スペシャル

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)
鎌倉時代、13世紀後半
Fenollosa-Weld Collection

スペシャル

ボストン美術館展を楽しむ7つの秘密
アートナビゲーター ナカムラクニオ

2019.12.26
第2話
「美の百科事典」のつくりかた
2-3
宝飾品は、身につけるドラマ

日本にゆかりがある、と言えば、今回のボストン美術館展に出品される「日本風のブローチ」は、興味深い逸品だ。イギリス国王、ジョージ5世の妻であるメアリー王妃が、孫であるジェラルド・ラスセルズの結婚相手アンジェラに贈ったものらしい。そして、彼女の死後、競売にかけられボストン美術館に収蔵された。
1925年頃、フランスで作られたものだが、敷き詰めたダイヤモンドで日本画的な白い余白を表現し、ルビーで梅のような花を贅沢に表現している。結婚式のお祝いということもあり、高貴である花で縁起のいい紅白梅のブローチを贈ったのかもしれない。作風は、ジャポニスムの影響が濃いアールデコ様式だ。 製作したのは、ラクロッシュという宝石ブランド。1875年に4人の兄弟によってスペイン、マドリッドに設立された。パリにも支店を開き、「Frères Lacloche(フレール・ラクロッシュ)」の名で、セレブに愛された。1920年にはロシアの宝石商で金細工師であるファベルジェのロンドン支店を買収し、ビジネスを拡張した。化粧道具、ブレスレット、ブローチなどを得意とし、カルティエとともに、世界の王侯貴族に愛された。1925年のパリ万国博覧会にも出展し、イギリス王室の注文も受けるほどになった。この作品は、まさに1925年頃という絶頂期の作品だ。その後、ブランドは、ジャック・ラクロッシュと名を変え活動を続けたが、1967年に惜しくも閉店し、その存在は幻となった。

このように作品ひとつひとつに権力をめぐる栄枯盛衰のドラマが隠されている。 ボストン美術館展は、ボストンブラーミンたちの情熱と美術品が秘めた物語が陳列される「記憶の博覧会」なのだ。

 

ボストン美術館展を楽しむ7つの秘密、その2。

ボストン美術館は「ボストンブラーミン(Boston brahmin)」と呼ばれる権力を持った知識人によって発足した。

 

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ナカムラクニオ/Kunio Nakamura

荻窪「6次元」店主/ライター。
著書は『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『魔法の文章講座』『世界の本屋さんめぐり』など多数。


 

参考文献:

「芸術新潮 1992年1月号特集 ボストン美術館の日本」(新潮社)
『ボストン美術館所蔵 日本絵画名品展』(日本テレビ放送網)
『名品流転―ボストン美術館の「日本」』(NHK出版)

 

 

芸術×力 ボストン美術館展
会場:東京都美術館
会期: 2020年4月16日(木)〜7月5日(日)