日本にゆかりがある、と言えば、今回のボストン美術館展に出品される「日本風のブローチ」は、興味深い逸品だ。イギリス国王、ジョージ5世の妻であるメアリー王妃が、孫であるジェラルド・ラスセルズの結婚相手アンジェラに贈ったものらしい。そして、彼女の死後、競売にかけられボストン美術館に収蔵された。
1925年頃、フランスで作られたものだが、敷き詰めたダイヤモンドで日本画的な白い余白を表現し、ルビーで梅のような花を贅沢に表現している。結婚式のお祝いということもあり、高貴である花で縁起のいい紅白梅のブローチを贈ったのかもしれない。作風は、ジャポニスムの影響が濃いアールデコ様式だ。 製作したのは、ラクロッシュという宝石ブランド。1875年に4人の兄弟によってスペイン、マドリッドに設立された。パリにも支店を開き、「Frères Lacloche(フレール・ラクロッシュ)」の名で、セレブに愛された。1920年にはロシアの宝石商で金細工師であるファベルジェのロンドン支店を買収し、ビジネスを拡張した。化粧道具、ブレスレット、ブローチなどを得意とし、カルティエとともに、世界の王侯貴族に愛された。1925年のパリ万国博覧会にも出展し、イギリス王室の注文も受けるほどになった。この作品は、まさに1925年頃という絶頂期の作品だ。その後、ブランドは、ジャック・ラクロッシュと名を変え活動を続けたが、1967年に惜しくも閉店し、その存在は幻となった。
このように作品ひとつひとつに権力をめぐる栄枯盛衰のドラマが隠されている。 ボストン美術館展は、ボストンブラーミンたちの情熱と美術品が秘めた物語が陳列される「記憶の博覧会」なのだ。
スペシャル
《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)
鎌倉時代、13世紀後半
Fenollosa-Weld Collection
鎌倉時代、13世紀後半
Fenollosa-Weld Collection