2003年11月18日
日本テレビは本日、視聴率操作調査委員会から調査結果を受け取りました。
1 本調査の目的
本調査は、本件「視聴率操作」における不正行為の実態、背景事情と動機及び原因、工作資金の金額及び捻出方法、協力者を含む関係者の特定など、事実関係を明らかにして社会に公表するとともに、かかる不正行為を防止するための方策等についても検討することを目的とした。もとより、関係者の協力を前提とする任意の調査であり、協力を得られなかった場合もあり、十全なものとはいい難いことをお断りしておきたい。
2 調査委員会
(1) 本委員会
委員長 江幡 修三 弁護士
委員長代行 河上 和雄 弁護士
委員 山川洋一郎 弁護士
委員 五木田 彬 弁護士
委員 原 章 日本テレビ取締役 業務監査委員会委員長
委員 山本 時雄 同常勤監査役
事務局員 北澤 和基 同業務監査委員会事務局長
事務局員 石井 修平 同審査室長兼法務部長
(2) 事実関係調査小委員会
五木田委員を小委員会委員長として以下14名。
3 調査期間・調査に要した時間
平成15年10月27日~11月17日
調査従事者 合計 19名
延べ時間 合計 およそ4545時間
(小委員会委員が連日深夜に及び調査に従事)
委員会開催回数 平成15年10月27日から11月18日まで 6回
4 調査方法
(1) 資料の分析検討
編成局、経理局、人事局、総務局より、番組コード一覧、番組スタッフ表、請求書・一般支払照合表など番組制作費の支払関係記録、人事記録など関係資料の提供を受けたほか、本人である編成局安藤正臣プロデューサー(以下「当該プロデューサー」または「本人」という)の同意を得て、同人の業務ノート、銀行預金通帳、調査会社との契約書、調査会社の報告書など関連資料の提出を受け、それぞれ分析検討を行った。
(2) 関係者からの聞き取り調査
当該プロデューサーを含む調査会社・制作会社などの関係者合計13名より事実関係を聞いたほか、番組制作スタッフとして日本テレビ社員14名、制作会社関係者24名、日本テレビの経営陣を含む幹部14名などからヒアリングを実施した。
調査対象者の内訳は以下のとおりである。
<1> 本人及び家族
・安藤正臣 本件プロデューサー
・妻
<2> 調査会社(視聴率調査対象世帯の割り出しを担当したもの)
・調査会社A 代表a
・調査会社B 取締役b1
・同会社 経理担当b2
<3> 制作会社等(架空・水増し支払の受け皿となったもの)
・調査会社A 代表a
・制作会社C 代表取締役c1
・制作会社D プロデューサーd
・制作会社E プロデューサーe
・制作会社F 取締役f
・旅行代理店G 部長g
・コンピュータソフト会社H 代表取締役g(上記部長gと同一人物)
<4> 交渉役(視聴率調査対象世帯への交渉を担当したもの)
・c1 制作会社C(平成12年11月倒産)社長
・c2 c1の元妻
・i1 制作会社I代表
・i2 同社スタッフ
<5> 日本テレビ役員・社員 合計 28名
<6> 制作会社社員 合計 24名
<7> 日本テレビ全社員
全社員に対する緊急質問調査により、この種事案の存在についての知識の有無につき聞き取り調査を実施した。
日本テレビ全社員数:1311人
返答:1137通(平成15年11月17日現在)
なお、民放労連日本テレビ労働組合に対しても、調査の協力を求めたが拒否されている。
<8> 株式会社ビデオリサーチ
株式会社ビデオリサーチに対し、視聴率調査対象世帯の特定等の協力を求めたが、拒否されている。
5 調査の結果
(1) 当該プロデューサーの身上経歴
当該プロデューサーは昭和36年12月18日生まれ、満41歳。一橋大学社会学部を卒業し、昭和59年4月、日本テレビへ入社し、同年5月、スポーツ局(当時、その後編成局に改組)に配属され、スポーツニュース、各競技の中継ディレクター、スポーツ情報番組のディレクター(以下「D」という)を担当した。
その後の平成3年11月、当該プロデューサーは制作局(当時、その後編成局に改組)へ異動し、「あしたP-KAN気分」「投稿!特ホウ王国」の各D、「だんトツ!!平成キング」チーフD、「ウルトラクイズ」プロデューサー(以下「P」という)、「世界まる見え!テレビ特捜部」Dを担当し、平成8年2月からは編成局として「24時間テレビ」D、「平成あっぱれテレビ」D、「びっくり人間スペシャル」チーフD、「奇跡の生還!芸能人特別版」P・D、「芸能人凶悪犯罪被害!」P・D、「生でハッスル挑戦TV」チーフDなど、単発のスペシャル番組を多数担当し、現在に至っている。
