スペシャル

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)
鎌倉時代、13世紀後半
Fenollosa-Weld Collection

スペシャル

ボストン美術館展を楽しむ7つの秘密
アートナビゲーター ナカムラクニオ

2020.01.09
第3話
世界をつなぐ美術館
3-1
「未完成」という名の「完成」を目指して

「あの石像は、なぜ作りかけなんですか?」
ボストン美術館に到着してすぐ、入り口の彫刻が完成していないことに気がついた。「美術館に完成はないんです。ボストン美術館は、完成しないでずっと作り続けているという意味が込められているんですよ」と案内してくれた学芸員の方が教えてくれた。
驚いたことにボストン美術館は、過去の名品を収集しているだけではなかった。古代美術から無名の現代作家まで実験的に展示している。
日本美術のコレクションも飛鳥時代の金銅仏から、現代美術作家の奈良美智まで網羅している。明治時代に海を渡った貴重な美術品を秘蔵している「美術のタイムカプセル」なだけではないのだ。企画展も非常に興味深く、訪ねた時は「ヌビア地方(エジプト南部アスワンからスーダン周辺)」の芸術にスポットを当てた展覧会「Ancient Nubia Now(古代ヌビアのいま)」を大々的に開催していた。さらに、館内ではオランダの現代作家でシュルレアリスム的写真を得意とするヘレン・ファン・ミーネの展示をしていた。とにかく企画の切り口の斬新さ、独自の展開に驚いた。

関わるすべての人が幸せな美術館

ボストン美術館は、「博物館」「近代美術館」「現代美術館」という概念を超えて、「生きた美術館」として機能している。チケットカウンターの壁面には1980年代に一世を風靡した新表現主義の代表的作家として知られるデビッド・サーレの作品が飾られている。さらに館内に入ってみるとジャクソン・ポロックの大作がさりげなく廊下に飾られている。
学芸員のスタッフルームに入ると、アーシル・ゴーキーやピエト・モンドリアンの抽象画が廊下にかけてあり、館長室には20世紀アメリカの具象絵画を代表するエドワード・ホッパーの傑作が飾られていた。働く学芸員のみんなも、チケットを売るスタッフも美術を楽しんで鑑賞しているように感じられた。バックヤードもすべてが「歩く美術史」という感じだ。
一般の方は観ることが出来ないが、館内には、岡倉天心が作った階段も残されていた。古い橋を模したような擬宝珠(ぎぼし)が取り付けられている。なぜ作ったのかはわからないが、岡倉天心も働くことを楽しんでいたのだろう。そんな空気が館内の至る所に感じられた。

 

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ナカムラクニオ/Kunio Nakamura

荻窪「6次元」店主/ライター。
著書は『金継ぎ手帖』『古美術手帖』『チャートで読み解く美術史入門』『魔法の文章講座』『世界の本屋さんめぐり』など多数。


 

参考文献:

『茶の本 (The Book of Tea)』(IBCパブリッシング)
『名品流転―ボストン美術館の「日本」』(NHK出版)

 

 

芸術×力 ボストン美術館展
会場:東京都美術館
会期: 2020年4月16日(木)〜7月5日(日)