「スニーカーの紐は、蝶結びにしてから、輪の部分をもう一度結ぶと、走っている最中に、ほどけません」
と、シドニーオリンピック・マラソン金メダリストの高橋尚子さんに教わった。
「皇室日記」という番組で、皇居の周りを走る、いわゆる「皇居ラン」を取り上げたときのこと。特別ゲストの高橋さんが、ウォームアップの方法や注意点を話しながら、こんな豆知識も伝授してくれたのである。
ジョギングには縁遠い私だが、通勤で履いているペッタンコ靴の紐が、しばしばほどけて、困っていた。この時以来、ほどけることはなくなり、助かっている。金メダリストに教えていただくのはもったいないことだが、高橋尚子さん、どうもありがとうございました!
「片足で1分ずつ立つことを、左右1セットで、朝昼晩と、1日3回行えば、45分歩いたのと同じ効果があります」
えーっ、ウソでしょう…と思ったのは、私だけではなかったようで、会場から、信じられない、というニュアンスのどよめきと、皮肉めいた笑い声が上がった。数年前、私が司会をした医学セミナーで、講演者の整形外科医が話されたのである。
ロコモティブ症候群、すなわち、運動器の障害や衰えにより、歩行機能が低下する病態は、高齢化社会の深刻な問題である。予防対策に、日常できる一番簡単な体操として紹介されたのが、「片足1分立ち」。目を開けたままでよく、何かにつかまりながらでもいいという。
疑いつつも、その後しばらくやってみると、目を開けていても、1分間片足で立ち続けることは、案外難しい。ましてや、朝昼晩など、怠け者の私にはとてもできず、これは、ちゃんと行えば、45分散歩にも相当するのかもしれない、とだんだん思うようになってきた。規則正しくは行えないが、今も、信号待ちやエレベーター待ちの時に、思い出したように、片足で立っている。この1分間で健康づくり、と思うと、待ち時間の長さにイライラすることがなくなり、精神衛生にもいい、と実感している。
各界の著名人や専門家にお話を伺うことができるのは、アナウンサーという仕事の幸せである。本筋の話はもちろん興味深いものだが、なぜかいつまでも記憶に残り、日常ふと思い出すのは、上記のような、専門家だからこそ知る、ちょっとした話。一粒の豆知識を生み出すために、どれだけの探求がなされたことか…。積み重ねられた時間の長さと、思いの深さに、感銘を受ける。