(2) 本件の背景及び動機
<1> 背景事情
当該プロデューサーは平成3年11月から制作局へ移動し制作の現場に携わるようになったが、視聴率により番組制作能力が評価され視聴率に貢献することが人事評価にも必然的に反映されざるを得ない視聴率重視の空気が日本テレビを含む業界に存在していた。
当該プロデューサーは、視聴率を上げるためには、視聴者が面白いと感ずる番組を作る必要があり、そのためには奇想天外のアイディアばかりでなく、例えば、他のDならば普通使わないような刺激的な映像等を駆使する方法も取っていた(日本テレビ編成局の多数人の証言)。
また、視聴率への関心についていえば、番組で選んだモニターを集計して、株式会社ビデオリサーチが算出する視聴率とは違う、独自の視聴率を算出して番組の演出に用いたり、番組放送中に、スタッフに対し「友達に電話して、どの番組を見ているか聞いてみろ」などと指示し、その結果、「今の視聴率は何パーセントだ」と発言するなど、視聴率を上げることのみならず、視聴率の仕組みそのものに強い関心を示していたことを推察させる証言が得られた(日本テレビ編成局・イ及び制作会社所属・ロの証言)。
視聴率に対する当該プロデューサーの姿勢については、「視聴率へのこだわりは意欲的だった」(日本テレビ幹部・ハの証言)、「頼るべきは視聴率であり、面白い面白くないを視聴率で決める人だ。毎分の視聴率をあんなに大事にする人は見たことがない」(制作会社所属・ニの証言)、「日ごろから視聴率に関心の高い人で、どうすれば視聴率が取れるかとよく言っていた」(制作会社所属・ホの証言)、「視聴率をとりたいという意欲は非常に強い人だ」(日本テレビ編成局・ヘの証言)など、多数の証言が得られている。
しかしながら、当該プロデューサーは、こうした積極姿勢の反面、視聴率というものは、もともと民間会社1社の調査データに過ぎず、さほど神聖なものではないとの認識を持ち続けていたと供述している。
また、当該プロデューサーは、制作現場においても同僚らと「モニター機械のある家に行ってお願いすれば視聴率は上がるんじゃないか」などと冗談めかして話したことがあるとも述べており、一般論として現場におけるこうした会話を裏付ける証言もある(日本テレビ編成局・トの証言)。
当該プロデューサーは、平成9年10月から放送された日曜日ゴールデンタイムのレギュラー番組「だんトツ!!平成キング」チーフDを担当し、大いに意欲を燃やしたが、その平均視聴率は9%台に低迷し、同番組は翌平成10年3月に打ち切りとなった。
上記「だんトツ!!平成キング」のチーフDを担当していた間、当該プロデューサーは同番組Pであった日本テレビ幹部・ハに「興信所を使って調べれば視聴率の機械がついている家がわかるんじゃないですか。その家に行って頼めば視聴率も何とかなるんじゃないですか」などと話し、この日本テレビ幹部・ハが「何をバカなことを言っているんだ」と返答した経緯がある(日本テレビ幹部・ハの証言)。
上記番組の打ち切り後、当該プロデューサーはレギュラー番組を担当することなく、もっぱら番組編成時期と年末年始のスペシャル番組を担当していたが、「スペシャル番組だけでレギュラー番組を担当しないということは第2線級であるとの評価であり、当該プロデューサーは番組企画書を上司へ大量に提出し、レギュラー番組を持ちたがっていた」(日本テレビ幹部・チの証言)ものと見られる。
また、当該プロデューサーは、同僚などに対して「俺は番組がこけたら終わりだ、俺は主流じゃない、視聴率15%を取らないと俺はもう駄目だ、土俵際だ」などと心中に抱える不安を漏らしており(日本テレビ編成局・リの証言)、「特番では必ず数字を取らなければ立場を失うという焦りやプレッシャー」(日本テレビ編成局・ヌの証言)を抱えていたと見られる。
<2> 動機に関する当該プロデューサーの供述
