Aさんへの手紙
Aさん、お元気ですか。
私が小さい頃から、特撮映画の現場で働いていて、仕事の傍らで仲間三人と8ミリの特撮映画を作ったという話を聞いた時には本当にびっくりしたし、スチールを見てとても感心もしました。戦車のミニチュアといい、怪獣のデザインといい、なかなか良くできていました。
「本格的ですね」とか「負けられんな」とか共に自主製作を作っていた仲間たちも目を丸くしていたのを思い出します。
そんなあなたが、既に還暦を迎えられていると聞き、そんな月日が経ってしまったのかと思ったわけです。
最近、映画やテレビでもすっかりCGが主流になり、私たちが志し追いかけ続けたミニチュアワークを中心とした特撮はすっかり無くなってしまったようです。私ですら、特撮を取り入れた映画作りの中心に近づき過ぎて、いつしか全体の監督をするようになり、その映画作りの効率、予算対効果を考えた結果、特撮よりもCGを使ってしまうようになってきました。
そんな時にインターネットで、デジタルカメラを使ってミニチュアを撮った短編映画を一人で作り、アップロードしているあなたを見つけた時にとてもうれしい気分になりました。あの映像はとても真剣で、何よりもミニチュアで撮れる映像を誰よりも愛し、誰よりも喜んでいたことがうかがえるからです。
本当に自分たちが好きなものってなんだろう。
自分たちは、もっと自分が好きだと本気で思い込んでいるものを見せるために作らなきゃいけないんじゃないだろうか?
我が身を省みればみるほど、昔から好きで、その仕事を始めてしまうぐらい好きだった特撮に対する思いが募ってきますし、経験が乏しかったり賭ける愛情が間違えたような力の無い特撮を見る度に胸が苦しくもなりました。特撮というとマスクをかぶったヒーローが活躍する番組の総称となってしまい、本来の意味から乖離してしまったのもどうすることもできない時代の趨勢と諦めるしかないのです。
Aさん、僕の気持がわかってもらえるでしょうか?
そんな折にミニチュアワークを中心にした展示のための映像が作れるというまたとない機会がやってきました。
純粋に、破壊するためにミニチュアで再現するのです。
この世に存在しない虚構をこの世に介入させるために、とことんまでこの世を再現するのです。
あの8ミリ映画を作ったあなたの親友も今では日本一のミニチュア破壊技術者になっています。
一緒に、もう一度、あの頃信じていた、そして今できる最高のミニチュア特撮を、作りませんか?
忘れもしないあの8ミリのタイトル---「創造と破壊のあいだに」の先にある世界を撮ろうではありませんか。