コロナ休校で急速に進むICT化――オンライン授業は教育現場を変えるのか
新型コロナウイルスによる休校が長引く中、教育の現場では急速にICT(情報通信技術)を使った取り組みが進み、様々な工夫が求められています。オンライン授業を行う教員たちは、「ここで得た経験を今後に活かしていきたい」と前向きな姿勢です。
■教職員の工夫と保護者の協力が不可欠
(児童の顔を見ながら双方向で学習を進める久喜市立砂原小学校の西教諭)
「みなさん元気ですか。これから授業を始めます」。
朝10時40分、埼玉県久喜市立砂原小で3年生を受け持つ西隆広教諭(42)が画面越しに児童たちに呼びかけます。教室に設置された大型のモニター画面には児童の顔がずらり。オンライン授業は1日1コマで、朝礼と合わせて40分間、顔を合わせます。この日の授業は算数、30人が参加しました。西教諭は教室の黒板を使って授業を進めます。一方、児童たちはオレンジ色、水色、ピンク色の3色の紙を手元に置き、発言したいときはオレンジ色の紙をカメラに近づけます。手を挙げても多画面だと判別が難しいことから考え出した工夫です。授業を終えた西教諭は、「一番わかりやすく伝えるにはどうすれば良いかを考えながら進めていきたいです」と話します。
久喜市には公立小中学校が34校あります。現在、全校がオンラインで学習支援を実施。そのなかの25校で教員と児童・生徒、双方向での学習を始めています。同市では各学校を通してタブレットを児童・生徒へ貸し出す取り組みも始めました。コロナによる休校をきっかけにICT化が急速に進んだ形です。
砂原小ではゴールデンウイーク前から児童の健康状態をオンラインで確認していて、5月11日からは双方向での学習が始まりました。
オンライン化の旗振り役を務めた情報主任の齊藤文絵教諭(40)は、「カメラを通してですが、みんなの元気な姿を見て話ができるのは良かったです。可能性は広がるので今後につなげていきたい」と意欲を語ります。児童からは「友達に会えてよかった。授業ができて良かった」。保護者からは「ずっと家にいるので先生が授業をしてくれると生活にメリハリがつく。時間が決められているのでダラダラしなくなった」という声が上がっていると言います。
ここに至るまでには、教職員の努力と児童と保護者の協力が不可欠でした。児童の家庭に機材があるかアンケートをとったり、接続マニュアルを用意したり。各自使う機材は、パソコン、タブレット、スマホといろいろ。ネットがうまく繋がらない家庭には保護者に来校してもらい操作を教えるなど環境整備に努めました。その結果、ほとんどの児童がオンラインで参加できるようになったのです。
■ICT教育を推し進めてきた熊本市
ICT教育に力を入れている熊本市。熊本地震からの復興には子供の教育が欠かせないという大西一史市長の号令のもと、市内の公立小中学校134校で授業にタブレット端末を導入。教員全員に1台ずつと児童・生徒3人に1台の割合で学校に設置しています。
同市立白川中ではコロナによる休校が長引くと考え、4月の始業式終了後にタブレットを配付し、使い方をレクチャーしました。いままで授業で使うことはあっても自宅に持ち帰ることはなかったのです。全員分のタブレットは無いので、各家庭に可能な限り、自宅のPC、タブレットやスマホを使ってもらえるよう要請。また、兄弟姉妹がいる家庭にはタブレットを共有してもらうなどやりくりをして、全員がオンライン授業を受けられる環境が調いました。
(教室をオンライン授業の“スタジオ”に作りかえた白川中)
各家庭と繋いでのオンライン授業は初めての試み。まずは朝礼を各クラスで行います。オンライン上で顔を合わせて出席をとったあと、授業が始まります。教室の中にタッチスクリーンの電子黒板を3台設置。この特設の“スタジオ”を拠点にオンライン授業を展開します。授業は1コマ15分で1日3コマ。クラス分けはせず、同学年の生徒たちが同じ授業を受けます。カメラの前で教員は授業を進め教科ごとに入れ替わっていきます。1コマ15分というのは生徒の集中力を考慮した設定です。
同校で情報教育を担当する福島輝浩教諭(48)は、「以前からタブレットを使った授業に取り組んでいたので培ってきたことが活かせました。教員がタブレットの便利さに気づいたところも大きい」と強調。「通常の授業に戻っても、タブレットを持ち帰ってもらい家庭学習のサポートにつなげていきたい。教育手法は今後整理されていくことになると思います」とコロナ終息後を見据えます。
■「いままでと同じ授業に戻ることはない」
(高校3年生に向けて英語のオンライン授業を行う邑地教諭)
高松市の大手前高松中学・高校は中高一貫の私立学校です。休校中の高校の教室に英語を担当する邑地秀一郎教諭(32)の声が響きます。パソコンを使い29人の生徒にオンライン授業をしているところです。同校では以前から高校の生徒全員にタブレットを配るなどICT化に注力してきました。オンライン授業は3年生からスタート。4月6日から毎日、実施しています。
各教諭によって授業の進め方は異なりますが、邑地教諭は受験対策がメイン。
「こういう状況の中、オンラインで生徒たちの表情を見られるのは大事なこと。この環境の中でどれだけ生徒が育っていくのか。(オンライン教育に)手応えはあります」と話します。合間に大喜利のお題を出すなど、生徒を飽きさせない工夫をして進行します。オンライン上では生徒の反応が分かりにくいと感じているため、チャット機能で意見を求めたり、アンケートをとったりと模索していると言います。
邑地教諭は、「チョークと黒板の授業が得意でしたが、いまはスライドやZoomを使って新しい授業の進め方に努めています。いままでと同じ授業に戻ることはないです。以前よりもっとICTを導入しようと思っています」と今後の展望を話します。
■自分の意見を話せない生徒が意欲的に
オンライン授業に取り組んだ教育現場からは「ICTの便利さを知った」「生徒の声が一つ一つ拾えるようになった」と前向きな声が多く上がりました。「タブレット端末は触りながら操作するので子供たちに使い勝手が良い」という意見もありました。また、普段は自分の意見を話せない生徒が意欲的に課題に取り組むなど思いがけない効果もあったと言います。これらの経験を通して教育現場は変わって行くのでしょうか。
熊本市教育センターの本田裕紀副所長はこう話します。
「タブレット活用はこれから当たり前になると思います。子供たちのために何とかしようと学校や学年でチームを組んでオンライン授業をするなど、教員同士の学び合いも生まれたと感じています」と熊本市の例を挙げ、「全国的に見ても教育のICT化が進むのは間違いないと思います。ICT機器を使うことで子供たちが自ら自由に学んでいくようにすることが大切です」と見解を示します。
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