「毎晩子どもに絵本を読んで聞かせています!」という方も多いかもしれません。忙しい毎日の中でも、この時だけは、やさしい声でゆったりとした時間を過ごしたい。ところが、特に子どもが小さいうちは、もういい!とばかりにパターンと本を閉じられてしまったり、途中でプイッと横を向かれてしまったりと、思う通りにはいかないものです。それでも何とかして集中して聞かせたいのが親心。時にはコチラがむきになってしまうという声も・・・。
しかし、そもそもなぜ絵本が大事なのでしょうか?子どもに本を好きになってもらいたいから?字を覚えてもらいたいから?
きょうは、ママモコモが「絵本を読み聞かせる意味&ポイント」を聞いてきました。
山本直美さん
NPO法人子育て学協会 会長
幼稚園の教諭を6年勤めたのちに独立し、オリジナルの絵本教材を開発・実践。
現在は、子育てへのアドバイスを行う講座も開催。
著書に『子どものココロとアタマを育む 毎日7分、絵本レッスン』など。
<ママモコモメンバー>
さとえ
5歳双子男児のママ、寝る前に1冊読み聞かせするのが習慣
kyo-ko
4歳女児のママ、絵本をとるか、睡眠をとるかで悩む日々
何のために絵本を読む?
kyo-ko
子どもが生まれると、親はだいたい「絵本を読んであげなくては!」と思うものですが、最近ふと「ひたすら読み聞かせているだけで良いのだろうか」と不安になりました。子どもは喜んで聞いているので、それはそれで良いのですが、結局、「絵本を何のために読み聞かせているのか」というのがわからなくなってきてしまって・・・。
山本さん
絵本を何のために読むのか。その点をあまり意識していない方は、意外と多いのかもしれませんね。私は、絵本は「人格形成」のためのツールだと思っています。
さとえ
人格形成のためのツール・・・ですか?
山本さん
そうです。私が幼稚園の教諭をしていた時のことなんですが、子どもたちが年長さんくらいになると2つのパターンに分かれてくるような気がしたんです。たとえば、先生が「何かをしよう」と言ったときに、「なになに?」と興味をもち、場合によっては「ああ、それならこうしたらもっと面白いんじゃない?」などと言いながらどんどん入ってくる子どもたちがいる一方で、「えー・・・」と言って尻込みし、極端な場合は「外に行ってもいい?」などという風に全然関係ないところへ行ってしまう子どもたちが出てきます。この差はいったいどこから来るのだろうかと考えました。それで、何が違うのかを日々観察し、記録しはじめたんです。すると浮かび上がったのが「絵本の存在」でした。積極的にかかわってくるグループの子どもたちは、みな絵本が好きで、園でもよく集中して聞いていて、加えて心も安定しているように感じたんです。
kyo-ko
絵本が好きだと、何が違ってくるとお考えですか?
山本さん
やはり、「言語能力」です。勉強においても、人とのコミュニケーションにおいても、言語能力はどんどん重要になってきますよね。たとえば、算数や理科でも、結局は国語がわからないと問題が解けないとよく言われます。人の成長過程において、言葉は最も大切なものの一つと言っても良いと思います。
kyo-ko
つまり、絵本が好きだと言語能力が高まり、言語能力に優れているとコミュニケーションもうまく図れるようになって、最終的には人格形成に役立つ、と、そういうことでしょうか。
山本さん
そうです。教育は、何のためにするかというと、その子が人の話を聞けて、自分の意思を伝えられて、好きなことにチャレンジできて・・・と、そういうことだと思うんです。そのためのツールとして、絵本はとても優れていると思うんです。
kyo-ko
やはり、漫然と読んでいてはもったいない気がしてきました。
子どもの表情をキャッチ
さとえ
でも、実際問題、子どもに絵本を好きになってもらうにはどうすれば良いのか、難しいなと思うこともあります。たとえば、うちの子は5歳で、絵本は比較的好きなほうだと思います。それでも、絵本の途中で、たまにふと現実に戻った顔をすることもあって、「あれ?もう面白くないのかな」と思ったり。
山本さん
