりは、症状が良くなってきた人からホテルで経過観察していくのが安全だと思います。
ーーどういう場合を重症というのでしょうか?
酸素投与が必要ない方は軽症、酸素投与が必要になる人が中等症、集中治療室に入るような方が重症、そう考えてもらえれば。
高熱でも、本人は十分つらいと思うけど、酸素投与が必要ない人は、分類としては軽症になります。
--最適な治療法は見つかりつつある?
いくつかの治療薬の候補は出ていますが、はっきり言って”間違いなく効く”というのは今のところありません。
原則は”対処療法”といって、症状をとるような治療がまだまだ主流です。どの薬が優れているかわからないので、医師や病院が患者の基礎疾患や呼吸状態をみて、副作用とか入手しやすさで判断しています。
カレトラ(HIV治療薬)は、臨床研究で治療効果が見られなかったという結果が1か月弱くらい前に出て以降、副作用のデメリットを考えると使う機会が減ってきています。
--オンライン診療の取り組みも始まっています
外来で感染が広がる可能性もあり得ます。なるべく多くの患者が外来に来ずに診療ができるようになれば、院内感染を広げないようにする対策のひとつになります。
2)個人防護服の不足は危機的な問題
--マスクや防護服のストックは足りている?
マスクもそうですし、ガウンや手袋、フェイスシールド、こういう個人防護服は都内ももちろん、全国の医療機関で足りない状況が続いています。うちの病院も近い将来無くなってしまうペースです。特に厳しいところでは、あと数日で無くなるとも聞いています。東京都でも配布をしてくれていますが、使う量が多いんです。
一人の患者を診た時点で汚染していると考えるので、毎回脱ぐ必要があります。1回の診察ごとに個人防護服は破棄しています。消費量がかなり多いので、供給されてもすぐに無くなっていく状態です。個人防護服の不足は危機的な問題です。
--今後、まったく発熱のない患者を診るときには防護服などは必要?
これは難しい問題です。例えば骨折など、新型コロナと関係のない症状で入ってきた患者が前の病院で感染していた、という可能性は今後あります。それを見つけるのは非常に難しいです。
症状がほとんどない、あるいは軽い症状で転院してきた患者が持ち込んだり、あるいは病院職員が持ち込んだりして広げてしまう。複数の病院で実際に起きていることだと思います。
今回の新型コロナウイルスは、感染がわかっていてそこから広がるというよりは、思ってもいないところから患者や医療従事者へ感染が広がるのが主だと思います。
3)感染対策が不十分で起きる院内感染の悪循環
--今後、治療を進めていく上で懸念点は?
防護服不足など、感染対策を十分できずに医療者が新型コロナウイルスの患者を診ることが相当危険なことです。医療従事者が感染して、そこから院内感染が広がって、その病院が閉じざるを得ないとなると、また感染者を診る医療機関が無くなって・・・という悪循環になっていくんですね。
さらに、中等症以上の患者を診られる医療機関が足りません。都内の大規模な病院でまだ新型コロナの患者を診ていない病院もあるので、そういうところにも協力をしていただかないと、日々増えていく患者に対応できないと思います。(インタビューした4月13日現在)
--退院基準を改める必要はありますか?
今後、改められる基準のひとつだと思います。いまはPCR検査で2回陰性が出ないと退院できませんが、PCRでウイルスが見つかることは、感染させる状態と必ずしもイコールではありません。(注:死亡したウイルスで感染力はないが、DNAが検出されるため、陽性となる場合がある)
PCRで陽性だからといって、必ずその人からうつるかといったら必ずしもそうではない。さらに発症から1週間くらいが感染性が一番強く、それ以降は感染性は弱いのではないか、という論文も出てきています。
--「医療崩壊」を防ぐために私たちができることは何ですか?
我々も頑張っていますが、新しい患者を出さないことが大事です。
今はなるべく外出を控えていただいて、テレワークなどで感染しないよう身を守っていただきたいと思います。
さらに、ちょっとした症状でも申告しやすい環境を作る。これは病院に限らず、どういう職場でも同じですが、熱が出たとしても言い出しにくいと、そのまま働き続けて感染が広がってしまいます。そういう人が休みやすい環境作りも大事です。
■忽那賢志(くつな・さとし)
1978年生まれ。2012年から国立国際医療研究センター国際感染症センター医師。日本感染症学会感染症専門医。エボラ出血熱やジカ熱など、海外で流行する感染症について、現地調査や研究を行い、そうした感染症の疑い例や患者が、国内で確認された場合には、診断、治療にあたるほか、そこで得た知見を元に、新興・再興感染症の治療について全国の医師に助言する役目も担ってきた。今年1月、新型コロナウイルスの感染者が日本でも確認され始めた初期段階から重症者含む感染者を実際に治療。チャーター機で帰国した数百人の検診にもあたるなど、対策の最前線に立っている。
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