当該プロデューサーは、本件視聴率操作の動機につき、「視聴率を取れば優秀なD、Pと言われ会社から評価されるので、自分としては<視聴率さえ上げれば何をやってもいい>という感覚があった。また、きれいごとを言わずに視聴率重視を唱える社長の姿勢にも感銘を受けていた。視聴率というものについては、以前は調査会社としてニールセンとビデオリサーチの2社があったが、最近はビデオリサーチ1社だけになっていたので、視聴率と言ってもそんなに神聖なものではなく、所詮は民間会社1社による調査データに過ぎないと思っていた。制作現場では同僚らと<モニター機械のある家に行ってお願いすれば視聴率は上がるんじゃないか>などと冗談めかして話したこともあり、調査会社に頼んで視聴率調査世帯を探してもらえば20軒くらいはすぐに見つかるだろうし、その世帯に依頼すれば簡単にOKして自分の指定する番組を見てもらえるだろうと考え、本件視聴率工作を思い立った。これにより担当番組の視聴率が0.1%しか上がらなかったとしても、14.9%と15.0%では大違いであり、不正工作による結果であったとしても視聴率が上がることはうれしいしいことだった。視聴率を上げることはひいては会社のためにもなると思っていた」などと供述している。
<3> 小括
上記当該プロデューサーの供述と前記の背景事情を併せ見ると、本件視聴率操作は、編成局における自己の立場と評価に強い危機感を覚えていた当該プロデューサーが、視聴率獲得を重視する会社の方針を自己の都合のよいように取り違え、視聴率獲得のためには何をやってもよいとの独断の下に、番組制作費等の水増し等により工作資金を捻出し敢行したものであり、会社内における自己の評価を高めるためになした行為であったと考えられる。
(3) 本件視聴率操作に至る経緯
当該プロデューサーの供述、前記関係者からの聞き取り調査結果、会社及び当該プロデューサーから提出を受けた関係資料の分析検討等により、本件視聴率操作に至る経緯として、以下の事実が認められる。
<1> 当該プロデューサーは、前記(2)に記載した心情を背景に、平成10年ころ、興信所に頼んで探してもらえばビデオリサーチの視聴率調査対象世帯が見つかるのではないかと思い立ち、調査会社Aという興信所に出向き相談してみたところ、同所担当者から「面白いね、できるだろう」との返答を得た。
当該プロデューサーは上記返答を得たまま2年ほど放置していたが、平成12年3月22日、調査会社Aに対し視聴率調査対象世帯の割り出し調査を依頼し、初期作業料として60万円を同会社に振り込み送金した(当該プロデューサー名義普通預金)。
さらに、同年6月ころ、調査会社Aから対象世帯が判明しそうなので追加資金を直ちに支払うよう請求を受けた当該プロデューサーは、当時ラスベガスに出張中であったことから、妻に連絡して上記普通預金口座から現金119万円を払い戻し同会社への支払を行わせた(同上)。
<2> このようにして当該プロデューサーは視聴率調査対象世帯の割り出し調査費用として調査会社Aに合計179万円を支払ったが、これを自己の負担とするには金額が大きすぎると思い、上記の出費を補填するため、日本テレビのPである自己の立場を利用して制作会社等から金額を水増しした番組制作費等の請求書を提出させ、日本テレビに当該制作費の支払をさせたうえ、その水増し部分を制作会社等から自己へキックバックさせる方法により資金を回収しようと考えた。
そこで、当該プロデューサーは、制作会社Dに指示して金額を水増しした請求書を提出させ、これに基づき金額の水増しされた制作費1186万5000円を日本テレビから制作会社Dへ支払わせ、そのうち50万円を制作会社Dから調査会社Aへ支払わせ、同額を調査会社Aから自己の銀行口座に振り込み送金させて回収した。
また、上記とは逆に、先に調査会社Aから自己の銀行口座に50万円を振り込み送金させて自己の出費を回収した後、これを補うべく架空の調査費用63万円を日本テレビから調査会社Aに支払わせた事実もある。
平12.8.7 NTV→制作会社D 1186.5万円
平12.8.10 制作会社D→調査会社A 50万円
平12.8.14 調査会社A→本人 50万円
平13.6.15 調査会社A→本人 50万円
平14.2. 5 NTV→調査会社A 63万円
<3> 同様に、当該プロデューサーは、制作会社である制作会社C(代表取締役c1)に対しても、日本テレビをして金額を水増しした制作委託費を支払わせ、指定した金額を自己の銀行口座に振り込み送金させる方法により合計80万円のキックバックを得ていた。