そういうこと、ありますね。大切なのは、その子どもの表情を見逃さないことです。聞いている子どもの様子をよく観察することが大事です。現実に戻った顔をするのは、そこで集中が切れているんです。物語についていけなくなっている可能性があると思います。もしかすると、言葉の意味がわからないのかもしれません。
kyo-ko
その子がどこまでを理解しているのか、見極めるのは難しいですよね。うちも、わかっているだろうと思って読み進めると、あとから、すごくとんちんかんな質問をされることがあって、あれ?と思うことがあります。それ、前のページに書いてあったよね??的な(笑)。
山本さん
長いストーリーになってくると、何度か繰り返し読むうちに理解するということもあります。大人でも小説を読んでいて、前のページに戻ることってありますよね。それはそれで良いんです。ただ、気にしたほうが良いのは、子どもの頭の中で、「文章」と「想像」がリンクしているかどうかという点です。絵本に絵があるのは、子どもの想像力を補うためです。だから小さい子用の絵本は絵が多い。大きい子向けになってくると、今度は字が増えて、絵が少なくなる。つまり絵がなくても、文章を聞いて頭の中で場面が想像できるということなんです。でも、この「想像」の部分がうまくいかなくなる、つまり頭の中に映像が浮かばなくなると、つまらなくなって集中が途切れるというわけです。
kyo-ko
そういえば・・・、絵にあまり色がない、モノトーン調の絵本ってありますよね。絵はカラフルなほうが美しいのに、ああいう絵本は一体何のためにあるのだろうと疑問に思っていたのですが、もしかすると、そのためですか?
山本さん
そうです(笑)。あれは、絵本から、絵がない本へ、つまり児童書に移っていくための1ステップなんです。普通の絵本が十分楽しめるようになってきたら、今度は白黒の絵本を取り入れてみる。そうですね・・・、この段階で、素話を取り入れるのも良いと思います。「きょうは絵本はなしで、ママのお話を聞いてね」という風に。そこもクリアできたら、次は絵が描かれていない、字だけの本を読んでみる。そこも楽しめるようになったら完成です。字だけの本を楽しめるようになれば、そこまで言語能力が高まったということです。そうなれば、その先の読書につながりますし、学校の授業にもついていきやすくなります。
kyo-ko
絵本にも段階があって、その子に適したものを選んであげる必要があるんですね。
絵本の世界を、現実に広げていく
さとえ
もう一歩現実的な迷いどころとして、何歳でどのレベルの絵本を選んでいけば良いのかというのも教えていただけると嬉しいのですが。
山本さん
赤ちゃんの頃は、文字なんてなくても、絵を見て「ほら、リンゴだね」などと話しかけてあげるのが大事です。赤ちゃんの頃は、たとえばママが持っている絵本を閉じてしまう仕草を見せたり、またはかじってしまったりすることもありますが、それは絵本そのものに興味を持っている証拠です。
kyo-ko
むきになって「意地でも最後まで読んでやる!」という必要はないんですね。
山本さん
そうです。その次の乳児期のステップとして、私が大切にしているのは、「絵」と「言葉」と「音」の一致です。ガタンゴトンと電車が走る絵があったら、今度は実際に電車のおもちゃを出してきてガタンゴトンと走らせてみて、外に行ったら本当の電車を見せてみる。「あ、本当だ!ガタンゴトンって走っているね」という具合です。トマトの絵が出てきたら、冷蔵庫からトマトを出してきてちょっと触ってみたり、においをかいでみたりする。もう少し大きい子なら、お買い物に行った時に「トマトを探してみようか」と言って宝探しのように楽しんでみるというのも良い方法です。
kyo-ko
絵本を読むだけではなくて、それを体験につなげるというわけですね。
山本さん
私が開発したプログラムでは、この部分を時間をかけて徹底してやります。さらに遊びに発展させて、紙やのりやはさみなどの材料だけ用意して、「トマトを作ってみようか」と声をかけたり、トマトで料理をしてみるということもします。家庭では、たとえば動物園に行く機会があれば、その前の日に動物が出てくる絵本を読んであげるというのも効果的だと思います。
さとえ
それ、いいですね!
