アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレックは伯爵家の出身でありながら、パリ、モンマルトルの下層社会に入り込み、キャバレーやナイトクラブがひしめく歓楽街で毎夜、歌手や踊り子、娼婦などを描いていました。そして1891年、人気のキャバレー、ムーラン・ルージュのためのポスター、《ムーラン・ルージュ、ラ・グーリュ》の成功によって一躍有名になります。「アンバサドゥール(大使たち)」は、シャンゼリゼ通りの人気のカフェ・コンセール(シャンソン喫茶)でした。当時パリで最も隆盛を誇っていたこの高級カフェに、ロートレックの友人である歌手アリスティド・ブリュアンの出演が決まり、ブリュアンはロートレックに自身の公演のポスター制作を依頼しました。そのポスターはまたもや大成功を収めます。本作は、洗練されたこのカフェで、食事を楽しむ若いカップルを描いた作品です。女性は、羽根飾りのついた帽子と締ったウエストが強調されたドレスを、男性は胸元に花を挿したタキシードを身にまとい、テーブルを挟んで会話に興じているようです。