平12.5.15 NTV → 制作会社C 472.5万円
平12.8.7 NTV → 制作会社C 483万円
平12.8.16 c1 → 本人 60万円
平12.11.6 NTV → 制作会社C 84万円
平12.11.8 c1 → 本人 20万円
<4> 平成13年11月ころ、調査会社Aから当該プロデューサーに対し調査結果の報告がなされ、同年11月9日付け同会社作成の報告書によれば、視聴率調査対象世帯11軒が判明し、ビデオリサーチの車両4台のナンバーが特定された。そこで、当該プロデューサーは、同年11月ころ、視聴率調査対象世帯に対する工作を実施するため、制作会社Cの代表取締役であったc1に視聴率調査対象世帯への交渉を依頼した。
同会社は平成12年11月に倒産しており、当該プロデューサーから上記の依頼を受けた当時のc1は個人で番組制作の下請をしていた。
当該プロデューサーは、上記交渉にかかるc1への報酬を1軒訪問ごとに2万円、その世帯が番組視聴を承諾した場合は1軒につき1万円をプラスするものとし、対象世帯に対する謝礼としては、1番組を承諾するごとに商品券1万円とし、視聴を依頼する番組については、後日、当該プロデューサーが当該世帯に電話連絡して指定することとした。
<5> これらに要する工作資金として、当該プロデューサーは、前同様に制作費の水増しにより原資を捻出することとし、c1が紹介した制作会社Eに対し日本テレビから金額の水増しされた制作費220万5000円を支払わせ、うち60万円を同会社からc1宛に振り込ませる方法により、同人に工作資金を提供した。
同様に、日本テレビから制作会社Eへ水増し制作費126万円を支払わせ、うち現金40万円を同会社からc1に交付させ工作資金とした。
他方、当該プロデューサーは、この間の平成13年5月から11月ころ、c1から合計20万円のキックバックを受け、これを自己の資金としていた。
※平13.3.5 NTV→制作会社E 220.5万円
平13.2~3 制作会社E→c1 60万円
平13.6.22ほか c1→本人 7万円
平13.5~11 c1→本人 13万円
平14.1.7 NTV→制作会社E 126万円
平13.12.21 制作会社E→c1 40万円
<6> しかしながら、c1による交渉は一向に成果が上がらず、そのため当該プロデューサーは、他の交渉役を必要と考え、平成14年1月ころ、c1に代わるものとして、同人より制作会社I代表のi1と同社スタッフのi2を紹介された。
この両名をして交渉に当たらせたところ、同14年1月ころ、2世帯から番組視聴の承諾を得ることができたが、当時は当該プロデューサーが担当し視聴率工作をすべき番組がなかったので、番組を指定して視聴依頼をなすには至らなかった。
<7> その後、水増し制作費の受け皿となっていた制作会社Eがこれを続けることに難色を示したため、当該プロデューサーは新たな受け皿会社を探すこととし、c1にもその旨依頼していたところ、平成14年1月ころ、c1から制作会社Fを紹介された。
これにより当該プロデューサーは、視聴率操作のための工作資金を捻出するため、前同様の方法により、日本テレビから制作会社Fへ水増し制作費252万円を支払わせ、そのうち124万7290円を同会社からc1へ振り込み送金させ、制作会社Iに対しても現金26万2500円を交付させた。また、c1から現金65万円を交付させ、自己資金とした。 平14.3.5 NTV→制作会社F 252万円
平14.3.6 制作会社F→c1 124.729万円
平14.3 c1→本人 65万円
平13.12.26 制作会社F→制作会社I 26.25万円
<8> 次いで当該プロデューサーは、視聴率調査対象世帯に対する新たな交渉役として、平成14年2月ころc1の元妻c2に依頼し、以後は、専らc2が対象世帯に対する番組視聴の依頼を行うようになった。
同女に対する報酬は、前同様に、1軒訪問するごとに2万円とし、番組視聴の依頼を承諾させた場合は1軒につき1万円をプラスするものとした。
また、対象世帯に対する謝礼も1番組の視聴に応ずるごとに商品券1万円とし、番組については、後日、当該プロデューサーが当該世帯に電話して指定することとした。
