「春の海」で知られる、琴の名手で作曲家の宮城道雄は、今年、生誕130年。それにちなんで、ラジオ日本の「わたしの図書室」で、彼の随筆集「雨の念仏」の数編を朗読した。そのうちの「年中行事」という一編に、
「正月の朝の屠蘇を祝う気分は、どうぞ永久に保存したいものである。小面倒なことはいらないが、こうしたことは忘れたくないものである。」
という一節があった。
私も老親を見送ってからは、年越しの行事やおせち料理は簡略の極みだが、大晦日、屠蘇散を酒に浸すときは、しみじみとした気分とともに、新年へのほのかな期待が胸をよぎる。
今年は、元日に能登の大地震が起き、多くの方が、大切なものを失われた。屠蘇を祝った日が、悲しくつらい日になってしまい、年を越しても、日常を取り戻す闘いが続くことと思う。さらに世界を見渡せば、戦争は止まず、悪夢のような光景が現実に繰り広げられている。命とは何か、人間は一体何をしているのか。
今年10月31日、ハロウィーンの日。近所の保育園の子供たちが、保育士さんに連れられて、仮装姿でお散歩しているのに出会った。ペンギン、お姫様、タケコプターを頭にのせたドラえもん…保育士さんも大きなカボチャの帽子をかぶって、園児を誘導している。にぎやかで、愛らしくて、ハロウィーンになじみのない世代の私も、思わず笑顔になった。
平和とは、年中行事ができること、なのかもしれない。
皆様、どうかお体を大切に。来年も、一日一日を紡いで、生きていきましょう。