工房日誌

リストラロボットはクリスマスソングを演奏できるか!?2011/12/4

クリスマス間近のDASHガレージで、ある準備が始まっていた。
時代遅れでお払い箱と、忘れ去られたリストラロボット達に、再び働く場所を得てもらう為、彼らの特徴を活かし、カスタマイズ。
今回目指すは、クリスマス・ムードの街に花を添えるロマンチックなコンサート。力と技、アイディアを集め、“リストラロボットはクリスマスソングを演奏できるか!?"
始まりは、12時間前―
ガレージには、新たなリストラロボット「安全太郎」がいた。
御存じ、交通規制の際に運転手へ注意喚起・誘導を行うガードマン型ロボット。
雨の日も風の日も工事中の道路に立ち、人と車の安全を守るため、40年も旗を振り続けてきた。
だが、時代は流れ、夜でも目立ち、多様なサイン表示が可能なLEDタイプの表示機が主流に。
今回、まとめてのリストラとなり、ガレージに3体がやって来た。
さっそく、新たな活用法を探るため、彼の構造を調べる。
上下に動く右腕は、モーターの円運動をクランク機構によって往復運動に変換する仕組み。
この動きを活かして楽器演奏を考えると、
太一「ギターを持たせるしかない」
そこで、関節を増やして、手が弦に当たって音が出るように改造。
L字に組んだ腕の支えに、ピックとなるプラスチックを取り付ける。
上下動が弧を描くような動きになり、音が出せるように。
肝心の演奏曲をどうするか。
太一「“ジングルベル"って分かり易いメロディーだよね」
“ジングルベル"とは、150年以上前に出来た、アメリカ民謡。
シャンシャンという鈴の音が特徴的で、クリスマスシーズンには世界中で親しまれる。
その理由は、シンプルなメロディーと音階であるということ。
サビの部分は『ド・レ・ミ・ファ・ソ』の5つの音しか用いない。
これなら上手く分担させれば、演奏できるかもしれない。
曲目も決まったところで、安全太郎たち初のギター演奏。
右手で弦は弾けるが、左手でコードを変えられないため、出せる音階は1体につき、1つのみ。
ギターだけで、5つの音をまかなうなら、安全太郎は5体必要だが、いまガレージにあるのは3体。
ひとまず、同様のカスタマイズで“ド"と“レ"と“ミ"を揃えた。
さらに、バンドとして演奏に厚みを出したいと、他の楽器を追加することに。
太一「やっぱり“あいつら"出すか!」
と、太一の目線の先には、鐘つきロボット「相模勝・改」
そして、一本釣りロボット「球道くんハイパー」。
どちらも打楽器向きか、並べてみると見た目も少しはバンドっぽくなった。
さっそく、レコーディングスタジオで音楽適正の確認をすることに。
太一「アマチュアバンドだから移動も自分達でしなきゃ」
と、スタジオまでは皆でソーラーカー「だん吉」に乗り込んで移動。
都内の音楽スタジオに到着し、奏でられそうな楽器も一通り揃え、音を出しながら改めて楽器のパートを決める。まず目にとまったのは
長瀬「ドラムだろうね」
ドラムに重要なのは、ギターのメロディーに乗せる際のタイミング。
これは餅つき経験もある、「球道くん」に任せることに。
杵に変えた右腕を、さらにドラムのばちに変え、一発叩いてみる。
長瀬「一発、一発に気合が入ってる」
音の響きも申し分無く、ドラム担当に決定。
次に、ジングルベルと言えば鈴、使うのは振って鳴らすスレイベル。
曲の肝と言ってもいい、このパートは、競輪場でジャンを鳴らし続けた、「相模勝」をおいて他にいない。
左右に振る一定のリズム、勝関なら頼り甲斐もある。
こうなればイメージも膨らんでいき、もっと音を増やしたいと、ガレージから更なる使えそうなロボット達も音楽スタジオへ運び入れる。
まず、その1体目は「鬼泣かせ」。
昭和30年代から、長く遊園地の人気者だった、鬼の体をしたゲーム機。
投げたボールがお腹に当たると、センサーが感知し、迫力の声を上げる。
それに連動して上下する右手は、てこクランク機構。
この動きにぴったりのパートと思われるのは、シンバル。
上下する鬼の手でシンバルを叩くことで、音を奏でる。
この鬼、ヴェー!と声が出てしまうのが少々難だが、叩く動きは問題なさそう。
シンバル担当に決定。
続いて2体目は、昇降する街頭宣伝用の「エントランスロボット」。
昭和40年代、ガソリンスタンドなどの店頭で活躍した。
