精神を病み、自らサン=レミの精神療養院に入院したフィンセント・ファン・ゴッホでしたが、退院前の数週間は状態が安定し、制作意欲も旺盛で、多くの作品を描きました。本作はこの時期2点描かれた薔薇の絵の1点です。《ひまわり》が南フランスの太陽やユートピアを象徴していたといわれるように、ファン・ゴッホはしばしばモチーフとなる花に深遠な意味を込めましたが、ここでは花瓶からあふれんばかりの薔薇を生き生きと描くことで、春の訪れや健康を回復したことへの喜びが率直に表現されています。残念ながら今日では全体に退色していて、ファン・ゴッホが意図した赤と緑の対比的な効果は薄れていますが、その分、彼の特徴であるエネルギッシュな筆遣いが際立つ作品です。