京都の市中(洛中)と郊外(洛外)の街並みと風俗を、高い視点から見下ろして描いた「洛中洛外図」は、室町時代に生まれ、江戸時代を通して数多く制作されました。本展覧会では国宝、重要文化財に指定されている「洛中洛外図屏風」全7件*、すべてを展示します。
現在、国宝、重要文化財に指定されている「洛中洛外図屏風」は以下の7件です。
国宝「洛中洛外図屏風 上杉本」狩野永徳筆(山形・米沢市上杉博物館蔵)、重要文化財「洛中洛外図屏風 舟木本」岩佐又兵衛筆(東京国立博物館蔵)、重文「洛中洛外図屏風 歴博甲本」(千葉・国立歴史民俗博物館蔵)、重文「洛中洛外図屏風 歴博乙本」(千葉・国立歴史民俗博物館蔵)、重文「洛中洛外図屏風 福岡市博本」(福岡市博物館蔵)、重文「洛中洛外図屏風 勝興寺本」(富山・勝興寺蔵)、重文「洛中洛外図屏風 池田本」(岡山・林原美術館蔵)。
これら国宝・重文指定の「洛中洛外図屏風」が一堂に会する、まさに本邦初の展覧会です。
*会期中展示替えがあります。
重文「洛中洛外図屏風 舟木本」は国宝「洛中洛外図屏風 上杉本」と優劣をつけ難いほどの名品で、浮世絵の創始者といわれる岩佐又兵衛(1578-1650)によって描かれました。
又兵衛は、武将荒木村重の子といわれています。信長への謀反によって一族郎党は惨殺され、生き残った又兵衛は絵師として身を立てることになりました。
又兵衛は、古来描かれたやまと絵の主題やモティーフを独特の形態感覚でとらえた人物図や、彩り豊かでありながら凄惨な場面が繰りひろげられる絵巻物で知られます。さらに「洛中洛外図」や「祭礼図」といった風俗画では、豪華絢爛な画面のなかに、群集のエネルギーが溢れています。安土桃山時代に活躍した絵師のなかでも又兵衛は破格の存在です。
大坂の陣の直前と思われる京都を描いた「舟木本」ではさまざまな人間模様をつぶさに描写しており、画面からは享楽にふける人々の熱気がほとばしるよう。その一方で、豊臣家(豊国社と方広寺大仏殿)と徳川家(二条城)を対峙させ、当時の緊迫感もあらわしています。「舟木本」をより深くご覧いただくことによって、又兵衛がどんな「京都」を夢想したのかを感じていただけると思います。
本展の見どころのひとつに、先進の技術による展示映像があります。
「洛中洛外図屏風 舟木本」の高精細画像を4×4メートルの大型スクリーン4基に拡大投影。緻密に描かれたその細部までご覧いただきます。
さらに、「龍安寺の石庭」を1年にわたって超高精細映像4Kで撮影しました。国内外を問わず人気を誇る石庭の移ろいゆく四季を、ほぼ実寸大(幅約16メートル)の巨大スクリーンに映し出し、空間として表現します。フルハイビジョンの4倍の解像度を誇る4K映像は、枯山水の空気感をも再現し、まるで龍安寺にいるかのような感覚を体験していただけることでしょう。
龍安寺の方丈の石庭を見渡す室内には、かつて90面の襖絵がありましたが、明治の廃仏毀釈の時代に売却され、その後散逸しました。そのうち12面はアメリカにわたり、現在、メトロポリタン美術館とシアトル美術館が所蔵しています。また、6面は2010年、アメリカのオークションにかけられ、英国人の仲介により、115年ぶりに龍安寺に戻りました。
龍安寺を飾っていたこれら18面が一堂に会するのは、1933年に大阪城で展示されて以来のことです。また、メトロポリタン美術館所蔵の「列子図襖」は、今回が初めての里帰りです。
慶応3年(1867)、第15代将軍徳川慶喜が大政奉還を近臣に諮問したといわれる、二の丸御殿黒書院一の間、二の間を飾っていた、狩野尚信筆の障壁画、全69面を展示します。また城のシンボル、二の丸御殿大広間四の間を飾る狩野探幽の「松鷹図」15面も出展。今日の二条城では、複製模写が展示されているその空間を、本物の障壁画で再現します。これほどの規模で二条城の障壁画が出展されるのは、もちろん史上初めてのことです。
洛中洛外図屏風 舟木本 左隻2扇(部分)