送風機から内部に送り込まれた空気が、人形の体を膨らませ、立ったり座ったりする仕組み。
顔は愛くるしいが、突然上下に伸び縮みする動きを怖がる人も多かった。
この動きを活かせるパートは、ウィンドチャイム。
左手が金属棒に当たるようにセットし、上下動によって音を奏でる。
さらに、メロディー担当の安全太郎トリオは、正確な音を出すため、それぞれ担当する音の弦1本だけを残したギターに改良。
この“ド・レ・ミ"担当に加え、急遽、ガレージ近くの倉庫にいた2体も引き取られ、“ファ"と“ソ"担当として改造を施されることに。
そして、このバンドのネーミング。
長瀬「サンタを漢字で書いて、“三田(みた)バンド"」
「鬼泣かせ」は“鬼ナガセ"、「エントランスロボット」は、“ベビーフェイス"、ギタートリオはそれぞれ“マモル"、“テル"、“ヨコヤマ"と命名し、リストラロボット楽団・三田バンドが結成!
さっそく、三田バンド初の通し練習。
ギター担当長瀬は、ギタートリオの電源を繋げたマルチタップのコンセントスイッチをオン・オフしながら演奏させ、打楽器担当太一は、パートのタイミングでそれぞれのスイッチを入れて演奏。
ベルの勝関から、ドラムの球道、そしてウィンドチャイムのベビーフェイス。
最後に、鬼ナガセでシメを飾る。
しかし、実際やってみると各パート演奏までに時間がかかり過ぎ、さらに、ギターのリズムもバラバラでメロディに聞こえない。
とにかく、メロディに合わせ素早く対応できるように改良する必要がある。
訪れたのは、いつもカスタマイズを支えて下さる東京大田区『城南』。
最も出番の多い“ミ"音担当のヨコヤマの動きで見てみる。
素早い音出しとするにはどうすればいいのか、技術部清水さんの見解は、
清水さん「ギターを弾く時、演奏者は肘を軸に動かす」
つまり、重要なのは肘より先で動かし、ピックは常に弦のそばにあること。
ところがヨコヤマは、肩を軸に動かしていることから、大振りでピックが弦から離れ過ぎ、次の音まで時間がかかる。
肘にもう一つ関節を作る改良で、てこクランクの運動が、手の先に小さく伝わり、素早いピックの動きとなる。
つまり、ヨコヤマの腕を肩が支点の動きではなく、肘が支点の運動にする。
そして、右手の先には、かつて愛用した誘導灯をあしらい、ピックも本格的なものに変更。
ギター5体の先陣を切って、“ミ"担当「ヨコヤマ・改」が完成。
動きは見違えるほどに素早くなり、彼の表情も心なしか凛々しい。
そして、合流が遅れていたギター“ファ"担当“ジェファ・ベック"と、“ソ"担当“ジミヘソ"も到着し、カスタマイズ完了。
もう一つ問題だった長瀬と太一とで行う、各マシンのオン・オフのスイッチもタイミングが遅れる原因となるため、城南のプロの力で、電子配線によるリモコン一括操作に改良。
また、球道くんの腕を振り下ろす、ゆっくりした動作もカスタマイズ。
動き出しの位置を変え、見事なクイックモーションにフォーム改造。
タイミングを制御することで、新たな魅力と可能性を秘めた新生・三田バンド。
準備が整い、本番を想定しての最終リハーサル。
決して完璧なジングルベルではないものの、何とか曲として成り立った演奏をすることが出来た。
長瀬「色んなノイズの入り混じったジングルベル」
不安は少々残るが、本番はもうすぐ、だん吉で東京湾を東へ。
デビューの舞台は、千葉県船橋市「三井ショッピングパーク ららぽーとTOKYO-BAY」。
夜もにぎわうハーバー通りの一角に、三田バンド、セッティング完了。
長瀬と太一は、舞台袖の見えない位置で操作する。
20時半の開演を前に、幕の前には何事かと足を止める多くのお客さん。
リストラロボット達の復活のメロディとなるか、いざ開演!
長瀬の即興アレンジで曲がスタート。太一の操作、パーカッション担当のロボット達の演奏もタイミングはぴたり。演奏は順調に進む。
そして、無事、ジングルベルの演奏、初舞台は終了した。
お客さんの様子は… 喜び、驚き、戸惑いとまちまちの反応。
長瀬「(お客さん)キョトンとしてますね」
ともあれ、見事デビューを飾ったリストラロボット楽団・三田バンド。
ライブ活動は、これからも続く!?

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