STORY

第5話
2024.08.17 OA

さくら(小芝風花)がいつものように名前のない墓石に向かって手を合わせていると、珍しく利根川とねがわ(吉田鋼太郎)がやって来る。「もう、9年になるか」と桜の隣で手を合わせる利根川。すると桜のスマホに母から着信。でも、桜は電話に出ようとしない。9年前、桜の身に起こったことを、利根川だけは知っているようで……。

桜たち身元不明人相談室に、3日前に都内の商店街で突然倒れて亡くなった中年女性(阿南敦子)の身元調査依頼が舞い込む。死因はくも膜下出血で、所持品は小銭入れと自転車の鍵だけ。側頭部に新しい傷痕が見られたが、監察医によるとくも膜下出血とは無関係で、事件性はナシ。
女性は意識を失う前に「さとう」とつぶやいたらしいが、桜たちが商店街の防犯カメラ映像をたどって身元を突き止めた結果、女性の名は佐藤ではなく高倉桐子だと判明。死後3日もたっているのに捜索願が出されていないことから、身寄りのない一人暮らし……と思いきや、桐子のSNSには、この春に医大を卒業したばかりだという娘との仲むつまじい写真が投稿されていた。桜とまこと(大島優子)は「一刻も早く知らせてあげないと」と高倉家へ急ぐが、あろうことか、娘・紀子(久間田琳加)は自宅で手首を切って自殺を図っていた……!

紀子は一命を取り留めたものの、医大卒は母・桐子の真っ赤なウソで、紀子はこの7年間、医学部を受験し続け、合格すらしていなかった。にもかかわらず、桐子は近所の人に「娘は医大に通っている」とウソをつき、夫とも5年前に離婚。桜は、母親のエゴが紀子を追い詰めたに違いないと決めつけ、亡くなった桐子を「最低な母親」と非難。一方の真は、紀子の境遇に感情移入しすぎる桜の過去が気になって……。

そんな中、桐子の死と紀子の自殺未遂は意外な展開へ!さらに、桜の部屋に母・葉月はづき(鈴木杏樹)が訪ねて来て、真も知らなかった桜の過去が明らかに!9年前、桜の身に一体何が!?

以下、ネタバレを含みます。

桜は突然部屋を訪ねて来た母・葉月を「今友達が来てるの……悪いけど今日は帰って」と冷たく突き放す。部屋にいた真が気を利かせて帰ろうとすると、桜は真の手をつかみ、「いいから、居て」。明らかに動揺している桜のことが気になる真。その夜、桜のスマホの留守電には、『また一緒に暮らしたい』という葉月のメッセージが残されていた。

病院で意識を取り戻した紀子は、桜と真から桐子の死を告げられると、気を落とす素振りもなく、桐子が死んだ日の出来事を淡々と振り返る。あの日、紀子は出かける直前の桐子と口論になり、つい桐子を突き飛ばしてしまった。桐子の側頭部の傷は、その時に頭をぶつけてできたものだったのだ。「散々自分の理想を押し付けて、私の人生を奪ったくせに、あっけなく死ぬなんて、ほんと自分勝手」と桐子への恨みを口にする紀子は、遺骨の引き取りも拒否。そんな紀子の気持ちを推し量る桜は「お母さんは、私たちが責任を持って弔わせていただきます。その代わり、二度とバカなマネはしないと約束してください」と、自ら命を絶とうとした紀子を強い口調でとがめる。
ところがその直後、桜と真は、紀子の浪人生活に不可解な点を発見。紀子は模擬試験の結果がA判定だったにもかかわらず、3年連続で試験会場を自ら途中退席していたのだ。桜は「わざと受からないことで母親に復讐していたのかもしれない」と考えるが……。
一方、桐子の元夫・正二は、すでに再婚して新しい家庭を築いていた。「あの2人のことは、なかったことにしてる」と、自分は今回の件とは無関係だと主張する正二は、医学部受験に躍起になっていた桐子に嫌気が差して離婚したという。「いまだにやっていたなんて……バカな女だ」と吐き捨てる正二に、桜は「ほんとそうですね。でも一番苦しい思いをしたのは娘さんです。助けてあげようと思わなかったんですか?」と食ってかかる。利根川が仲裁に入りその場は収まるが、紀子に感情移入しすぎている桜を心配する真は、何かを知っていそうな利根川に、「室長は何かご存じなんですか?桜とお母さんに何があったのか」――。

