放送内容

第1571回
2021.04.18
美しい標本の世界 の科学 物・その他 水中の動物

 生き物のありのままの姿を観察することができる標本。昆虫や植物、動物の骨格など、教育や研究の場で使われているのは、見たことありますよね。
 しかし今、見た目にも楽しめる芸術的な標本が新たに登場し、注目されているんです!今回はそんな美しい標本の世界をのぞいていきます!
 生き物が透明になる?体がすけて骨が丸見えになる透明骨格標本とは?さらに!肉眼では見えないミクロの世界の標本とは?
 今回の目がテンは、生き物はこんなにも神秘的!「美しい標本の世界」を科学します!

生き物がスケスケ!?透明骨格標本とは?

 透明骨格標本とは一体どういうものなのか?その標本作品を制作している冨田伊織さんを訪ね、「透明骨格標本」を見せてもらいました。
 赤や青の色がついたキレイな標本がずらり!
 体が透明になっており、中の骨がレントゲンのようにキレイに見えています。横から見ると、ハリセンボンもトゲがどのようについているのかはっきりと分かり、シタビラメなど、食べる魚にもきれいな造形があるのがわかります。

 この「透明骨格標本」とは、骨格標本にするのが難しい小さい魚などを標本にする技術のこと。骨の構造や形成過程の観察など、分類学を始め、研究手段として様々な分野で用いられてきました。
 冨田さんが、この透明骨格標本を制作するきっかけとなったのは、大学で水産生物を研究していたときに透明標本の美しさにビックリしてしまったこと。その後、何度も試行錯誤することで、普通の研究用の透明標本よりさらに透明で美しい標本を作り出せるようになったのです。今では本を出版したり、子供の向けのワークショップを開いたりと透明標本作家として活動をしています。
 次に見たのは、ナマズの仲間の透明標本。口の中をよく見てみると、上あごと下あごがヤスリのようにギザギザになっています。

 これは歯。この歯で、獲物をがっちり押さえ、お腹の中に引きずり込んでいくのです。さらに、奥の方にも歯が!

 ザリガニやタニシなど殻を噛み砕くときに使われています。透明標本だからこそ、形を保ったまま、鮮明に骨格を見ることができるのです。

 さらに、大型の魚に吸盤のように張り付いて生活することで知られる、コバンザメの透明標本。

 コバンザメは、くっつきたい相手に吸盤をくっつけ、筋状の板を立てることで内部の圧力を下げてくっつくのですが、透明標本では、その板の構造がよくわかります。
 肉が透けて骨格だけが見える透明骨格標本。なぜ、このような赤や青に色分けがされているのでしょうか。

 実はこれ、染色液が軟骨に含まれるコンドロイチン硫酸に反応すると青く染まり、硬骨に含まれるカルシウムに反応すると赤く染まるのです。

 たとえば、同じ種類の2つのエビ。一方のエビは、殻が硬いため、赤く染まりますが、もう一方は脱皮して間もないエビのため、柔らかい殻に覆われており青く染まります。
 透明標本の作り方は、まず、保存液を塗り、魚を固定。そして、軟骨の成分を青く染色する薬液に浸していきます。
 次に、トリプシンというタンパク質を分解する酵素を使うと、体が少し透明になります。その後、硬骨の成分を赤く染色。さらにもう一度タンパク質を分解させ、透明化することで、体が透け、骨だけがキレイに見える状態になるのです。

 魚の大きさにもよりますが、完成するまで1年から2年ほどかかるというんです!

幻想的なミクロの世界!微生物のアート!

 キラキラとした美しい写真。キレイな模様から、大きな木をデザインしたものまで。実はこれ、微生物を並べたアート作品なんです!
 大きさは、目に見える1mmから、髪の毛の直径よりもはるかに小さい0.003mmと大変小さなもの。幾何学的な形は、この微生物が持つそのままの姿。色は、光の反射を利用して発色させています。この作品を作っているのは、アーティストの奥修さん。顕微鏡で覗きながら、毛先などを使い、1個ずつ並べているのです
 この作品に使われている微生物は珪藻と呼ばれる植物プランクトンの一種。

 では、珪藻とは一体どんな微生物なのか?珪藻研究の第一人者、東京学芸大学の真山茂樹教授に会いに多摩川へ訪れました。
 珪藻とは、ワカメやコンブなどと同じ藻類の仲間。大きな違いは、ガラスと同じ二酸化ケイ素の2枚の殻に覆われ、ちょうどお弁当箱のふたと箱のように合わさった作りになっていること。
 実は、私たちの身の回りにある珪藻土のバスマットやコースターなどは、珪藻のガラス質の殻が化石になって堆積したものが使われています。
 珪藻の殻には、細孔と呼ばれる目に見えないほどの無数の穴が空いていて、その穴一つ一つが水分を吸水するため、吸水性が高く、乾燥させやすいのです。
 珪藻は、世界中で10〜20万種いると推定され、海にいる珪藻は水の中を漂っているものが多く、川にいる珪藻は、石などに付着して生活しています。

 ということで、実際に珪藻を探してみることに。すると、川の石を拾い上げた真山先生。なんと、黄色っぽいところに珪藻がたくさんいるというんです!
 石の表面を歯ブラシでこすって、採集していきます。その後、水をかけて採集が完了。この茶色い水の中に珪藻がいるんです。

 では集めた珪藻を、どうやって標本にしていくのでしょうか。まずは、集めた珪藻の中に、薬液を入れていきます。この薬液に葉緑体など有機物が溶け出し、珪藻のガラス質の殻だけが残るのです。これを遠心分離機にかけ、液体と珪藻を分離。そして、蒸留水で、珪藻を洗浄。最後に加熱して水分を飛ばしていきます。これで珪藻の標本が完成。

 では、一体、どんな標本になっているのでしょうか。
 多摩川で取れた珪藻の標本。

 大きさは、髪の毛の直径の4分の1くらいの、およそ0.02mm。顕微鏡で見ると、様々な形があることがわかり、珪藻の模様まではっきりと見えます。
 実は、珪藻の標本を見ることで、人にとっても、大事なことが分かるそうです。
 例えば川がキレイか汚れているか。珪藻は、川の水質によって、生息している種類が違ってくるのです。
 真山先生は、この珪藻の水質を知ることができる特性を生かし、あることに役立てているのです。
 インドの川の珪藻の標本を見ると、1945年はきれいな川だったのに対し、2017年は川が汚れてしまったことがわかります。そして、日本の川の珪藻。1982年には汚れていたのに対し、2017年は川がキレイになっています。
 2つを比べてみると、インドは近代化に伴って水質が悪くなったのに対し、日本は環境保全によって水質が改善されたことが分かるのです。

 真山先生は、珪藻の標本を使い、子供たちに環境に対する意識を高める教育を行っているのです。
 キレイなだけではない、環境教育にも大きな役割を果たしている珪藻の標本でした。