第1522回 2020.04.19 |
かがくの里・田舎暮らし の科学 | 場所・建物 水中の動物 |
荒れ果てた土地を切り開き、かがくの力で豊かな里山をよみがえらせる、長期実験企画。それが、「目がテン!かがくの里」。今年も動き出した、ウナギ養殖プロジェクト!去年、巨大台風により、里の池が壊れる想定外の事態に!千葉先生が考えた対策とは!?さらに今年、里でのウナギ養殖の可能性を広げようと注目したのが、ウナギの完全養殖!
今回は、「ウナギ養殖プロジェクト!完全養殖大研究スペシャル」!!
改修工事でダブル対策!
絶滅危惧種ニホンウナギを救いたいと、2年前から始めたウナギ養殖プロジェクト。自然環境に近い、かがくの里のため池でウナギを育てれば、普通の養殖ではオスばかりになるウナギが、オス・メス1対1になるのでは?という実験。
けれど、ウナギの回収率では苦戦して、1年目は100匹中29匹で、およそ3割。2年目のウナギにいたっては、大型台風の影響で、回収率は、ほぼ0%。そこで、なんとか回収率を上げるため、池の改修工事を行うことに。高さ70cmの網で池を覆って、増水でウナギが逃げないようにし、さらに、鳥やカエルから食べられないようにする、一石二鳥の計画。
これでウナギの回収率も上がるはず!バージョンアップした里の池に、今年もシラスウナギを100匹放流する予定です。
そして、千葉先生の実験も、今年さらにバージョンアップ!
千葉先生は、どうしてこのような環境だと、天然に近いオスメス1:1のウナギが出来てくるのか原因がわからないので、片方には土を入れたもの、片方には入れないもの、飼育施設で単純な実験池を造って明らかにしたいといいます。
今年のウナギ養殖プロジェクトでは、里の池では、なぜオスメス1:1になるのか、その理由を明らかにする研究も進めます!
ウナギの完全養殖
一般的なウナギ養殖は、海で捕まえたシラスウナギを養殖場で育てるのですが、近年、シラスウナギの漁獲量が激減。ニホンウナギの絶滅が危惧されています。そんな中、ウナギを全て人間の管理下で、卵から成魚まで育てる完全養殖は、食糧としてのウナギを増やすことができ、天然ウナギを減らさずに済む方法として注目されているんです!
一方、里の養殖は、自然環境に近いため池でウナギを育てて、オスメスを作り、最終的には川に放流し、天然ウナギの数を増やすのが目標!アプローチは違いますが、完全養殖を学べば、かがくの里のウナギ養殖プロジェクトの幅が広がるはず!
そもそもウナギの完全養殖は、どういうものなのか?そこで、お話しを聞きに行ったのが、ウナギの完全養殖に取り組む、千葉先生の知り合い北海道大学井尻成保准教授。
実は北海道大学は、完全養殖研究で世界初の偉業を成し遂げた、すごい大学。そもそも日本で、うなぎの完全養殖研究が始まったのは1960年代。いち早く取り組んだ北海道大学は、1973年、人工的にウナギに卵を産ませることに成功したと発表。世界に衝撃を与えたのです。
ウナギの完全養殖は、人工的に産ませた卵をかえし、その稚魚を育て、育ったウナギに、また卵を産ませるというサイクルが繋がってこそ成功なのですが、そこには様々な難関が!
卵を産ませるための難関 その➀ 人工的にメスを育てること!
この施設では、天然のシラスウナギを2~3年かけて育てており、何もしないと、やっぱりオスウナギになってしまうそうで、小さな時に雌性ホルモンを食べさせて、ホルモン操作してメスを作っています。しかし飼っている限りは、ウナギはいつまでも、性成熟の段階で言えば、人間でいうところの幼稚園児のままで、大人ではないといいます。
卵を産ませるための難関 その② 大人にならない!
天然のニホンウナギは、川や池などで何年もかけて大きく育つと、大海原に出て、2500km先の西マリアナ海嶺あたりまで旅をします。メスウナギはそこで卵を産み、オスウナギが、その卵に精子をかけて受精すれば受精卵が出来ます。メスウナギは、その2500kmという長旅の中で、脳から生殖腺を刺激するホルモンが分泌され、卵を産める体になっていくのですが、人工的に育てたメスウナギは、何年たっても生殖腺刺激ホルモンが分泌されず、卵を産む体にならないそうです。
井尻先生によると、どうやって自分でホルモンを分泌するのかというメカニズムはわからないので、外からサケのホルモンをウナギに打つそう。生殖腺刺激ホルモンは、メスウナギの脳下垂体で作られて分泌されるのですが、川で捕まえた天然のメスウナギは、まだ性成熟していないので使えない。そこで、秋にたくさん川を上ってくる、成熟したサケのメスから脳下垂体を取り出し、生殖腺刺激ホルモンを抽出。そのホルモンをメスウナギに注射。人工的にウナギの卵巣を成熟させて、卵を産める体にすることに成功したのです。
しかし、これでは終わりません。卵を孵化させるのにも難関が!
卵を孵化させるための難関 受精卵にするのが難しい!
オスウナギも、成熟のためのホルモンを打たないと精子を作ることが出来ませんでした。しかし、他の研究者が長年かけて、この難関を突破!
そして、卵に精子をかけて受精しただろうという頃合いで海水に放り込みます。状態のいい卵は、ふわ~っと浮いてきて、沈んでいく卵は卵成熟が十分じゃない卵が多く、浮いた卵が孵化までいく可能性が高いとのこと!
1回の産卵で、およそ200万から400万の卵を産むのですが、孵化する可能性がある卵は、まだわずか2割程度。
ウナギの完全養殖は、様々な難関をひとつひとつ、多くの研究者が突破しながら進められていたんです。
それだけ貴重なニホンウナギの赤ちゃん、なんと井尻先生が、自然界では西マリアナ海嶺でしか見ることができない、貴重なニホンウナギの赤ちゃんを見せてくれました!このときの名前はウナギではなく、「プレレプトセファルス」。
さらにここから、柳の葉に似た形の「レプトセファルス」になり、日本沿岸にやってきた時に「シラスウナギ」になるのですが、シラスウナギに育てるのが、またまた難関なんです。
研究者たちの戦い
1973年、ウナギの人工孵化に成功。日本中の研究者たちが完全養殖の道が開けたと喜びました。ところが、ウナギの赤ちゃんは何を食べるのかわからず、どんなエサを与えても食べてくれず、全て死んでしまったのです。その後、数々の研究者たちが、ありとあらゆるエサを試すこと、およそ20年!1996年、水産研究教育機構の研究者が、ついに、エサになるものを発見!
それが「アブラツノザメ」の卵。たまたま研究室にあったアブラツノザメの卵をウナギの赤ちゃんに与えてみたら、なんとそれを食べたそう。
エサがわかったことで、ウナギの赤ちゃんは順調に育ち、柳の葉の形からだんだんとシラスウナギの形に成長。そして、、2002年、ついに人工シラスウナギに。
その人工シラスウナギを、オス・メスの成魚に育てて卵を産ませるまでに、さらに8年が過ぎ……研究開始から実に半世紀以上!2010年、初めて完全養殖が、研究室レベルで成功したのです。
ついに完全養殖を実現させたのですが、現状では、人工受精させた卵から、最終的に成魚のウナギになるのは、1%から5%。私たちが食べられるようになるまでには、まだまだ育てるのに、コストや相当な手間がかかります。