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くにくにコラム

Vol.12 マンガ&アニメと浮世絵

2016/04/26

「当時の大衆に大きな関心を持っていた国芳と国貞は、偉大なるポップアーティストと言えるでしょう。展覧会では、彼らの表現が現在のマンガやアニメにどれほど大きな影響を与えているかをご覧いただけると思います」

本展についてそう語ったのは、ボストン美術館館長のマシュー・タイトルバーム氏。アートの中にいかに現在が生きているかを探すのは、美術鑑賞の醍醐味のひとつでありますが、とくに浮世絵はマンガやアニメなど身近なエンターテインメントへの影響を、直接感じることができる芸術です。

ボストン美術館館長、マシュー・タイトルバーム氏
「本展では、私たちがいかに日本のアートに敬意を払っているかをご覧ください」

たとえば、何度かご紹介してきた日本のマンガの原点《荷宝蔵壁のむだ書》はもちろんのこと、《清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎》などの表現もマンガそのもの。平清盛一行が布引の滝で源義平の悪霊に襲われる場面を描いた本作では、激しい閃光がまるで昭和の劇画のように画面を縦横無尽に走ります。

画面を縦横無人に走する光の表現が、なんともマンガチックです
歌川国芳《清盛入道布引滝遊覧悪源太義平霊討難波次郎》
文政8(1825)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30456-8
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

また、子どもたちに大人気の戦隊もののクライマックスといえば、戦闘前の戦士たちの名乗りとカッコいいポーズですよね。これは『白波五人男』など歌舞伎の「勢揃い」を応用した演出で、海外の人が「その間に敵の攻撃を受けたらどうするの?」と最も疑問に思う(by「Wikipedia“スーパー戦隊シリーズ”」)場面だそう。つっこみどころ満載なシーンではありますが、日本人にはなくてはならない様式美の極みです! もちろん、役者絵を得意とした国貞も、当時の人気役者たちを、とびきり粋なカッコいいポーズで描いています。

役者ゆかりの紋をあしらった同じテイストの浴衣を着て、それぞれのポーズで勢揃い
歌川国貞《あつまのわか手五人男》
「かりの文吉」三代目澤村田之助、「雷門の正」初代河原崎権十郎、「極印の仙」四代目市村花橘、「あんの平」三代目市川市蔵、「布袋堂ノ市」四代目中村芝翫
文久3(1863)年 7月
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42141a-e
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

そして日本における幽霊画では、歌川国芳の《浅倉当吾亡霊》が白眉。四代目市川小團次の歌舞伎の舞台に取材した作品ですが、首にべっとりと血をつけ闇から浮き上がる、半分透けた亡霊の姿が印象的です。幕末・明治に描かれた残酷絵の先駆とも言われるこの怪異表現のエッセンスは、今もマンガをはじめとするジャパニーズ・ホラーのなかに生きていると思われます。会場ではぜひ、アニメやマンガの表現と比較しながら、作品を楽しんでみてください。

恨めしそうな表情に、あばらの浮き出た幽霊。この無重量感を木版画で表現するとはさすが!
歌川国芳《「浅倉当吾亡霊」 四代目市川小團次》
嘉永4(1851)年頃
William Sturgis Bigelow Collection, 11.30460
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston

<プラスワン情報>
ボストン美術館は、日本美術の修復工房を最初に持ったアメリカ初の美術館。現在アメリカには、こうした修復工房が5つありますが、そのなかでも第一人者的存在なのだそうです。

木谷節子 プロフィール

アートライター。現在「婦人公論」「SODA」「Bunkamura magazine」などでアート情報を執筆。
アートムックの執筆のほか、最近では美術講座の講師もつとめる。

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