トゥールーズで振り返る2007年W杯の記憶と日本代表の変化【“日本ラグビー界の鉄人”大野均さんと巡る現地取材記】
ラグビーワールドカップ2023フランスが9月8日(現地時間)に開幕しました。開幕を前に、開催地フランスを旅したのは“日本ラグビー界の鉄人”元日本代表の大野均さん(現在は東芝ブレイブルーパス東京・普及担当)です。
大野さんとともにフランスを巡り取材を共にしてきたスタッフが、現地での模様をお届けします。最終日となる9日目の様子をご紹介。
■9日目
とうとう帰国の日が訪れた。
やっと日本に帰ることができるという思いと、まだフランスにいたいという思いが半々で複雑な気持ちだ。
大野さんは今回の旅はどうだったのだろうか。
ここで、大野さんに単独インタビューをした内容を少し紹介しようと思う。
Q:今回のフランス旅を振り返って
大野「最高のツアーでした。普段だったら行けないようなところもまわることができて、日本の多くの人に紹介もできると思うのでいい旅でした。」
Q:印象に残っている場所
大野「全部残っています。なんだろうな・・・。でも、ゴルドはちょっと通るだけと聞いていたけれど絶景も見ることができたし、ポン・デュ・ガール。すごい壮観でした。あとはウオーターラグビーに参加できたのはいい思い出です。しかも、レジェンドたちと一緒にプレーできて、観客もすごく盛り上がってくれていて、そういった雰囲気の中で久しぶりにラグビーをできたのはすごく楽しかったです。」
Q:フランスの印象は変わったか
大野「大きくは変わっていないです。逆にいい方向に変わったというか。旅の中で出会った人たちは本当に優しくしてくれて、ホスピタリティも素晴らしくて。フランスの新しい魅力も感じることができたし、さらにフランスが好きになりました。どの街に行っても9月に開催されるW杯を楽しみにしているし、フランスはラグビーが文化として根付いていると再認識させられました。」
Q:フランスで得たことで日本にいかせることはあったか
大野「今回は観光面が中心でしたけど、ウオーターラグビーに参加させてもらって、あの雰囲気、観客だけでなく選手も参加することを楽しんでいて。運営するスタッフ含めみんながラグビーを通して楽しめる、そういうイベントや時間を作っていければいいなと思います。」
現役引退後も日本ラグビーの発展のために活動を続ける大野さん。
ラグビーに向き合う姿ももちろんだが、私たち取材陣に向き合う真摯な姿を見ると今後もさまざまな形で日本ラグビーを盛り上げていってくれるのだろうと思わされる。
話しは戻り、帰国のため私たちはトゥールーズへ向かっていた。
帰国前に、9月10日の日本vsチリ戦が行われ、9月29日には日本vs サモア戦が行われるスタジアム・ド・トゥールーズを見学。
スタジアム全体を歩き、いろいろな角度で見学していく。
そんな中、おもむろに最前列の客席に座りピッチを見つめる大野さん。
「まさに選手と同じ目線。目の前に柵がないから近くに感じられる。選手と観客が近いから声援が受けやすい。2007年もそうだった」と話す。
実はここトゥールーズのスタジアムは大野さんにとって思い出の地。
開催されたラグビーW杯のフランス大会でW杯メンバーとして初めて試合をした場所なのだ。
「初めて試合をしたのが、第二戦目のフィジー戦。下馬評では、フィジーが勝つという予想だったと思うけれど、日本代表はターゲットを絞り、最後まで食らいついていった。もしかしたら日本代表が勝つのではという試合展開で、スタジアムの観客みんなが日本代表を応援してくれた」と初めてのW杯を思い出しながら語り始めた。
流れをつかむも、最終的には4点差敗退。
大野さんは、この試合で体重が6キロ減ってしまい、立ち上がれないほど消耗しきったという。
「試合後ベッドの上で点滴を打ちながら、これだけ出し切ってもW杯では勝てないのか」と思いを馳せたという。
予選プールを終えてみれば、結果は0勝1分け3敗。
W杯で勝つ厳しさを痛感した大会だったと振り返る。しかし、悪い面ばかりではなかったという。「カナダ戦では引き分け(12―12)16年ぶりに負け以外の結果を残せた。達成感はあったが、日本に帰国してW杯で勝つ経験をしたい、次のW杯にも出たいという欲を与えてくれた大会でした」と自分のラグビー人生の分岐点であると語った。
日本歴代最高のキャップ数を誇り、長きに渡り日本のラグビー界をけん引してきた大野さん。今の日本代表を見て何を思うのか。
「日本代表は今では、どの国と対戦しても日本代表が勝つのではないかと思えるほどの力を持っているチームになっている」と力強く言う。
確かに、2015年のW杯では強豪南アフリカを破り、日本で開催された前回大会では予選プールで4戦全勝と着実に力をつけてきている。
「日本代表はハードワークをするしかない。それが日本代表の強みの1つで、私が現役の時から変わらないもの。その中で変わったのは、今の日本代表の選手たちは、世界のどこの国に対しても勝てるという自信を持って日々のトレーニングに取り組んでくれている。若い選手たちも勝つために日本代表に選ばれたという自信がある」と日本代表の変わらない部分と変わってきた部分を冷静に分析する。
そんな日本代表が、目指す場所はどこなのか。そんな決まりきった質問をぶつけてみた。大野さんは笑顔を見せながらも、確信をもった力強い言葉で言う。
「もちろん決勝の舞台ですね。そこで勝つ姿を見せてほしいです。」
現役時代に多くの思いをくれた地フランス。
その思い出の地で、今の日本代表が新たな歴史を作り出してくれることを信じているのだ。
<協力>
・フランス観光開発機構
・オクシタニー地方観光局
・トゥールーズ観光局
・オット・ピレネー県観光局
・東芝ブレイブルーパス東京