利根川の話では、父親を早くに亡くした桜は、小学生の頃、葉月の再婚によって新しい父と暮らすようになったという。しばらくして年の離れた妹が生まれ、桜も妹をかわいがったが、次第に父の愛情が妹だけに向けられるようになり、さらに今まで味方でいてくれたはずの葉月までが父の顔色をうかがって桜から離れていった。孤独感にさいなまれた桜は、何も知らずに幸せそうに眠る妹を見て自分を抑えきれなくなり、妹の口をふさごうとして――直後、我に返った桜は自分で自分が恐ろしくなって家を飛び出し、歩道橋から身を投げようとしたのだ。幸い、その場を通りかかった人に救われて未遂に終わったが……「俺はいろいろあって、その時の事情聴取を担当したんだ」と当時を振り返る利根川。それ以来、桜は死を選ぶ人の痛みが理解できてしまうようになり、同時に、母親と向き合えなくなってしまったという――。

「あなたは迷っていたんじゃないですか」――桜は紀子が自殺しようとした理由にたどり着く。紀子がわざと試験に落ちていたのは復讐のためではなく、今の生活が壊れるのが怖かったから……紀子は桐子を恨むのと同時に、桐子に依存していたのだ。そのことに気付いた桐子から「もういい」と受験をやめるよう言われた紀子は、今の生活が終わってしまうことに焦り、思わず桐子を突き飛ばしてしまった。その後、桐子が家を出たきり帰って来なくなったため、紀子は愛想を尽かされたと思い込み、自ら命を絶とうとしたのだった。
しかし、桐子は紀子を見捨ててなどいなかった。防犯カメラに映った桐子の“最期の瞬間”を見てみると、くも膜下出血により頭全体を激しい痛みに襲われた桐子は、初めは頭を抱えるものの、途中から側頭部の傷を隠すように抑え、そして息を引き取っていた。側頭部の傷のせいで紀子が疑われることのないように……桐子はもうろうとする意識の中で、紀子を守ろうとしたのだ。さらに、冷蔵庫の中に残っていた材料から考えると、おそらく桐子はあの日、紀子の大好きなオムライスを作ろうとしていたはずだ。試験の前日や気合いを入れる時に紀子が必ず食べていたオムライス。それを作って、もう一度、紀子とやり直すために。しかし、途中で砂糖を切らしていることに気付いた桐子は、慌てて買いに出掛け、帰らぬ人となってしまった。「あなたは見捨てられてなんかいない。それだけは信じてあげて」という桜。その言葉が桜自身に返ってきて……。

桜は葉月ともう一度向き合う決心をし、葉月を部屋に呼んで2人で夕食を食べる。「何で私に戻ってきてほしいの?」と尋ねる桜に、「娘と一緒に暮らしたいって思うのは当たり前じゃない」と答える葉月。そんな他愛のない会話をしながら、桜の顔に自然と笑みがこぼれる。もしかしたら、今ならみんなで楽しく暮らせるかもしれない――そう思った直後だった。「一葉が、お姉ちゃんと一緒に暮らしたいって聞かないのよ」。桜のことが大好きな妹・一葉が、高校に入ったら家を出て桜と一緒に住みたいと言っているらしい。「だけどね、そうなったら、お父さんが寂しがるでしょ」――葉月の言葉に、桜はがくぜんとする。やはりこの人は、父の機嫌をとりたいだけなのだ。それなのに、再婚したのも、こうして会いに来たのも、全て桜のためだと言わんばかりの葉月に、桜は我慢の限界に達してついに明かしてしまう。妹に手をかけたこと、そんな自分が怖くて自殺しようとしたこと……。しかし、葉月は桜の気持ちに寄り添うどころか逆上し、「いい加減にしなさい!お母さんを困らせて、何が面白いの!」。桜の気持ちはぷっつりと切れ、「もうこれ以上、嫌いになりたくないから……お願い、帰って」――。
部屋で一人になった桜は、スマホで真にメッセージを打つ。『やっぱりダメだった』。すると次の瞬間、部屋に真がやってくる。こんな時のために、真は手嶋てしま(阿部亮平)との約束を断ってスタンバイしていたのだ。「よくがんばった」と真に抱き締められた桜は、込み上げる涙をこらえることができないのだった――。

翌日、桜はいつものように名前のない墓石に手を合わせながら、9年前に思いをはせる。あの日、死のうとして歩道橋の手すりを越えようとした瞬間、見知らぬ男性(尾美としのり)に腕をつかまれ、桜は命を救われた。男性は息を切らしながら、「下でキミのこと見つけて。気付いたら走ってた。……本当は僕も……同じことを考えて、ここに来たんだ」。だから桜のことを止める資格なんてない、けれど……「僕にも娘がいるから」。桜のおかげでもう一度娘の顔が見たくなったと笑う男性は、「ありがとう。どうか、元気で」と言い残し、その場を去っていた。……が、その直後、男性は突然路上に倒れ、桜の前で絶命してしまった……。 どこの誰かもわからない命の恩人の墓石に向かって、桜は今日も誓う。「私は、元気だよ。あなたの帰りたかった場所に……いつか必ず連れていってあげるからね」――。