身元不明人相談室に、1匹の柴犬がやって来た。2日前に都内の路上でご遺体となって発見された身元不明の女性(大後寿々花)の遺留品ならぬ“遺留犬”だ。司法解剖の結果、女性の死因は急性大動脈解離。犬の散歩中に不幸にも息を引き取ったもので事件性は認められないが、遺体発見時に現場から走り去る人影が目撃されていることから、桜(小芝風花)と真(大島優子)は何やら裏がありそうな予感がして……。
女性の左手薬指に指輪がはめられていたため、既婚者か、あるいは恋人がいるかもしれない。一刻も早くご遺体を帰してあげようと手掛かりを探す桜は、柴犬の首輪に『MAKOTO』の文字を発見。どうやら柴犬の名前は『マコト』のようで……。「道理で融通の利かなそうな顔してる」とつぶやく桜を、「どういう意味かな?」と睨む真。そんな中、SNSを調べていた堀口(戸次重幸)が、マコトの写真をアイコンに使用したアカウントを見つける。ご遺体のアカウントに違いないが、調べを進めていくうちに、事態は予想外の方向へ……。
女性は『チアキ』という名前で、婚活アプリを使って複数の男性と会っていた。しかも不可解なことに、男性たちが話すチアキの印象は、それぞれ全く異なるものだった。ある男性の前では物静かな博物館の学芸員、別の男性の前では明るくておしゃべりな会社員、また別の男性の前では情熱的なヨガのインストラクター……。性格も職業も趣味もバラバラで、誰もチアキの本名や出身地を知らないという。これってもしかして……結婚詐欺師!?
事件のにおいが漂う一方、このままチアキのご遺族が見つからなければ、柴犬マコトは保健所行きになり、最悪の場合は殺処分も……。なんとしても身元を突き止めたい桜と真は、マコトを連れて走り回るが……。
身元不明のご遺体は結婚詐欺師!?愛犬に託した思い……彼女が本当に帰りたい場所とは!?
以下、ネタバレを含みます。
チアキの遺体発見時に現場から走り去った男・杉山が捕まった。杉山は倒れていたチアキの財布とスマホを奪っただけの強盗犯で、チアキの死とは無関係。奪ったスマホはすでに闇ブローカーに売ってしまい、財布は現金だけを抜き取って橋の上から川に投げ捨てたという。捜索の結果、財布は見つからなかったものの、川辺でチアキのものとみられるペット用トリミングサロンの会員証が見つかった。
桜がマコトを連れてトリミングサロンを訪ねると、マコトはサロンの代表・浜野真由美(宮本茉由)を見るなり、尻尾を振って飛びつく。マコトがやけに真由美に懐いているのが桜は気になって……。
チアキの写真を見た真由美は「存じ上げないです」と言うものの、改めて顧客情報を確認すると、マコトとチアキの来店記録が残っていた。チアキの本名は川崎千明。「思い出しました。この方、確か……」。真由美の記憶では、千明の両親は実家で旅館を経営しているらしい。
これで千明とマコトを帰してあげられる……桜は期待を持って旅館を訪ねるが、千明の死を知った母・愛子(円城寺あや)がショックを受ける一方で、父・徹(金田明夫)は「受け取らないと、駄目なんですかね」と遺骨の引き取りを渋る。事情を聞いても、徹は「プライベートなことですので」と口を閉ざしてしまう。
どうにかしてマコトを救いたい……解決策を求めて千明のマンションに踏み込んだ桜は、ウォークインクローゼットの半分がぽっかり空いていることに違和感を覚える。さらに、千明がつけていた指輪のペアリングと、男性とのツーショット写真を発見。写真と一緒に保管されていた名刺を頼りに男性に会いに行く桜。しかし、その男性・宮本圭介(入江甚儀)はなぜか千明のことなど知らないと言い張って……。
千明の婚活の本命は圭介で、指輪まで用意していたが、両親は圭介との結婚に反対していた、だからご遺骨を受け取らなかった……相談室のみんなはそう考えるが、桜だけは「違うと思います。千明さんと恋人関係だったのは……トリミングサロンの真由美さんじゃないかと思うんです」。トリミングサロンでマコトが真由美に懐いていたのは、千明の部屋で真由美も一緒に暮らしていたからで、部屋のクローゼットに不自然なスペースがあったのも、もともと真由美の荷物があったから。部屋にあったペアリングも、よく見ると男性がつけるにはサイズが小さすぎる。「あれは千明さんが真由美さんのために……」。そう言いかける桜を、「はい、そこまで」と利根川(吉田鋼太郎)が制止する。