1975年、来日した英国のエリザベス女王が拝観したこともあり、以後、「ロック・ガーデン」として世界中に広く知られることになる京都・龍安寺の方丈庭園、通称「石庭」。今秋開催の特別展「京都」では、約1年にわたって超高精細映像の「4K」で撮影した「石庭の四季」を、方丈の縁側のほぼ実寸大(幅約16メートル)の巨大スクリーンに映し出し、「空間」として表現する。
その京都での撮影に同行し、最新技術によるこの展示映像がどのように作りだされるのかを制作に携わった技術者4名に伺った。
■ 「4K」って何?
—— 今回、撮影にも同行させていただきましたが、そもそも今回の展示映像の「4K」とはわかりやすくいうと何でしょう?甲斐 | 単純に言うと、ハイビジョン地上デジタル放送の解像度が4倍。つまり、「テレビ4台分の情報」ですね |
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藤原 | たとえ、画面を4倍に大きくしても画面が荒れないんですよね。 |
高橋 | デジカメと同様に考えてもらえれば。30万画素で撮ると、小さいサイズの画面で見てもキレイではないですよね。200万画素で撮ればA4サイズの紙に出力してもキレイだねっていうのと一緒なんですよ。 |
甲斐 | ハイビジョンだと大体200万画素。4Kは約800万画素。解像度が上がるとそれによって得られる効果が変わります。結構奥行き感が出てきたり。ハイビジョンの場合は、大体60インチ前後のTV画面で見てもキレイだって言われますけど、4Kは4倍の大きさにも出来ますので、150インチのTV画面で近寄って見ても充分キレイな画質になります。だから、「デジタル一眼レフ並みの解像度」なんですね。 |
そもそも「4K」とは?
KはKm(キロメートル)やKg(キログラム)の「K」と同じ、単位を1,000倍する時に使う表現です。つまり「4K」で「4,000」。映像の場合、画面横方向の「画素」数が約4,000ということです。デジタル放送のいわゆるハイビジョンは、映像1フレームが横1920×縦1080画素。横1920=「2K」です。「4K」はこの2倍。横が2倍になることで縦も2倍になり、「1フレームあたり、HDの4倍の画素数を持った映像」と理解するのが簡単な方法です。
■ 3Dから始まった企画
—— 今回の展示映像を制作されたキッカケから教えてください。甲斐 | 私たちは技術統括局ですが、キッカケはイベント事業部からの企画書でした。通常の展覧会、博覧会というのは、美術品が置いてあり、それをお客様に見てもらうのですが、今回の特別展「京都-洛中洛外図と障壁画の美」は「日本テレビ開局60年特別美術展」という位置付けなので、テレビ局が主催する美術展として何か映像を使ったことができないか、というのがイベント事業部の企画への思いでした。 2010年の2月くらいに企画書の第一稿を受け取っていましたね。ちょうどその頃は2009年末に『アバター』という3D映画が流行り、弊社内でも技術開発部の僕やコンテンツ技術運用部の藤原徹が「3Dコンテンツ開発プロジェクト」というプロジェクトに加わり、3Dを社内で放送するのに色々試行錯誤をしていました。 イベント事業部としては、「映像+最新の技術」を駆使して何か映像展示物を、という思いがあり、当時3Dをやっていた技術開発部の私と技術戦略部の曽我に相談がきたのですが、当初は「3Dで何かできませんか?」という問い合わせでした。ところが我々技術陣としては、美術展の開催が2013年10月と聞いて、本当にその2013年頃にも3Dが最新技術でいられるか、判断がつきかねる部分もありました。 |
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—— 遅れている印象になるのではと?
藤原 | その頃には「最新」とは言い難くなっているかもしれない、と。 |
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甲斐 | 技術者として「3D以外の可能性」もあると思い、色々とブレストをしたんですね。そこで「裸眼の3D」も可能性としてあるんじゃないか、と。 |
—— 「眼鏡を掛けない3D」ということですよね。
甲斐 | 掛けないで、人や何かが飛び出てきたりとかするのも良いんじゃない、と。しかし、ちょうどこの構想を練っている間に他の展覧会で同様のことが行なわれていたようで、最終的には「ストレートにパノラマの映像を見る」をやってみましょうか、ということになりました。 |
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■ 「ドタ勘」で決めた4K
甲斐 | そこでパノラマを実現する手法として「4K」という超高精細な映像技術に着目しました。以前から「4K」というのは映画業界では使われていた技術ですが、「テレビ放送ではないイベント展示物」であれば、そういう超高精細な映像の活用も面白いかもしれない、というところからですね。しかも今回の石庭の展示映像は、「マルチ」という「横に長いパノラマ」になっています。実寸大のパノラマとなるとかなり大画面になり、それなりの解像度がないと厳しいので、4Kが相応しいのではないのかな、と。 ですが、今でこそ「4K」って言葉もよく聞かれるようになりましたけど、ちょうどその頃は少しだけ芽が出始めそう、という印象でした。2010年の段階でも、4Kのカメラはあまり市場に出回ってなかったんですよね。映画でよく使われる「RED ONE」というカメラがあったんですけど、ラインナップが少ない段階でした。2013年10月に展示するためには、2012年夏を「撮影開始時期」と想定していたのですが、最終的には、おそらくその頃には4Kカメラが流通しているだろうという「ドタ勘」で。 |
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藤原 | 「石庭の一年」を撮影したいから、逆算すると2012年の夏なのですが、その頃にはそこそこ出回っているかな、と。 |
甲斐 | 我々技術陣の直感で、本当に何も保証はなかったんですけど、色々なメーカーにリサーチで当たって調べていったところ、その頃には出回るらしいという情報もあったので進めてみることになったんです。(つづく) |
取材・文/黒岩 広義(108UNITED)