<9> ところが、視聴率調査対象とされる世帯を訪問したc2から「行ったけれどモニター機械が付いていなかった」との報告を受け、これが相次いだことから、平成14年7月ころ、当該プロデューサーは、これまで依頼してきた調査会社Aの調査内容に不信を抱くようになった。
そこで当該プロデューサーは、新しい興信所を電話帳で捜すなどして物色し、調査業組合に加盟している数社と交渉の末、同年7月12日、調査会社Bに新たな調査を依頼して1件分の調査料10万5000円を支払い、同月23日には9件分94万5000円をいずれもとりあえず自費により支払った(94万5000円の領収書)。
その後の工作資金については、前同様に、番組制作費の水増しにより原資を調達することとし、当該プロデューサーは、平成14年9月5日、日本テレビをして制作会社Fに水増し制作費472万5000円を支払わせ、そのうち105万円を同会社から調査会社Bに振り込ませて追加の調査費用(振込額104万9265円)とし、さらに制作会社Fからc1へ44万9580円を振り込み送金させ、c2への工作資金とした。
また、同年10月31日、日本テレビから制作会社Fへ水増しされた制作費525万円、同年11月20日、同様の水増し制作費168万円をそれぞれ支払わせ、そのうち157万5000円を制作会社Fから調査会社Bに振り込ませて調査費用とし、さらに89万9790円を制作会社Fからc1へ振り込み送金させて追加の工作資金とし、これら資金のうち約40万円が同人からc2へ交付された。
平14.9.5 NTV→制作会社F 472.5万円
平14.10.10 制作会社F→調査会社B 104.9265万円
平14.9.10 制作会社F→c1 44.958万円
平14.10.31 NTV→制作会社F 525万円
平14.11.20 NTV→制作会社F 168万円
平14.11.22 制作会社F→調査会社B 157.5万円
平14.11.22 制作会社F→c1 89.979万円
<10> これらの工作資金調達と並行して、c2による視聴率調査対象世帯への交渉は継続して行われ、10数世帯に交渉した結果、当該プロデューサーは、平成14年8月ころまでに、番組の視聴を承諾してくれた世帯合計6軒を獲得した。
以後、当該プロデューサーは、これら6世帯に対し、番組を指定して視聴を依頼し、承諾が得られた番組1本ごとに商品券1万円を交付する方法により視聴率操作を行ってきた。 <11> しかるに、平成14年12月、株式会社ビデオリサーチの代理人弁護士より調査会社Bとc2へ内容証明郵便が送付された。
同郵便は、視聴率調査対象世帯への訪問と同会社車両に対する尾行を指摘し、これらの行為が偽計業務妨害罪に該当することを警告するとともに、行為の有無、目的、依頼者などにつき回答を求める内容であった。
これに驚愕した当該プロデューサーは、調査会社Bによる調査活動を停止させ、c2に対しても視聴率調査対象世帯に対する工作を中止させるとともに、同女とその子供を実家へ避難させた。
<12> これにより当該プロデューサーは調査会社と視聴率調査対象世帯に対する交渉役とを失ったが、平成15年3月ころから、当該プロデューサーが直接上記6世帯に電話をかけて番組の視聴を依頼する方法により、視聴率工作を再開した。
同時に当該プロデューサーは、番組制作費の水増しによる工作資金の調達も再開させ、平成15年3月5日、日本テレビから制作会社Fへ水増しされた制作費283万5000円を支払わせ、そのうち8万9160円を制作会社Fからc1へ振り込み送金させて今後の工作資金とし、制作会社Fに自己の飲食代金領収書を現金20万円で買い取らせた。
また、平成15年2月にロンドンへ出張した際の往復航空券を旅行代理店Gの部長gに手配させたうえ、金額が水増しされた出張旅費54万5100円を日本テレビから旅行代理店Gへ支払わせ、水増し金額21万9000円を部長gに交付して今後の工作資金とした。
さらに、調査会社Bに代わる新たな調査会社に依頼する際の資金に当てるため、平成15年6月5日、水増しされた制作費504万円を日本テレビから制作会社Fへ支払わせ、このうち115万5000円を制作会社Fから部長gが代表取締役を務めるコンピュータソフト会社Hへ振り込み送金させた後、コンピュータソフト会社Hの代表取締役gから2回に分けて現金100万円の交付を受け、これを自己資金とした。
