エドゥアール・マネは、19世紀後半、明快な色彩、平板な空間表現、大胆な構図により、ヨーロッパ絵画に変革をもたらした画家として知られています。本作は、マネが当時パリで最も権威ある展覧会だったサロンに、1874年に出品した3点の油彩画(《オペラ座の仮面舞踏会》を含む)の中で、唯一、入選を果たした作品です。舞台になっているのはパリのサン=ラザール駅であり機関車ですが、その姿は蒸気と鉄格子によって隠され、見ることはできません。画中の親子とおぼしき二人の女性は、年齢、衣服の色、視線の方向においてコントラストをなしており、画面を前景と後景に分断している鉄格子のリズミカルな配置とともに、作品を印象深いものにしています。マネの作品は、意味ありげなシチュエーションやモチーフでも知られていますが、ここでも少女の脇になぜか一房のぶどうが置かれています。昼下がりの日常的な光景に、駅や鉄道という近代化のシンボルを織り込み、そこに小さな謎をスパイスのように効かせた本作は、マネの真骨頂を示す一枚といえるでしょう。