「はい!わかりました!いの一番でやります!」
どの番組のスタッフだろうか、日テレのエレベーターの中で、若者が携帯電話で話している。ウチの会社のエレベーターは、急ぎの仕事の打合せならば、携帯電話もOKである。
きびきびとした話しぶりにも好感が持てたが、20代の青年の口から「いの一番」という言葉が出たのが、何だか嬉しく面白く、一緒に乗り合わせた豊田順子アナと顔を見合わせて微笑んだ。ただし、素直でない古株アナの私は、青年が降りた後で言った。
「これで、アクセントが『い\の一番』なら、なお良かったけどねェ」
「いの一番」のアクセントは、「い\の・い/ち\ばん」「い/のいち\ばん」両方ともアクセント辞典に載っている。つまり共通語のアクセントとして認められている。
NHKアクセント辞典は、この前の版までは「い\の・い/ち\ばん」を第1アクセント、すなわち最も推奨するアクセントとしていたが、最新版では「い/のいち\ばん」の方が第1アクセントとなり、順番が入れ替わった。
「い/のいち\ばん」と言っていた若手スタッフの方が、今の時代の基準にのっとっているわけで、彼は正しい。懐かしい言葉を使っているのが、何より素敵である。
しかし、そもそもは、「いろは」の「い」の字が一番目であるから「いの一番」なので、「い\の・い/ち\ばん」と言ってくれると、より嬉しいんだけどなァ、という古株のぼやきにも、一理あるのである。
「雨」(あ\め)と「飴」(あ/め)のように、古今不動の共通語アクセントもあるが、二つ以上認められていて、人によって感覚が違う、という言葉もある。
「電車」は古くは「で\んしゃ」「で/んしゃ」、今は「で/んしゃ」「で\んしゃ」と順番は入れ替わっているが、昔から、どちらでも構わない。私も、どちらでもいいと思う。ところが、ディレクターによっては、「『で\んしゃ』でないと気持ちが悪い!」とか、「『で/んしゃ』に決まってるだろう!」という、いずれも東京出身でアクセントに自信があるという人たちが、番組ごとに違う指示を出してくることがあり、読み手のアナウンサーが迷ってしまう、ということもある。
結局、理屈ではなく、耳慣れたものが、すんなり聞けるアクセントということか。
書き言葉とは違う、話し言葉ならではの、厄介で愉快な問題を、新人たちに話して聞かせる季節が、今年もやってきた。