加えて、当該プロデューサーは工作資金を捻出するため、平成15年9月30日付で制作会社Fから、本来の請求額350万円に100万円を水増しした金額に消費税を加えた472万5000円の請求書を提出させ、これに基づき制作費支出のための「一般支払照合票」を作成し、日本テレビをして上記支払を行わせるための決裁手続に上げたが、同年10月24日に本件が発覚したことから、日本テレビが当該支払手続を停止し、実際の支払には至らなかった。
平15.3.5 NTV→制作会社F 283.5万円
平15.2~4 制作会社F→c1 8.916万円
平15.4 制作会社F→本人 20万円
平15.4.30 NTV→旅行代理店G 54.51万円
旅行代理店G→g 21.9万円
平15.6.5 NTV→制作会社F 504万円
平15.6.30 制作会社F→コンピュータソフト会社H 115.5万円
平15.7~ コンピュータソフト会社H→本人 100万円
平15.9.30 制作会社F→NTV 請求書472.5万円
(4) 協力者等の有無
以上の経緯に照らし、本件視聴率工作に関与し協力してきた者として、
<1> 視聴率調査対象世帯の割り出し調査を担当した調査会社(調査会社A、調査会社B)の担当者
<2> 架空・水増し支払の受け皿となった制作会社等(調査会社A、制作会社C、制作会社D、制作会社E、制作会社F、旅行代理店G、コンピュータソフト会社H)の代表取締役又は担当者
<3> 交渉役として視聴率調査対象世帯への交渉を担当したc1、c2、i1、i2などが存在していたことは明らかである。
(5) 日本テレビ役員・社員の関与の有無
当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員が本件に関与していたか否かについては、
<1> 上記関係者から多数回にわたり聞き取り調査を実施したが、当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員の名前は全く出なかったこと
<2> 前述した本件背景事情と動機も、当該プロデューサーが単独で本件視聴率操作を敢行してきたことを裏付けるものと思料されること
<3> 日本テレビ役員・社員、制作会社関係者などからのヒアリング、日本テレビ全社員を対象とした緊急質問調査によっても、日本テレビ内部において本件視聴率工作に関与・協力した者の存在を窺わせるに足る形跡は見当たらないこと
<4> 当該プロデューサーは一貫して「日本テレビの他の役員・社員の関与はない」と述べていること
などの事実があり、前述した本件事実経緯を含め当委員会が調査したところを総合しても、当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員が本件視聴率工作に関与したとは認められない。
(6) 視聴率操作の対象となった世帯
上述した経緯により、当該プロデューサーがc2らを介し10数世帯に対し指定する番組の視聴を交渉し承諾を獲得した世帯は合計6軒であったと認められ、当該プロデューサーは、これら6世帯に対し、番組を指定して視聴を依頼し、承諾が得られた番組1本ごとに商品券1万円を交付する方法により視聴率操作を行ってきた。
この6世帯については当該プロデューサーが作成したリストが残存し、関係資料との照合から、平成14年1月ころi1とi2の交渉により番組視聴の承諾が得られたとされる2世帯も、上記6世帯に含まれることが判明している。
また、株式会社ビデオリサーチが本年10月27日に公表したところによれば、上記6世帯のうち、視聴率調査対象世帯は3世帯のみであり、残る3世帯は視聴率調査とは別の「顧客からの受注調査対象世帯」であったとのことである。
これらによれば、当該プロデューサーらによる依頼を承諾し本件視聴率操作の対象となった世帯は上記6世帯であり、そのうち3世帯は、視聴率調査対象の世帯ではなかったこととなるから、本件工作が視聴率調査に影響を及ぼした世帯数は最大でも3世帯に止まるものと見られる。
また、当該プロデューサーは、本件視聴率操作の全体を通じ、指定した番組の視聴を承諾してくれた世帯は、上記6世帯のうち最少で1世帯、最多で4世帯であったと供述しており、これを事実とすれば、承諾した世帯が最多の4世帯で、その中に視聴率調査対象世帯である3世帯がすべて含まれていた場合においても、視聴率調査に影響を及ぼした世帯数は最大3世帯(番組全時間視聴の場合最大0.5%)であったこととなる。