身元不明人相談室の仕事はあくまで行旅死亡人の身元を明らかにし、ご遺骨を帰るべき所にお帰しすること。それ以上でも以下でもない。それに、千明のことを知ろうとして周りの誰かを傷つけたり、千明自身が丸裸にされてしまうことを、千明が望んでいるとは限らない。「千明さんが何を望んでいたのか、それを語れるのは、本当に彼女のことを理解していた人間だけだ」。利根川の正論にぐうの音も出ない桜。……でも、このままじゃ千明は無縁仏になってマコトも保健所行きになってしまう。自分の無力さを痛感して落ち込む桜に、真がアドバイスを送る。「だったら、その人に聞けばいいんじゃない?」。本当に彼女を理解していた人に直接聞けばいい。真にそう言われ、桜はハッとひらめいて――。
「今日はお願いがあって来ました」。桜はマコトを連れて真由美の元を訪ね、千明の気持ちを聞かせてほしいとお願いする。千明の気持ちは、彼女を本当に理解している人にしかわからない……「それが私だと?」と尋ねる真由美に、桜は「いいえ、マコトです」――。最後まで寄り添っていたマコトなら、千明の気持ちがわかるはず、「でも、私にはワンちゃんの言葉はわかりません。だから……この子に聞いてもらえませんか……千明さんがどんな女性だったのか……彼女との暮らしはどんなだったか……彼女のことを、どれほど愛していたのか……」。その言葉が自分に向けられたものだと理解した真由美は、覚悟を決めて語り始める……「千明との時間は、本当に幸せで、かけがえのないものでした」――。
桜の予想通り、千明の恋人は真由美だった。千明はそのことを両親にカミングアウトして認めてもらおうとしたが、理解してもらうことはできなかった。普通に男性と結婚して、旅館の跡取りを産んでほしい……それが両親の願いだったのだ。千明は両親と絶縁してでも真由美と一緒になろうとしたが、そんなことをしたら一生後悔するに決まっている……両親と絶縁してほしくなかった真由美は、自分の気持ちを押し殺して別れを選んだ。そしてその後で、千明と圭介が一緒にいるところを見てしまった真由美は「これでよかったって思いました。千明はご両親のために、そういう答えを出したんだなって」。そうやって今も自分の気持ちにふたをしたままの真由美に、桜は、相談室のみんなが必死に調べてくれた千明の調査結果を報告する。「千明さんは亡くなった時、左手薬指に指輪をしていました」――その指輪は圭介からもらったものではなく、千明が自分で購入したペアリングだった。ジュエリーショップの店員の話によれば、千明は指輪と一緒に携帯用のジュエリーケースも同時に探していたという。おそらく、動物たちを傷つけないよう、仕事中はアクセサリーを付けられない真由美のために……。さらに、圭介は千明の恋人ではなく、同性愛者だった。千明は子どもを作るために、圭介に人工授精を持ちかけていたのだ。その子どもを真由美と2人で育てれば、両親に理解してもらえる日が来るかもしれない……子どもと3人で旅館を継いで一緒に生きていきたい……そんな千明の願いを知った真由美は「三田さん、私も一緒に千明のご両親に会わせてください」――。
真由美は千明の両親と対面すると、堂々と顔を上げて伝える……「千明さんを産んでいただいて、ありがとうございます」。千明と出会えて本当に幸せだった。きっとこれからも、彼女のことを思い出して強く生きていける。だからもう十分。私のことは許してもらえなくていい。でも、千明がどれだけ両親のことを思っていたか、それだけはわかってほしい。「彼女がずっと帰りたかった場所は、ここなんです……だからどうか、お帰りって、言ってやってください……どうか……」。深く頭を下げる真由美の思いが、千明の両親に伝わって――。
千明の遺骨は両親の元に帰ることになり、マコトは真由美が引き取ることになった。桜と真は、千明がつけていた指輪をマコトの首輪につけ、もう片方のペアリングを真由美に渡す……「こうするのが彼女も一番喜ぶんじゃないかと思って」。その指輪を真由美が大事そうに指にはめようとしたその時、桜の目には、千明が指輪をはめてあげているように見えて――「ぴったりですね。よく似合います」。
これでまた一つ身元不明のご遺体を帰してあげることができた……ホッと胸をなで下ろしたのもつかの間、桜と真の周りでは大変なことが起こっていた。手嶋が人けのない場所で何者かに襲われ、拳銃を奪われたのだ――。