「青黒的倶楽部世界杯2008〜世界基準への挑戦〜」
文/下薗 昌記
2008.12.11
攻撃力を前面に打ち出してアジアを初制覇したガンバ大阪が、日本勢としては二年連続となるTOYOTAプレゼンツFIFAクラブワールドカップに挑む。「いろんな意味でサッカー観が変わるステージだと思う」(西野朗監督)。クラブ史上最大の挑戦となる桧舞台での足取りを追った。
リーグ戦終了後の短い2日間の休暇を終え、大会に向けて再始動したガンバ大阪。「対戦相手が決まればいよいよという雰囲気にもなるんだろうけど、まだ通常のオフ明けと変わらない」(遠藤保仁)。オフ明け初日となる10日は、フィジカルトレーニングや攻守に分かれての6対6など軽めのメニューをこなしたのみで、変わった所と言えば、初めて用いる大会公式球の存在のみ。「全員がグラウンドに立てたことが嬉しい」と西野監督が満足げに振り返ったように、11月20日の練習で右膝半月板を負傷し、チームを離脱していた二川孝広もこの日から完全合流を果たすなど、14日の大会初戦に向けてチームは確かな一歩を踏み出していた。
無敗で大会史上初のアウエー全勝優勝という暴れっぷりを見せたACLで12試合で計27得点と、ガンバ大阪の旗頭でもあるアタッキングサッカーを体現しきったチームだけに西野監督は「この大会でも昨年の浦和とは違うスタイルでやり切りたい」。
一方で、ACLでも決勝進出までは「優勝」の言葉を封印し続け、常にチームの目の前に現実的な高さのハードルを設定した慎重な姿勢にもブレはなかった。
「まずは一勝すること。一勝できるのであれば相手がどこであれ素晴らしいこと」と言い続けてきた指揮官は、10日の練習冒頭に選手たちに滅多に見せない「かん口令」を敷いていた。
「次の試合(準決勝)への質問には対応するな」。すでに準決勝進出が確定したかのような雰囲気を嫌う西野監督は報道陣に対しても「過度の期待と言うかか、架空のゲームに関するインタビューは避けていただきたい」と牽制する。
複線は11月25日の中国・上海にあった。アジアサッカー連盟が開いた年間表彰の会場で、西野監督はアジア最優秀監督賞に選出されたが、二週間ぶりに再会したアデレードの若き指揮官の目に燃えるリベンジの炎を感じとっていた。「ビドマー(監督)と会ったんだけど、かなりメラメラとしていたよアイツも。ACL決勝のアデレードとは今度は違うだろうし、自信ある顔をしていたね」。
決勝の二試合では合計得点5対0といずれも快勝したものの、国際舞台での一発勝負に油断は禁物だ。まして、今大会はガンバ大阪が今季追究して来た「世界基準」を図る格好の舞台でもある。初戦で敗れれば残すのは5位決定戦のみ。それ故に、西野監督は力を込める。「一つ勝てるということは、3試合戦えることにもつながるし、チームにとって大きな財産になる」。
選手の浮付きや大会初戦に向けた集中度を高めるために対外的には「マンチェスター・ユナイテッド」を禁句にする指揮官だが、数日前に明かした本音は「(マンチェスター・ユナイテッド戦は)逆に選手に強調する。それに向けて今は何をやらないといけないか。マンチェスター・ユナイテッドとやれる。そのためには第一戦がさらに重要になる」。
アジア基準から世界基準への脱皮――。アデレード(ACL準優勝)とワイタケレ(オセアニア王者)の顔合わせを数時間後に控えた11日午後、吹田市内にあるクラブ練習場でアジア王者は「クラブのワールドカップ仕様」へのマイナーチェンジを見せ始めた。顔ぶれと布陣に変わりなし。キーワードは世界レベルでは当たり前となる「パススピード」と「判断の速さ」だ。
アップ後に行われたフォーメーション練習に長年西野体制を見続けてきたクラブ幹部も「初めて見るな」と感嘆の声。従来のガンバ大阪では、DFラインからシンプルに前方に展開し、シュートに結びつけるフォーメーション練習を繰り返すが、この日は山口や中澤聡太ら最後尾の基点に相手攻撃陣を想定したサブ組の選手たちが形式だけではない「鬼プレス」を敢行。時に前線からスライディングさえ見せる若手たちに、テベスやルーニーの姿を重ねたのは筆者だけではあるまい。何せ、百戦錬磨の指揮官である。12年前のアトランタ五輪では万に一つの可能性しかなかったブラジル守備陣のミスでさえ、チームに織り込み済みだったのだ。勝ち進めば対戦する欧州王者が確実に見せるはずのプレスを、今から想定しておくのは至極当然と言える。
「国内で通用しているボールの動かし方だけではこれからのステージでは通用しない」(西野監督)。前日に左ふくらはぎを打撲し、この日は大事を取って別メニュー調整した明神智和の代わりに新人の武井捉也をレギュラー組のボランチに配置した紅白戦は、双方が2008年の理想型である4-2-3-1で実施した。西野監督も「(アデレードは)この布陣を嫌がっている部分も強いし、より精度を上げていけば通用する」。パススピードが上がった一方で、タッチ数を制限し、持ち前のパスサッカーに磨きをかけようとするガンバ大阪は14日、アデレードとの対戦を皮切りにいよいよ世界に打って出る。
●下薗 昌記(しもぞの まさき)・・・1971年大阪市生まれ。ブラジル代表とこよなく愛するサンパウロFCの「芸術サッカー」に魅せられ、将来はブラジルサッカーにかかわりたいと、大阪外国語大学外国語学部ポルトガル・ブラジル語学科に進学。全国紙記者を経て、2002年にブラジル・サンパウロ市に居を構え、南米各国でのべ400を超える試合を取材する。2005年8月に一時帰国後は、関西を拠点にガンバ大阪やブラジル人選手、監督を対象にサッカー専門誌や一般紙などで執筆。日本テレビではコパ・リベルタドーレスなど南米サッカーの解説も担当する。
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