「井田さん!私。6年の時のK野!」
と、ドイツ・フランクフルトの空港で、乗継便を待っているときに、突然、声をかけられたことがある。
大阪の小学校の同級生のK野さん。すぐに思い出したけれど、クラスで一番小柄だった女の子が、モデルさんのようにすらりと背が高くなっていて、立ち話をしながら、私は彼女を見上げるばかりであった。
ツアー旅行でイエメンに行ってきたそうで、わずかな時間に、面白い話をたくさん聞かせてくれた。快活な話しぶりは、6年生の時と、少しも変わっていなかった。
「井田さん!私。6年の時のN田!」
これは数年前、系列局の東京支社から、「井田アナウンサーと話したい、という方がいまして…今、代わります」という電話に出たときのこと。
「N田さん?あの、プレスリーが大好きやった?」
「そうそう、よう覚えててくれたね!」
医師になった彼女は、系列局の産業医となり、東京支社に挨拶に来たのだという。
隣のビルだったので、駆け出していき、早口のお喋りで、慌ただしく旧交を温めた。
6年生の時は、髪を左右に出してゴムで結ぶ、ちょんちょこりん、と私たちが呼んでいた髪形だったが、還暦を過ぎて、さすがにちょんちょこりんではなく、すっきりとしたショートにしていた。真ん丸で大きな瞳は、昔のままだった。
SNS時代の今は、同級生のその後をたどることも、以前よりずっと、たやすくなっているらしいが、私の時代は、よほどまめな幹事さんでもいないと、他の土地で就職してしまった人間が、小学校の同級生と会う機会はまずない。
「井田さん、私!」と声をかけられ、時に思いがけない再会ができるのは、人前に顔を出す仕事のおかげであろう。
同じクラスで学ぶのは、思えば、浅からぬ縁である。その後に巡り会うことがあっても不思議ではない。銀座4丁目の街角や、渋谷のスクランブル交差点などでは、日に何組も、かつての同級生が、気づかずにすれ違っているのかもしれない…。