2020年5月15日 公開
緊急事態宣言が39県で解除されました。一方、解除の対象とならなかった東京都では、いまだ多くの学校が休校状態にあります。給食のない状況が続き、生活困窮家庭における子どもの食事が懸念される中、食べ物を家庭に届ける取り組みが続けられています。
■「困窮するひとり親世帯が増えた」
5月10日の日曜日、東京都八王子市の「八王子食堂ネットワーク」の事務所では、口を開けた段ボール箱が床一面に並べられていました。パスタ、レトルトカレー、インスタントラーメン、缶詰・・・。マスクと手袋を着けた6人のボランティアスタッフが、手際よく段ボールに食品を詰めていきます。
こども食堂や地域食堂、フードバンクなどでつくる同ネットワークが、新型コロナ感染拡大の影響を受けた生活困窮家庭に向けて行う緊急食料支援の作業風景です。加盟する18のこども食堂は、すべて開催を見合わせ中。それぞれ個別に食品の配布などをしている食堂もありますが、今回は、ネットワークとして緊急支援することになりました。
八王子食堂ネットワークの川久保美紀子さんはこう話します。
「お菓子は、送り先の家庭の子どもの数に応じて分量を変えているんです。こども同士のケンカになったりするといけないんで・・・」
5月1日から1週間の申し込み期間に151件の応募があり、そのうち40件は、これまでこども食堂や食料支援とは縁のなかった新規の利用者だそうです。新型コロナの影響で「困窮するひとり親世帯が増えたように感じる」と川久保さんは言います。応募者の声からは、深刻な状況がうかがえます。
・以前より食品などの支援の申し込みをしたいと思いながらも、もっと大変なご家庭があるのだからと申し込みを躊躇しておりました。今回、思い切って応募させていただきました。我が家は、子どもと2人家族ですが、学校が3月から休校になり、食費がこれまでよりかかっているように感じます。もし今回ご支援いただけましたら、みなさまの温かいお気持ちをこどもと一緒に感謝しながらいただきたいと思っております。
・子どもたちの学校と保育園が自粛のため仕事に出られず、今月の給料はありません。食品や毎月の支払はしなくてはいけなくて…せめて子どもたちには、ご飯で笑顔を、と頑張っていますが、先立つものがないのでこれからどうしのぐのか…先が暗いです。
・非課税世帯です。子供たちも4月からずっと休んでいるため、学校、保育園に通っていればかからなかったお昼代がとても痛いです。今は、朝ご飯を遅めに食べ、おやつは2日に1回にして、夜ご飯を早めに食べています。朝は、卵だけ、ふりかけだけの時もあり、夕飯もおかず1,2品でやっているので、子どもたちの栄養が心配です。
・仕事を4か所掛け持ちしていましたが、すべて休業中で、3か所は休業手当もなく、収入が半分以下になっています。この先が不安です。食べ盛りの子どもたちもストレスがたまり、食事の時間だけでも楽しみたい。本当に収入減がつらいです。
・仕事から帰るころにはスーパーの食材が少なく、必要なものが買えません。子供たちは発達障害のため、こちらの頼んだものを購入することが難しく、見当違いのものを購入するため頼めません。
・子どもたちの両親は別居しており(離婚検討中)、祖母の私が孫たちを育てています。生活費も教育費も私一人の収入なので困っています。児童扶養手当も祖母には支給されないとのことで、公的な支援があればと思います。
・コロナの影響で残業がなくなりお給料も半分以下になりました。ローンやカード、幼稚園の費用を払い、先月と今月の光熱費は半分支払いした状況です。普段からぎりぎりで生活しているため、貯金も底をついています。児童扶養手当を受けている立場でお恥ずかしいのですが、援助お願いできますか
■市役所との連携
同じように食料支援に取り組む団体の中には、支援物資や資金が不足している団体も。しかし、八王子食堂ネットワークでは、少し様子が違います。
「支援の食料の一部は購入する予定でいましたが、5月1日なって、仕入れ先から『コロナの影響でパスタやレトルト食品、インスタント食品などが品薄で、在庫を確保できない」という連絡が入って、あわててFacebookとTwitterで緊急支援をお願いしたんです。そうしたらたくさん支援物資が寄せられて、知らない人からも…」
支援物資は、八王子市内だけではなく市外や県外からことも。Amazonで購入したものを直接送ってくれる人もいたといい、現状に対する関心の高さを感じたと川久保さんは言います。
<寄せられた支援物資にはメッセージも>
川久保さんは、「生活困窮者の支援は、広くあまねく募集をかければいいというものではない」と強調。「いかに『必要としている人のもとに情報が届くか』が、大事です」と話します。
生活困窮者に情報を届けるにあたっては、日ごろから連携している八王子市の「子ども家庭部」の協力が大きいといいます。
今回の募集には、同部が発行している、ひとり親家庭向けのメールマガジン『はち☆エール』に情報を掲載してもらいました。登録者はおよそ1800人。応募151件のうちの多くは、このメールマガジンを通じてのものでした。
また、八王子市には、市内の様々な業種の企業が参加する「子育て応援企業」制度という制度があり、今回の緊急支援でも、市の呼びかけでそれらの企業から多くの支援が寄せられました。
■「9割のこども食堂」再開には慎重が開催自粛
生活困窮家庭の子どもにとって大切な食事の機会を提供してきたこども食堂は今、新型コロナウイルスの影響で開催が難しい状況にあります。全国こども食堂支援センターむすびえの調査によると、4月時点で、アンケートに回答した全国231のこども食堂のうち、およそ9割が開催を控えている状況でした。
一方で、全体そのおよそ半数 近く107(46.3%)のこども食堂では、八王子食堂ネットワークのように、開催は見合わせつつもお弁当や食材の配布など、手段を変えて困っている家庭にどうにか食料を届けようとしている 現状もあります。
自粛解除へむけて徐々に世の中が動きだす中、こども食堂の再開について川久保さんは「(再開すると)あまり大きな声では言えない」と語ります。
「みんな(再開したくて)ムズムズしているようですけど、やはり感染拡大につながってはいけないと思います。とはいえ、子どもたちのことも心配だし、いろいろやりたいと思うことはありますけど」と、状況をみながら慎重に再開に向けて動きだすことになるだろうと言います。
また、今後の課題については「今回の取り組みで、新たに支援を求めてきた人たち、また関心をもって寄付をしてくれた人たちを、どうつなぎとめて、今後の支援につなげていくかが課題」だとも話しました。