龍安寺の石庭は方丈から見る。方丈に入り、靴を脱いで左に曲がると石庭に出会う前に、目の不自由な方が触って鑑賞出来る様に「ミニ石庭」が設置されている。
石庭には大小15の石がある。石は5群に別れており、「一度に全てを眺めることが出来ない」と言われている。白川砂を敷き詰めた枯山水の方丈庭園は、作者も作庭年代もそして制作意図もすべて不明だ。
禅寺にふさわしいミステリーのようだが、果たして本当に一度に眺めることは出来ないのか。4Kの本番撮影中は音を立てぬよう息を潜めて黙って見つめているだけなのだが、撮影の合間を縫って一度に15の石を眺められる箇所はないか探ってみた。だが、カメラ4台の存在もあり、自由には動けずどうにも確認出来ない。
石の位置を再確認するため、ミニチュアの石庭に立ち戻った。左から数えてみる。第1群が5つ、第2群が2つ、第3群が3つ、第4群が4つ、第5群が3つで合計15。確かにこの写真でも第3群の石の一つが埋もれてわかりにくく、全部で14に見える。でも、よく見ると第3群にも3つあるから……こうやって「俯瞰(ふかん)」で見たら「すべて見える」!?
閃いてしまった。禅寺ゆえか、一休さんのトンチのように。確かに脚立などに昇って斜め上から撮ればすべて見えるかもしれない。だが、貴重な4Kの撮影時間に、石庭の謎解きを検証してみたいとは言い出せなかった。
■ 一度きりの撮影チャンス
—— 2012年の9月頃はまだ4Kのカメラの入手は難しかったですか?甲斐 | このときはまだ各メーカーから出て間もない時期でした。2012年の4月にアメリカの『NAB(National Association of Broadcasters)』という世界最大の放送機器展で、キヤノンさんが4Kで撮影できるカメラを初めて発表して、まさしく今回撮影に使用したカメラなんですけど、それが出回るのが2012年の年内ぐらいでは?と言われていたんです。そこからキヤノンさんにアプローチをして、何とか11月の紅葉の時期から撮影に間に合う様にお借りできませんかとお願いしました。 |
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—— 展覧会までに秋の撮影チャンスは一回しかないですよね。
甲斐 | そうです。スケジュールとしてはココが最初で最後。機材調達が間に合うかどうかギリギリだったんですよ。我々の撮影の2週間ほど前に、日本で『Inter BEE』という放送機器展があり、そこでキヤノンさんが4KカメラなどをPRしたんです。展示会開催前の機材を貸すことはできないが、展示会が終わってからならばと、出来立てホヤホヤの4Kカメラをなんとか貸していただき、ギリギリ紅葉の撮影に間に合ったのです。 |
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■ 枝垂桜(しだれざくら)の激しい変化
—— 皆さんは石庭を何度も訪れて、そこで長時間にわたって撮影をされてますが、石庭の一番の魅力とは何でしょうか?甲斐 | 魅力の前に、まずいつも寒かった(笑)。キレイだし、心が改まるような感じにはやっぱりなるんですけどとにかく寒い。撮影時間が拝観前の早朝5時からだったりで、お寺の板張りの廊下は足から冷えてくるというのもありますけど。 「魅力」という意味では、やっぱりあの静けさ。独特の静けさがあって、シーンとしているんですけど、不思議な空間ですよね。風がスーッと吹いたりすると、ザワザワっと来るんですよ。そういう感じのゾクゾクする不思議な空間でした。 |
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藤原 | 石庭の「四季の変化」がスゴいなと。同じ植物が赤くなって冬枯れになって桜が咲いて緑が青々としていく。それが一つの植物の中で起こるというのが。四季がある日本に生まれて良かったなって思いましたね。 |
甲斐 | 枝垂桜の変化がスゴいんです。 |
藤原 | 冬なんて葉っぱは全て落ちて何もなくなってしまいますから。このまま枯れてしまうんじゃないかと心配したら、春になるとちゃんと花が咲いて。夏になるとちゃんとまた青々と葉っぱが出てきてっていうのは・・・。 |
高橋 | 枝垂桜もいいですが、その脇を固める楓などを見ると庭を造った方が上手いのかなと。秋には枝垂桜(しだれざくら)は寂しいけど、上手く周りの木々が盛り立てている。あと意外と苔がね。一応、苔も冬は冬で確かに枯れているんですよ。春でちょっと青々してくるんですよね。 |
堤 | 画面の半分以上が龍安寺の屋根とか砂利とか「一年を通じて変わらないもの」。でも、その後ろの木々は季節によって変わっていく。時間とか天候によって表情が180度変わるというのも、今回気づけた点ですね。同じ表情をしていることがないんですよね。時間が経過すると。 |
甲斐 | だから、何も動いていないにもかかわらず、全体の印象もやっぱり違ってきます。 |
堤 | 影の見え方も10分もすれば変わるんですよね。 |
甲斐 | 人によっては、「本来は石を見るべきだ」とか言うんですけど、後ろの背景も伴って見ると、ちょっと楽しみが変わってくるのかなという気がしますよね。光によって、屋根の表情もすごく色々変わるんです。本当は一日中撮影できたら面白いなと思ったんですが、朝と夕方しか許可されなかったので。 拝観に来る方たちも皆さんずっと石庭を見ているじゃないですか。「時が止まる」じゃないですけど、何か見入ってしまう空間ですよね。 |
高橋 | 京都でもなかなかこういう独特の雰囲気ってないんじゃないですかね。 |
甲斐 | ずっと見ていても全然飽きないですよね。 |
高橋 | だから、何が面白くてここにいるのかというと、何ですかね。何か妙に落ち着くんですよね。座っていると。 |
甲斐 | 本当に時が止まっている感じ。木々は動いていたり風は吹いていたりするんですけど、止まっている感じのスゴい不思議な空間なんですよね。 |
高橋 | 拝観終了後の夕方17時から日没までが私たちの撮影時間なのですが、お客さんが見入ってしまってなかなか帰らないので、私たちの撮る時間がどんどん減っていくわけですよ。 お客さんが全員帰ってからでないと撮影準備ができないので(笑)。(つづく) |
取材・文/黒岩 広義(108UNITED)