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くにくにコラム

Vol.8 セーラ・E・トンプソンさんインタビュー

2016/03/08

いよいよ来週、『ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞』展が開催します。そこで、このコラムでもすっかりお馴染みになったボストン美術館の浮世絵版画室長セーラ・E・トンプソンさんに、本展や国芳・国貞についてあらためて語っていただきました。

いつもお母さんのように優しく笑顔を絶やさない、ボストン美術館、日本美術課浮世絵版画室長のセーラ・E・トンプソンさん。
日本でボストン美術館の日本美術展を開催する時は、よく来日されています

「ご存じのようにボストン美術館では10万点以上の日本美術を所蔵しています。その半分は版画で、大半が江戸・明治の浮世絵版画といっていいでしょう。なかでも一番多いのは国貞作品(約1万点)、次に歌川広重(約5700点)、3番目が国芳(約3700点)で、国貞と国芳の作品は、ほぼビゲロー・コレクションです。世界的には広重の風景画が重要視されたため広重を持っている美術館はあるのですが、これほどの質量で国貞や国芳を所蔵している美術館は当館だけ。ビゲローが買っておいてくれたおかげで、私たちは自分のクローゼットから洋服を選ぶように、国貞や国芳の作品を自由に選ぶことができるのです」

弱きを助け、強きをくじく、江戸のヒーロー・野晒悟助。
猫の寄せ絵でドクロを描いた国芳のファッション感覚もたまりません!
歌川国芳「国芳もやう正札附現金男 野晒悟助」弘化2(1845)年
William Sturgis Bigelow Collection, 11.28900
Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston

「実は最初に本展を企画した時は、国芳だけで展覧会をしようと思っていました。でも国芳は日本で大きな展覧会が何度も開催されているし、国貞の展覧会も最近開催されたということだったので、生前ライバル関係にあった2人の作品を比較して皆さまにお見せしてはいかがだろう、と思ったのです」

「よく売れそう」な、当時の売れっ子芸者を描いた美人画。
恋文の内容に怒っているのか、手紙を噛んでいる姿も可愛らしい。
彼女が絞めている更紗の帯は、当時の流行の最先端
歌川国貞「当世三十弐相 よくうれ相」文政4, 5(1821, 22)年頃
Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.489
Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston

「もし一言で彼らの作品を表すなら、国芳はエキサイティング、国貞はエレガント……、いいえ、グラマラスと言ったほうがいいかもしれません。“グラマラス”は、昔の英語では“魔法のような”という意味があります。“エレガント”は貴婦人のように品の良いイメージですが、“グラマー”はもっと派手で魔法のように人をひきつける感じ。ムービースターとかモデルとか有名で華やかなセレブリティに使う言葉ですね。江戸の人々は、国貞が描いた歌舞伎役者や美人を通して、彼らの着ている美しい着物や流行りのものなどを、現在のファッション雑誌のような感覚で観ていたのだと思います」

「あの大好きな役者さんたちが、こんな風に勢ぞろいしてくれたらいいなあ~!」という、ファンの妄想を具現化した国貞の役者絵。
バックも夢にみたいにキラキラハッピー!
歌川国貞「御誂三段ぼかし」
「浮世伊之助」三代目岩井粂三郎、「葉哥乃新」初代河原崎権十郎、「野晒語助」四代目市川小團次、
「夢乃市郎兵衛」五代目坂東彦三郎、「紅の甚三」二代目澤村訥升、「提婆乃仁三」初代中村福助
安政6(1859)年 大判錦絵六枚
William Sturgis Bigelow Collection, 11.42194-9
Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston

「国芳はアクションや戦闘シーンがダイナミック。もちろん戯画も面白い。でも当時一番人気があったのは、やはり歌舞伎役者や美人を描いた国貞の似顔絵でした。写真のなかった時代、一目見れば誰を描いているのかわかる国貞の人気は絶大だったのです。ただ残念ながら今の私たちにとって、19世紀の歌舞伎役者がどんな顔をしていたかはあまり重要ではないですよね。その点国芳作品はいつ誰が観てもその面白さは普遍。そんなわかりやすさも、現在の国芳人気の原因になっているのかもしれません」

出たーっ! 登場人物を救いに来た巨大なワニザメを、得意のワイドスクリーンでみせる、国芳の迫力満点な浮世絵版画。
手前の白抜きの飛行物体は、異界の生物・烏天狗です
歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」
嘉永4, 5 (1851, 52) 年頃 大判錦絵三枚続
William Sturgis Bigelow Collection, 11.26999-7001
Photograph © 2016 Museum of Fine Arts, Boston

<プラスワン情報>
先月「第58回グラミー賞」で最優秀オペラ録音賞を受賞した指揮者の小澤征爾さん。1973年から2002年まで、約30年にわたってボストン交響楽団の音楽監督をつとめられました。ボストン交響楽団は、アメリカ5大オーケストラのひとつ。ボストン美術館と並んで、文化都市ボストンを象徴する存在です。

木谷節子 プロフィール

アートライター。現在「婦人公論」「SODA」「Bunkamura magazine」などでアート情報を執筆。
アートムックの執筆のほか、最近では美術講座の講師もつとめる。

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