同様に、承諾した世帯が最小の1世帯で、これが視聴率調査対象の世帯に含まれないというケースも存在した可能性があることとなり、その場合は視聴率調査に影響を及ぼした世帯数はゼロであったことになる。
なお、上記6世帯中の視聴率調査対象世帯と顧客からの受注調査対象世帯の内訳、特定については、株式会社ビデオリサーチから回答を拒否されたため判明していない。
加えて、当委員会では、上記6世帯に対しても、事実関係の解明を目的とする聞き取り調査実施のため、電話により訪問の要請をしたところ、その直後に株式会社ビデオリサーチから当委員会に対し上記世帯への聞き取りを拒否する旨の申し入れがあったため、個別の聞き取り調査を中断し、上記6世帯に対する調査を実施しないまま現在に至っており、承諾した世帯が実際に視聴したかどうかについては不明である。
(7) 視聴率操作の対象番組
本件視聴率操作の対象となった番組名としては、日本テレビ7番組のほか、他局6番組、合計13番組が判明し特定されている。
(8)本件と無関係な視聴率操作について
本件調査の過程で、昭和57年ころ、当時のネットワーク加盟社の一部社員が本件類似の操作をした疑いが生じたが、すでに相当期間を経過しているため、事実か否かを確認することができなかった。
6 法的問題点
(1) 視聴率操作について
視聴率は言うまでもなく番組及び制作担当者に対するひとつの評価基準に過ぎないが、同時に視聴率のほかに客観的かつ現実的な評価の手段が存在しないことも、我が国テレビ業界においては周知のところである。
かかるテレビ業界に身をおく者として、本件のごとき視聴率に人為的工作を加える行為が決して許されるものでないことは多言を要しないところである。
しかしながら、本件視聴率操作に対する刑法的評価を検討すると、本件行為が視聴率調査会社の業務に対する犯罪を構成する可能性はあるものの、視聴率操作行為自体を直接的に処罰する規定はなく、放送法その他関係法令においても、この種の行為そのものに対する罰則規定は存在しない。
(2) 架空支払・水増し支払について
本件においては、当該プロデューサーが制作会社に指示して金額が水増しされた請求書を提出させ、当該番組の担当Pである当該プロデューサーにおいて、上記請求書に基づいて支払金額を水増しした内容虚偽の支払伝票を作成し、これを同人の上司であるチーフプロデューサー(以下「CP」という)、編成局長を経て経理局長への決裁に上げたものであり、情を知らない経理局長が当該支払伝票に記載された金額を真正なものであると誤信し、その誤信に基づき小切手を発行し当該支払を実行したものと認められる。
従って、刑事法上、上記各制作費の水増し支払ごとに刑法246条1項の詐欺罪が成立する可能性があり、この理は制作費の架空支払についても同様である。
本件において日本テレビの実損額に相当する本件架空及び水増し部分の実質金額は、14件合計1007万6585円である。
当該プロデューサーが本件視聴率操作に用いた工作資金の総合計は875万2584円である。
当該プロデューサーがとりあえず自費から支払った金額は合計320万円、水増し制作費等からキックバックを受けた金額の合計は415万円であり、本件における当該プロデューサー個人の収支としては95万円のプラスとなる。
また、民事法上は、上記実損額につき、会社が当該プロデューサーに対して損害賠償請求権を有することになる。
7 調査の総括
以上に述べたとおり、
(1) 本件視聴率操作は、編成局における自己の立場と評価に強い危機感を覚えていた当該プロデューサーが、視聴率獲得を重視する会社の方針を自己の都合のよいように取り違え、視聴率獲得のためには何をやってもよいとの独断の下に、番組制作費等の水増し等により工作資金を捻出し敢行したものであり、会社内における自己の評価を高めるためになした行為であったと考えられる。
