学徒出陣80年…「生還を期せず」答辞読んだ学生の苦悩
○櫻井
「国立競技場にやってきました
ピッチレベル、下から見ると圧巻の景色ですね」
東京・国立競技場。
2020年には
東京オリンピックとパラリンピックの開会式も行われた
“スポーツの聖地”。
この場所を今から80年前…。
銃剣を持って行進する学生たち。
1943年10月21日。
当時の明治神宮外苑競技場(現・国立競技場)で行われたのは
「出陣学徒の壮行会」。
太平洋戦争のさなか、兵力不足を補うため、
多くの学生たちが戦場に駆り出された「学徒出陣」です。
○櫻井
「降りしきる雨のなか
多くの方に、見送られていたんですね」
今スポーツや音楽イベントが行われるこの場所に、
あの日、出陣する学徒約2万5000人と
見送る女子学生ら約6万5000人が集まっていました。
この決定を下した東条英機首相を前に
学徒の代表として答辞を読んだのは、
東京帝国大学の江橋慎四郎さん。
○東京帝国大学
江橋慎四郎さん(23)
「学徒出陣の勅令、公布せらる。勇躍軍務に従うを得るに至れるなり。
生等もとより生還を期せず」
「生等もとより生還を期せず」。
「はじめから生きて帰るつもりはない」という意味です。
戦って死ぬ覚悟を読み上げる江橋さんの姿を
観客席で、複雑な思いで見ていた女性がいました。
江橋一枝さん100歳。
慎四郎さんの妻です。
○櫻井
「きれいな着物」
実は、壮行会の翌月に結婚が決まっていた2人。
○櫻井
「どういった方ですか、慎四郎さんは?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
妻・一枝さん(100)
「くそまじめで。一生懸命勉強する」
婚約者として、競技場のバックスタンドから
壮行会を見守っていた一枝さん。
○櫻井
「どのようなお気持ちで
壮行会をご覧になっていたんですか」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
妻・一枝さん(100)
「(慎四郎さんは)日本の学生の代表だからね
晴れがましい気持ちでしたね」
ただ慎四郎さんが口にしたのは、
「生きて帰るつもりはない」という覚悟でした。
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
妻・一枝さん(100)
「慎(慎四郎さん)はね、
『もしかすると戦死するかもしれない』と
時々言っていた。
そういうこともあるかもしれないと
自分に言い聞かせました」
式を挙げると、慎四郎さんは陸軍へ入隊。
航空整備兵として国内の基地を転々とし、終戦を迎えました。
ただ慎四郎さんは…。
○櫻井
「戦争が終わった後にお話しすることもなかった?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
妻・一枝さん(100)
「戦争のことは何も触れません」
今から5年前、97歳で亡くなった慎四郎さん。
長年、戦争について語ってこなかったといいます。
そのワケは…。
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
長女・香子さん(75)
「『生等もとより生還を期せず』と
答辞を読んだにもかかわらず生還したこと。
誹謗中傷があったと(聞いている)。
答辞の内容と違うって」
○櫻井
「あそこで答辞を読んだことを
ずっと背負っていた?」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの長女
香子さん(75)
「そうですね、重荷だったと思います。
言いたくなかった」
大学生や専門学校生ら約10万人が徴兵されたとも言われ、
特攻や玉砕戦などで、多くが命を落としました。
一方、「生き残った自分は何も言えない」と、
沈黙を貫いた慎四郎さん。
ただ家族にも伝えなかった思いを
亡くなる2年ほど前に、
東大の後輩研究者に明かしていました。
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「こういう過ちをした
先輩の後を追っちゃいけないの」
当時96歳。
90歳を過ぎたころから
“自分を教訓にしてほしい”と
体験を話すようになったのです。
壮行会での答辞については…
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「僕が書いたんじゃないんだよ」
『代表の文章を作ってこい』と言うけど
先生なりにそれを添削したんだよ」
○東京大学大学院教育学研究科・教育学部
新藤 浩伸 准教授
「最初にお書きになられた文章は
どんな内容だったんですか?」
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「『元気でいってきます』というようなもの」
慎四郎さんいわく「味も素っ気もない文章」。
それを戦意を高揚させる「勇壮な文章」に
書き換えられたのだといいます。
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「船が沈められた子とか、東シナ海を漂った子がいる。
あの学徒出陣の時に、あんな大見えをきらないで、
『戦争には行きません、戦争は絶対反対です』って
東条(英機)の前で言わなきゃいけなかった」
そして慎四郎さんが、
若い世代に伝えたかった思いは…。
○答辞を読んだ
江橋慎四郎さん(当時96)
「繰り返してほしくないと今の若者に言いたい。
僕らと同じ過ちはしないでほしい。
青春は二度と返ってこないんだから、
もっと青春時代の生き方を大事にしてくれればいい」
この思いを、後になって知ったという一枝さん。
○櫻井
「若い世代に向けて伝えたいことは何かありますか」
○答辞を読んだ江橋慎四郞さんの
妻・一枝さん(100)
「戦争なんかに一生懸命にならないで、
自分の大切にすることをした方がいいと思います」