さて、2010年10月、ついにワシントンDCに降り立った取材陣。空港からバスに乗り、硫黄島記念碑のあるアーリントン墓地やら、9.11の悲劇の舞台にもなったペンタゴンやら、ある意味「アメリカの魂」的な風景を車窓に見ながら、最初にやってきたのが「モール」である。
正式には「ナショナル・モール」と言うこの地区は、ワシントン最大の観光名所。東から、国会議事堂→ワシントン記念塔→リンカーン記念館と一直線に結ぶように、約3kmにわたって広大な緑地が広がり、その周りを、ワシントン・ナショナル・ギャラリーをはじめとする10館ものミュージアムと、農務省や厚生省などの官公省庁がグルリと囲む。
さらに、ほぼ中央に位置するワシントン記念塔から北上すると、オバマ大統領の住むホワイトハウスにもつきあたるという、まさにワシントンDCの心臓部だ。
イメージとしては、霞が関の機能を兼ねそろえた、デッカイ上野公園といったところ? ただし、その「デカさ」というのがトンデもない。
先ほど「約3kmにわたって広大な緑地が」云々と軽く言ってしまったが、実はこの「約3km」、日本の上野公園と比較すると、直線距離にして、東京国立博物館から上野の山をずーっと下り、湯島天神、東京医科歯科大学、明治大学を経て、神保町駅の手前まで、つまり電車の駅にして3~4個分ぐらいの距離に相当する。
その間、モールにあるのは、天高くそびえるワシントン記念塔のみ。あとは、だだっ広い芝生がひたすら続くのであるからして、その周りをとりまくミュージアムがどんなに大きくても圧迫感はないし、そこにどれだけ多くの観光客が来ていても、まったくせせこましさを感じない。というか、この広い空、広い大地を見ていると、「これは本当に、天下のアメリカの首都なんでしょうか?」と疑いたくなってしまうほど、のどかな空間なのであった。
逆に、ここに本気で人が押し寄せた時というのは圧巻だ。2009年、約200万人が集まったという、オバマ大統領の就任式(あるいは、映画『フォレスト・ガンプ』で再現されたベトナム反戦集会の様子など)で、その壮観な人垣をテレビで見た人も多いだろう。
それにしても、なぜアメリカの首都のド真ん中に、モールなどという広大な緑地帯をつくったのか?
これは、ワシントンDCが、古代ローマの壮麗な都をモデルに設計されているからなんだそうである。古代ローマの都市には、必ずその中央に大きな広場があり、裁判や市民集会などが行われていたのだが、ワシントンDCにおけるモールとは、まさに古代ローマにおける、聖なる広場になぞらえられていた。モール周辺の歴史的建造物がのきなみ「新古典主義」なんていう「なんちゃってギリシャ・ローマ風」なのも、実はそういうわけなのである。
確かに、有名なローマの遺跡「フォロ・ロマーノ」にも、歴代皇帝がつくりあげた公共広場がありますけれどもね。
それにしても、アメリカ、デカ過ぎ。だいたい飛び乗らなければ座れないホテルのベッドとか、重すぎて片手で持ってられないドライヤーなんて、このアメリカ旅行で初めて見た。
都市計画からホテルの備品まで、日本人サイズとは明らかに異なるこのスケール感は、異和感もありつつ、なかなか面白いものでした。
アート・ライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。
アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。