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くにくにコラム

Vol.6 ボストン美術館の浮世絵コレクション

2016/02/09

ボストン美術館では、『俺たちの国芳 わたしの国貞』に出品される主な作品を、何点かみせていただきました。同館の浮世絵は、よく「昨日摺り上がったような」と言われるほど、鮮やかな色を残していることで有名ですが、額装のガラス板を通さずに生で観ると、その美しい色はさることながら、彫師や摺師の技術の高さもよくわかりました。170件(約350枚)という出品作の多くは、前回ご紹介したビゲローが集めたもの。この状態の素晴らしさをみても、彼がよく吟味して作品を購入したことがうかがえます。

ボストン美術館の一室に並べられた本展の出品作品より、国貞の続きの役者絵。
人気役者それぞれの替紋を抜いた背景が、なんともキュートでカラフルです

ビゲローがボストン美術館に寄贈した浮世絵は、より厳密には3万3264点を数えます。そのなかで1番多いのは国貞の9088点。2番目の国芳でさえ3240点ですから、国貞作品の多さはダントツです。なぜビゲローはこんなにも多くの国貞を収集したのでしょう? 本展を担当したボストン美術館のセーラ・E・トンプソンさんは、本人が国貞を好んだことに加えて、当時の日本での国貞人気を物語っているのでは? と考えています。

向かって左から、国貞が描いた四代目市川小團次演じる八百屋お七と、国芳描く、相馬の古内裏の大骸骨。
相変わらず、国芳の作品はインパクトが大

ビゲローが来日した1882年は、国貞が亡くなってからすでに18年がたっていました。しかし、幕末一番人気の浮世絵師だっただけに、彼の作品はまだまだポピュラーで、状態の良いものがたくさん残っていたと考えられます。現代の感覚では、つい国芳作品のテーマや構図の斬新さに目が奪われがちですが、写真のない江戸時代の人々にとっては、一目見れば誰だかわかる国貞の役者絵や美人画は、ブロマイドとしてリアルに重宝したに違いありません。

左は国芳の、壁の落書きに見立てたヘタウマ役者絵。右は国貞の色っぽい美人画。
どちらも絵師の工夫はさることながら、彫師と摺師の技術の高さにも感動します

これらボストン美術館の浮世絵版画は、1度公開したら、以後5年間は収蔵庫で作品をゆっくり寝かせることになっています。つまり私たちは、本展が終わったら最低5年は、同じ作品を観ることができません。コレクターの審美眼と、劣化を最小限にとどめる徹底した作品管理こそが、ほかの美術館の作品とは一線を画する「昨日摺り上がったような」色鮮やかな浮世絵コレクションを実現しているんですね。

おまけ:ボストン美術館には、春画や艶本のコレクションも!
国貞の艶本《文盲我話》は、折込みを次々とあけて楽しむ、手の込んだ仕掛け本になっています

<プラスワン情報>
現在日本では、歌川国芳(1797-1861)が大人気。幕末の浮世絵界でも、彼はカッコいい武者絵やオモシロかわいい戯画で一世を風靡しました。しかし、その人気を上回っていたのが国芳より11歳年上で、役者絵や美人画を得意とした兄弟子・国貞(1786-1864)でした。

木谷節子 プロフィール

アートライター。現在「婦人公論」「SODA」「Bunkamura magazine」などでアート情報を執筆。
アートムックの執筆のほか、最近では美術講座の講師もつとめる。

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