前回のコラムでは「スミソニアンの基礎知識」を書いてみたが、今回はその応用編として、モールにあるスミソニアンの代表的なミュージアムを紹介しよう。
まず、子供たちに大人気なのが、スミアソニアン一の歴史を誇り、映画『ナイト・ミュージアム』の舞台としても知られる世界最大の博物館「国立自然史博物館」である。玄関ホールに展示されたアフリカ象の剥製がシンボルで、岩石や鉱物の膨大なコレクションや、ダイナミックな恐竜の骨の展示などが有名だ。
地球の誕生以来40数億年にものぼる自然の歴史がギュッとつまった博物館だが、意外にも人だかりができていたのは、所有者を次々と不幸にしてきた“呪われしブルーダイヤ”「ホープダイヤモンド」ほか、目もくらむばかりに豪華な宝飾品のコーナーだ。また全長11mにおよぶダイオウイカの標本なども人気があった。
体験型の展示で珍しかったのは「バタフライパビリオン」(ここは有料)。こちらは世界各国の蝶を放し飼いにしたパビリオン内で蝶を間近に観察できるコーナーで、うまくすると「手乗り蝶々」なども楽しめる。そう言えば以前、幕末の遣米使節団もスミソニアンで生きたワニを見たと以前書いたが、ワニとか蝶とかナマ物を博物館で扱うのはスミソニアンのお得意なんでしょうか? いずれにしても生き物や設備のメンテナンスに加えて、「パビリオンを出る時は、蝶々が服やバックについてないかよく確認してね」、と入念なチェックが必要な展示をあえて行うそのチャレンジ精神には、頭が下がる思いである。
もうひとつ人気の博物館といえば、何といっても「国立航空宇宙博物館・本館」(別館は、ダレス空港の近くにあり)だ。人類が空を制圧してきた歴史を、戦闘機を含めた実際の飛行機やロケットで見せる壮大な展示は、航空ファンにはたまらないはず。また、人類初の動力飛行に成功したライト兄弟や、月面着陸を成し遂げた「アポロ計画」などをテーマパークさながらに紹介するホールなどは、「アメリカ最高!」な空気が漂う。もちろん外国人も十分に楽しめるが、これがアメリカ人なら、テンションはさらに上がるに違いない。
さて、アート関係で見逃せない展示と言えば、東洋美術とホイッスラーのコレクションで知られるフリーア美術館の、「ピーコック・ルーム(=孔雀の間)」に他ならない。こちらは、印象派と同時代に活躍したアメリカの画家・ホイッスラーが、イギリス人の富豪レイランドのロンドン邸のためにデザインした東洋趣味の部屋で、後にフリーア美術館で復元された。青緑色の地に黄金の孔雀が描かれたこの部屋には、壁面に中国や日本の陶器がズラリと並び、中央には日本の着物を羽織った西洋の女性《陶磁の国の姫君》が飾られている。ホイッスラーが手掛けた珍しい室内装飾で、アール・ヌーヴォーなど近代デザイン史においても重要な作品であること、そして何よりもここでしか見られないということからも、ワシントンを訪れた際には、ぜひご覧いただきたい。
このフリーア美術館と地下でつながっているのが、東洋&近東美術のコレクションで知られる「アーサー・M・サックラー・ギャラリー」と「国立アフリカ美術館」である。どちらも見ごたえのある美術館だが、とくに中国、インド、古代ペルシャなどの青銅器や神像、装飾品が並ぶ「サックラー・ギャラリー」は、その洗練された展示の美しさが印象深い。パリのギメ美術館などにも言えることだが、エキゾチックなアジアの造形物を美しくディスプレイすることにかけては、欧米のトップ・クラスのミュージアムは、素晴らしいセンスを発揮する。そのクオリティの高さには、ただただ脱帽するばかりである。
アート・ライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。
アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。