(2) 当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員の関与の有無については、65名に及ぶ上記関係者から複数回にわたり聞き取り調査を実施したが、当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員の名前は全く出なかったこと、本件背景事情と動機も、当該プロデューサーが単独で本件視聴率操作を敢行してきたことを裏付けること、日本テレビ全社員を対象とした緊急質問調査によっても、日本テレビ内部において本件視聴率操作に関与・協力した者の存在を窺わせるに足る形跡は見当たらなかったこと、当該プロデューサーは一貫して「日本テレビの他の役員・社員の関与はない」と述べていることなどの事実があり、本件事実経緯を含め当委員会が調査したところを総合しても、当該プロデューサー以外の日本テレビ役員・社員が本件視聴率操作に関与したとは認められない。
(3) 本件に対する刑事法的評価としては、本件視聴率操作が視聴率調査会社の業務に対する犯罪を構成する可能性があり、番組制作費等の架空・水増し支払についても刑法246条1項の詐欺罪を構成する可能性があると思料される。
8 日本テレビ放送網株式会社に対する提言
(1) 当該プロデューサーに対しては、会社の就業規則、その他の規則、従来の不正行為についての前例などを参考にして厳正な処分がなされるべきである。会社は、今回の不正行為が基本的には、ビデオリサーチ社一社のみによる視聴率を唯一の基準としているテレビ業界の極めて不完全な現実を当然のものとして受け入れていた点に最大の原因が存在していることを真摯に反省し、この点について十分な検討と対策を考慮しないままに人事管理を行っていたことが当該プロデューサーの行為の引き金になっていること、一方において、制作現場における資金の使途についての管理が十分でなく、これを厳格にすることは困難であるというこの業界の悪しき常識を安易に肯定していたことなどが原因である点に責任を痛感すべきである。今後これらの点を是正すべく、業界に働きかけるはもとより自社内部においてもより客観的かつ不可侵的な視聴傾向把握のための制度を導入するようにすべきであり、さらに人事管理の一層の適正化を進めるとともに、経済界の常識に従ってコーポレートガバナンスの観点からコンプライアンス体制とりわけ厳格な内部統制システムの確立に努めるべきである。
(2) これをさらに敷衍すれば、本件視聴率操作が重大な背信行為であり、テレビ業界に身をおく者として本件のごとく視聴率に人為的な工作を加える行為が断じて許されるものでないことは前述のとおりであるが、番組及び制作担当者に対する評価基準として、視聴率のほかには客観的かつ有効な評価手段が存在しないとの現実が本件視聴率操作に付け入る余地を与えたという側面があることは否定できない。従って、今後同種事案の再発を防止し、視聴者及びスポンサーの信頼を維持していくためには、視聴率以外に客観的評価の手段が存在しないという現実を安易に肯定することなく、視聴率を超える合理的な評価手段を構築することに不断の努力を傾注すべきであり、テレビ業界全体とも連携のうえ、客観的で合理的な新たな評価基準の確立に努める必要がある。
また、視聴率が民間会社1社の調査データに過ぎず、視聴率調査の分野において自由な競争が存在しないことが、本件視聴率操作を容易にさせた側面があることも否定できないところである。従って、この点についても安易に現状を肯定せず、上記分野における自由な競争と今後の発展を視野に入れた施策を業界全体に働きかけて検討すべきである。
さらに、本件における番組制作費等の架空・水増し支払がなされた背景には、大まかな支払方法があり、これを止むを得ないとするテレビ業界の悪しき慣行がある。
端数のない大まかな金額が記載された請求書が制作会社より提出され、これに対する特段の調査点検なくして請求額どおりの支払が行われるという現実は、一般の市民感覚からも経済界の常識からも乖離したものといわなければならない。従って、今後同種事案の再発を防止し、視聴者及びスポンサーの信頼を維持していくためには、これらの点についても現状を安易に肯定せず、架空水増し支払を行えない経理手続と点検システムの構築に努める必要があるとともに、コーポレートガバナンスの観点からコンプライアンス体制のさらなる充実・強化を図るべきである。
かかる内部統制システムが確立されない限り、同種事案の再発を防止することは不可能であり、日本テレビ経営陣としては、この事実を真剣に受け止め直ちに行動するべきである。