「原稿の、『文字を読む』のではなく、『内容を伝え』ましょう!」
と、新人アナウンサー研修で、私はいつも言っている。
ニュースやナレーションの原稿に込められた、情報と情感。それを把握しきれないまま読むと、アナウンサーは単なる音声化機械になってしまう。まず中身を理解することが大事だよ、と。
ところが、先日、あるプロジェクトを紹介するビデオを見たとき、うまいナレーションなのに、かすかな違和感を覚えた。
ナレーターはベテランで、情報の理解はもちろん、情感の部分も味わい深く表現し、すみずみまで神経が行き届いている。
ただ…制作者の意図を汲み過ぎたのか、ほんのわずかだが、宣伝臭さがにじみ出てしまっていた。視聴する側は、こうしたにおいには敏感である。プレゼンテーションを成功させるには、完璧さには少し足りないくらいの「隙」が、あった方がいいのかもしれない。時には、敢えて「文字の音声化」に徹して、前のめりの制作スタッフの手綱を引き、バランスをとることも、ナレーターの仕事のひとつなのだ。
「過ぎたるは猶及ばざるが如し」という。「理解し過ぎる」ことも、そうなのかもしれない。
でもね、アナウンサーの新人たち、「過ぎたる」領域に行くまでには、少なくとも10年はかかる。今はとにかく、原稿の内容をしっかりと把握し、前のめりになるくらいに熱をこめて、伝えること!