山本さん
子どもは、絵本で見た動物が、実際に動物園で動くのを見て「あ!」と発見するのも喜びですし、自分で紙工作したトマトは愛着がありますから大切にとっておいたりします。幼児期向けの絵本として「行きて帰りし物語」というのがありますが、ご存知ですか?
kyo-ko
行きて帰りし、ですか?
キーワードは「快動」
山本さん
「行きて帰りし物語」というのは児童書用語で、たとえば「おおきなかぶ」のように、同じフレーズが繰り返される物語のことです。大人にとっては退屈だったりもするんですが、多くの子どもは同じフレーズの繰り返しが大好きです。何度も同じ音を聞いたり、また、例えば普段の遊びでも同じ動作を繰り返したりします。こういう子どもたちの「快動」を私は大切にしています。「快動」というのは私の造語なのですが、子どもが「心地よい」「楽しい」と感じるもののことです。楽しいから繰り返すわけです。私は、この「快動」を繰り返し引き出してあげたいと思っています。だって、何かを楽しい!と感じる力は、社会人になって仕事をする上でも、とても重要ですよね。
2人
(大きく頷く)
山本さん
子どもはこうして何かを楽しむ力をもともと持っているんです。それをできるだけ大人が削がないことです。よくお母さんやお父さんが「この子はこれができなくて・・・」と、その子の前で言ったりしますよね。親としては謙遜も交じっての表現だったりするんですが、お子さんは「ああ、私はこれができないんだ」と認識してしまい、その子の可能性を閉じてしまうことにもつながりかねません。「意識づけ」と言うんですが、この「意識づけ」を間違わないでくださいと、私はすべての親御さんに言いたいんです。
2人
思い当たる節が・・・。グサグサッと来ますね。
山本さん
子育てについて学ぶ講座もやっていますので、聞きに来てくださいね(笑)。
2人
はい!絵本だけではなく、普段子どもに語りかける言葉にも気をつけたいと思います。
きょうは、ありがとうございました。
ママモコモメンバーの疑問、聞いてみました!
- ●乳児編(生後8か月男児のママ)
- Q.家にある絵本が5冊。ある1冊がお気に入りで、何度も読んでとせがまれます。同じ絵本ばかりでいいのでしょうか?
- A.もちろん、お気に入りの本は大切に何度も読んであげましょう。でも、それと同時にいろいろな絵本に触れるのも大切なことです。2冊目に、「今度はママが好きなこの本も読んでみようか」などと誘ってあげてみてください。必ず成功しなくても、あるとき、ふと赤ちゃんの気が向くことがあると思いますよ。
- ●幼児編(4歳女児のママ)
- Q.文字に興味を持ち始め、時折、自分で必死に読む姿も見られるようになってきました。絵本を自分で読むようになるタイミングはいつごろと考えて良いのでしょうか?
- A..興味を持って読むのは良いことです。でも、気をつけたいのは、「読める」ことと「理解できる」ことは違います。子どもは文字が少し読めるようになると、まるでパズルをしているかのように本を読むことがあります。でも、そのことと、内容を理解して楽しむこととは全く別です。ですから「自分で読みはじめたからいいや」としてしまわないで、それとは別に「今度はママに読ませて」と言って読んであげて、理解度を確認してあげてください。
- ●児童期(8歳女児のママ)
- Q.本は好きでよく読むのですが、図書館でまとめて借りてくると、その中に絵本が混じります。もう少し字の多い本を読んでほしいと思うこともあります。高学年向けの本に興味を向かせる技があれば教えてください。
- A.絵本が好きな子っていますから、絵本は絵本で良いと思います。世の中には大人向けの絵本があるくらいですから。それと同時に、少しずつステップアップさせるには、読んだ本の感想をどんどん聞いてあげるのが良いと思います。自分も読んでみて、感想を言い合うのも良いと思います。実際自分も読んでみると、子どもの頃に読んだ時とはまた違う感想を抱いたりして面白いですよ。そうすることで、本への興味をどんどん引き出してあげてください。