新宿DASH ~ニホンミツバチ~
5年間追い続けてきたニホンミツバチの大群が、ついに新宿のビル屋上のDASHのベース基地に!
動き出したのは、5年前の2017年。福島DASH村のように豊かな環境にしか棲むことができず、大都会では絶滅寸前で、棲みつく可能性は5%以下のニホンミツバチを呼ぶため、必要不可欠な水飲み場、風と直射日光から巣箱を守る小屋、いつでも蜜が吸える花壇を作ってきた。
そして、4年目。偵察バチが巣箱の中へ!
しかし、7日続いた長雨の影響か、その偵察部隊がいなくなってしまった。
ならば1年延長!新宿ミツバチプロジェクトは5年目へ突入!
今年3月、太一と岸が向かったのは東京都府中市の、去年ブルーベリーをいただいた東京農工大学。
10年以上養蜂を研究する職員の乃万さんに相談しに行くと、岸が鉢に植えられた植物を発見。
「引っ越し(巣分かれ)するミツバチがやってくる。日本のミツバチ養蜂家にとっては“バイブル"」と乃万さんが言うこの植物は、キンリョウヘンという蘭の仲間。
ただし、このキンリョウヘンは、ベース基地に植えているブルーベリーのように、蜜を出してミツバチを呼ぶ植物ではないという。
そもそも花が甘い蜜を出すのは、ミツバチなど「ポリネーター(花粉媒介者)」と呼ばれる昆虫におしべの花粉とめしべを受粉してもらい、子孫となる種を残すため。
このキンリョウヘンの場合、蜜ではなく、「集合フェロモンを出す」
このフェロモンは、蜂球と呼ばれるハチの塊(集団)をつくるのに欠かせないもの。
「それは、岸君に見せたい画だよ」
そしてこの蜂球こそ、ミツバチのお引っ越しの際には欠かせない。というのも、8000匹にも及ぶ大所帯。
新居に向かうまでの間に、迷子にならないよう、要所要所で集まり体制を整える必要が。
その際、働き蜂達が出す化学物質こそが集合フェロモン。
蜜が出ない蘭の仲間キンリョウヘンはそのフェロモンとほぼ同じ成分を花から出すことで受粉してもらう。
つまり、キンリョウヘンが物件の目印になることで、万が一お引っ越しのタイミングで雨が降っても、イチイチ体制を整えなくても一瞬の晴れ間を縫って素早くやってこられるはず!
乃万さんから大学にあったストック分のキンリョウヘンとミツロウを分けていただいた。
ミツロウは、ハチミツを絞った後の巣からその主要成分であるロウを取り出し固めたもの。
キャンドルや化粧品としても使われるが、巣箱に塗ることで、以前仲間が暮らしていたという安心感を。
キンリョウヘンとミツロウ、この2つがミツバチが来るためのラストピースとなるか?
早速、ベース基地に戻り、5年前に作った巣箱を解体しミツロウを塗る。「今年こそは来てほしいね」
1週間後、神田川沿いの桜が満開を迎えた4月上旬。
巣箱の目の前に植えた菜の花に偵察バチが!「これ周りの環境見てるんじゃない?」
群れの命運を握るとも言われる物件探しのプロ・偵察バチは、巣箱の周りの環境や、安全性・中の広さに至るまで入念にチェック。気に入ると仲間達に報告し、最終審査は20匹以上の集団で!
無事合格となれば、女王蜂と一緒にやってくる。
その2週間後、小屋の中のブルーベリーも咲き、環境も整っていた。
すると、1匹の偵察バチが巣箱の入り口付近に!入り口がわからないのか、中に入ることなくいなくなってしまったが、偵察バチの内見は去年よりも1か月ほど早く「期待大だよ」
さらに、キンリョウヘンの花が本格的に咲くのはこれから。
「これからフェロモン大パーティが始まるから。待とう、もうちょっと」
そして、キンリョウヘンが満開を迎えた4月下旬。ついに動きが…。
1匹の偵察バチが、触角にある優れた匂いセンサーで、巣箱内のミツロウの匂いを感じ取り、巣箱の中へ!
さらに、30分後、巣箱の周りにも沢山の偵察バチが。内見は最終審査へ!
しかし、今年も大雨が…。巣に戻れなかった偵察部隊が取り残されたまま…。
その翌日。4月27日午前9時。この日もあいにくの空模様だったが、スタッフが様子を見にいくと…
「めっちゃいますね。入り口だけで10匹以上います」
その40分後、ついに待望の晴れ間が!
1時間前には少なくとも10匹以上いた偵察バチが、どんどん数を減らし…「いなくなっちゃいました」
実は、これこそが5年間待ち望んだ、お引っ越しの前触れだった。
5分後、推定8000匹のミツバチがベース基地上空に!その群れがミツバチ小屋の方へ!
偵察部隊は、雨上がりの晴れ間を縫って元の巣へ仲間達を迎えに行き、キンリョウヘンから放たれる集合フェロモンを目印に集まってきた。さらに、働き蜂自身がお尻から集合フェロモンを出し、キンリョウヘンに群がる仲間達に入り口の場所を伝える。
こうしてわずか30分で、大都会では絶滅寸前、5年間追い続けた野生のニホンミツバチのお引っ越し完了!
無事お引越しを見届けたところで、この日は別の仕事で来れなかった太一と岸に報告!
「やっとだね!うれしいね!」「最高の緊急事態じゃないですか」
そんな2人が気になっているのは「女王蜂が先頭で来るのか」
しかも女王蜂は8000匹の中で唯一、働き蜂を産むことができる群れの生命線。
事故なく無事入居したことをすぐにでも確認せねば!スタッフが観察カメラでチェック!
すると、引っ越し開始から5分後…「いた!いました。デカいです」
間違いなくこの群れの女王様。この後、卵を産み、働き蜂達による子育てが始まるのだが、棲みつく可能性は5%以下のニホンミツバチ。引っ越してすぐはナイーヴで気に触ることがあると、逃げ出してしまう。そのため、暑さに弱いミツバチのために、農業用の寒冷紗で日陰を!
さらに、大学の校内にミツバチが迷い込まないようネットを張る。
引っ越しから2週間後の5月中旬。太一と岸がやってくると「めっちゃいる!」「来ましたね!」
そして「ついてる?ついてない?」と2人が探しているのは、花粉をつけた働きバチ。
働き蜂が集めた花粉は、通称「ハチパン」と呼ばれ、赤ちゃんの餌に。
つまり、花粉をつけたハチが出入りしていれば無事子育てが始まり、完全に棲みついたという証に。
なかなか見つからず、ここまで来てダメか…と思った矢先「ついてる!よかった!」「子育てしてるよ」
棲みつく可能性5%以下のニホンミツバチが、ついに棲みついてくれた!
しかも、ミツバチが棲みついてくれたことで、屋上のイチゴやブルーベリーなどの作物はもちろん、ここから2km圏内にある柿やドングリなどの実も増やし、新たな生態系を作ってくれるはず!
そして、巣の中にはミツバチがもたらすあの恵みも出来つつあった。