『カズレーザーと学ぶ。』今回のテーマは『睡眠』
今夜から実践できる!人生が変わる『超絶睡眠』
『最初の2時間で決まる!質を左右する「N3睡眠」』
睡眠時間が6時間以下の人は、7〜8時間の人に比べて、生活習慣病の増加やうつ病、思考力の低下など、悪影響を体に及ぼし、死亡リスクが2.4倍も高いと、愛知医科大学病院睡眠科・睡眠医療センター医学博士 眞野まみこは指摘する。
そもそも人間の睡眠は、『レム睡眠』と『ノンレム睡眠』とを、一晩の間に90分〜110分という周期で、4回、5回繰り返していく。この周期には個人差があるため、特定の時間寝たからといって、必ずしも疲れがとれやすいということはない。またどちらの睡眠状態でも夢を見ることは多いが、明け方に近い『レム睡眠』のことを記憶として覚えていることが多いという。
『ノンレム睡眠』は脳の活動が抑えられ、深く眠っていく状態を指すが、その中でも最も眠りが深い『N3睡眠』が睡眠全体の質を大きく左右させると眞野氏は語る。人間の眠りは、浅い状態から順にN1からN3までの段階があり、N1のうとうとした状態から、N2の準備段階を経て、N3という深い睡眠の状態に到達する。このN3睡眠は体の温度が下がっていくことで脳がクールダウンし、体が一番休まっている時間で、睡眠の質に直結する。このN3の時間が少ないと、寝たけれど疲れがとれなかったという感覚に陥ってしまいがちだという。さらに一晩の睡眠でも明け方になると、『ノンレム睡眠』そのものがだんだんと浅くなってくる。これは朝に向けて日中の活動が行えるように脳が体を整えているためで、N3睡眠が現れるのは、入眠からわずか2時間程度なのだそうだ。
眞野氏は深いN3睡眠をとるための快眠法として①お風呂の1時間後に寝る ②部屋を真っ暗にして寝る ③部屋の温度を26℃前後、湿度を50%前後に保ち、エアコンのタイマー機能を利用しない という3点を挙げる。遅い時間まで蛍光灯や白熱灯といった明かりがついていると、メラトニンという眠りを誘うホルモンの分泌がとまってしまい寝付けないのだという。またエアコンをタイマーで切ってしまうと、途中で部屋の温度が上がってしまい、体温に悪影響を与える。
またスペインの大学研究から睡眠に効果のある飲み物として、ノンアルコールビールが注目されているのだという。ノンアルコールビールに含まれる、沈静効果のあるホップやGABAが、質の良い睡眠をもたらすといわれているそうだ。GABAを含んだチョコレートなども市販されているが、チョコレートにはカフェインが含まれているため控えた方が良いと眞野氏は締めくくった。
愛知医科大学病院睡眠科・睡眠医療センター
医学博士 眞野まみこ
『休むだけではない!? 睡眠中に脳は丸洗い!』
不眠症の薬に画期的に役立つ物質を発見した睡眠研究の第一人者で筑波大学教授 国際統合睡眠医科学研究機構 副機構長 櫻井武は、脳が活動する際に出てくる老廃物が、睡眠中に脳を丸洗いすることで除去されていると語る。
睡眠時に、脳はただ休んでいるのではなく覚醒時には行えない作業をしている。その1つが、老廃物の除去だ。脳は代謝が高いため、体全体の4分の1ものエネルギーを使っている。当然老廃物も多く出てくるが、脳は他の組織と異なりリンパ組織がない代わりに、脳脊髄液と呼ばれる液体によって老廃物を排出している。この作業にかかる時間は、7〜8時間ほどであるため、睡眠が不足すると老廃物が脳内にたまってしまう。その結果、脳のパフォーマンスが低下するだけでなく、アルツハイマーなど病気の引き金にもなりかねない。
さらに『ノンレム睡眠』の間に脳で行われる作業の中に、昼間に学習したことを強くする、“記憶の固定化”がある。ハーバード大学によって行われた実験では、回数をこなせば上手くなるゲームを被験者に練習させ、その後ある被験者には睡眠を与えた一方で、他の被験者は起きたままにした結果、睡眠をとった方がゲームの結果が向上したという。これは、脳内にある『シナプス』と呼ばれる神経細胞と神経細胞をつなぐつなぎ目のやりとりが、睡眠によって効率よく最適化されるからであり、起きたままではこうした最適化が行えないからだそうだ。
記憶力やパフォーマンスを向上させるためにも睡眠は重要だとわかるが、櫻井氏は最高の睡眠法とは「やっちゃいけないことをやらない」ことだと指摘する。質の高い睡眠に、不眠症は大敵だが、これは寝られないという体験によって引き起こされるという。特に、普段寝ている時間の2〜3時間前は、体が脳の信号によって眠りにくい状態になっており、「睡眠禁止帯」ともいわれるこの時間帯に無理に寝ようとしても、かえって眠れなくなってしまうのだとか。その結果体内時計が狂うと、普段寝ていた時間にも眠れなくなってしまうのだという。
櫻井氏は不眠に悩んでいる人たちに対して、道具などのこだわりを捨て、睡眠のことを考えず消化機能や呼吸などと同じように、気にせず行うことが大切だとアドバイスを送った。
筑波大学教授 国際統合睡眠医科学研究機構
副機構長 櫻井武
『動物から見る人の睡眠… 生きるために眠るのではない!?』
世界中のさまざまな生物の睡眠について研究を重ねているのは、総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター 教授 渡辺佑基だ。渡辺氏によれば、哺乳類や鳥類だけでなく爬虫(はちゅう)類や魚類といった脳を持つ動物が睡眠をとっているのだという。さらに最新の研究では、脳を持たない動物も睡眠に近い状態をとることが明らかとなった。イソギンチャクやクラゲの仲間のような脳を持たない動物でも、神経があり外部の刺激に対して反応することができる動物は、体を休める動きを見せる。この発見によって、睡眠は生物の進化の根本的なところである約5億年以上前から存在したシステムであるという可能性が出てきた。
睡眠が、動物が脳という器官を獲得する以前から存在していた働きなのであれば、そもそも睡眠は脳のためのシステムではないということになる。それでは動物は何のために睡眠という能力を獲得したのか。学術雑誌『サイエンス』にも掲載された最新研究から、生物は元々睡眠状態が標準の姿で、進化により意識を持ち動き回る覚醒状態を後から手に入れた可能性が明らかとなったという。
動物の睡眠にはさまざまなバリエーションがある。カモは、1列にならび、外側の2羽がそれぞれ片目だけを開け、残りのカモが両目を閉じることで、監視と休息を効率よく行うことがあるという。片目のみを閉じて休息をとることを、『半球睡眠』と呼び、この睡眠では脳の半分ずつが交互に休みをとる。渡辺氏は、人間も半球睡眠に似た状態になることがあると語り始め、例えとして初めて泊まるホテルなどで普段とは眠りの感覚が異なった場合、脳の片側のみが眠り反対側の眠りが浅くなるという現象を解説した。
総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター
教授 渡辺佑基