Vol.13 国貞と女性のファッション
2016/05/10
来週5月19日は、歌川国貞の230回目の誕生日。そこで今回は、国貞特集とまいりましょう。
役者絵や美人画を得意とし、幕末の浮世絵師のなかでNo.1の人気を誇った歌川国貞。彼が描く最新流行のファッションに身を包んだ美人たちは、男性ばかりか女性の心もつかみました。
たとえば《当世三十弐相 よくうれ相》。売れっ子芸者が恋人からの手紙の内容に、キーッ! と文をかみしめる仕草もチャーミングですが、襟元と帯を緑系でそろえ、赤い襦袢や薄紫の着物と合わせる配色などもとってもオシャレ。エキゾチックな文様の「和更紗」の帯も目をひきます。和更紗とは、インド由来のコットンプリント「インド更紗」を日本風にアレンジしたテキスタイルで、我が国では幕末・明治に流行しました。
異国風の文様が描かれた帯は、当時流行していた「和更紗」の帯
歌川国貞《当世三十弐相 よくうれ相》
文政4, 5(1821, 22)年頃
Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.489
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
この和更紗は、いろいろな小物にも使われました。《当世三十弐相 あづまのお客もうき相》では、上方の芸妓さんが、花唐草紋をあしらった和更紗の懐中鏡で、メイクの出来栄えを確認中。彼女が髪に差している銀製の両天簪や、華やかな襦袢がのぞく漆黒の着物も粋ですが、ここでは芸妓の「笹色紅メイク」に注目しましょう。
下唇が玉虫色に見える「笹色紅メイク」を入念にチェック
歌川国貞《当世三十弐相 あづまのお客もうき相》
文政4, 5(1821, 22)年頃
Nellie Parney Carter Collection―Bequest of Nellie Parney Carter, 34.496
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
これは、下唇に良質な紅を塗り重ねることで唇を玉虫色に光らせる、文化・文政期頃に流行した化粧法。当時は「紅一匁金一匁」といわれるほど紅は高価でしたから、庶民の女性たちは、下唇に薄く墨を塗ってから紅をさす、「なんちゃって笹色紅メイク」も流行りました。またこの絵の左手前には、山城国の筆の老舗・福岡式部が大阪から全国に売り出したヒット商品、「大坂しきぶ」のブランド白粉刷毛も描かれています。
ファッションから化粧法、メイク道具に至るまで、最新流行の情報が盛沢山だった国貞の美人画。彼の描いた浮世絵がモードのお手本として江戸女子に支持されたのは、当然の結果だったのかもしれませんね。
こちらは納涼と花火見物に隅田川に集う人々の群像。人々の夏の装いにも注目です
歌川国貞《東都両国橋 川開繁栄図》
安政5(1858)年 3月
MFA.Boston, 1999.184a-c
Photograph © Museum of Fine Arts, Boston
<プラスワン情報>
5月13日(金)~5月19日(木)までの1週間、「国貞七日間!(クニサダ・セブンデイズ)」を開催します。この期間に、着物でご来館のお客様へ国貞作品のポストカードをプレゼント! ぜひこの機会に、着物での外出をお楽みください。 ※実施期間中にご入館されるお客様が対象となります。 ※ポストカードは美術館入口でお渡しいたします。
木谷節子 プロフィール
アートライター。現在「婦人公論」「SODA」「Bunkamura magazine」などでアート情報を執筆。
アートムックの執筆のほか、最近では美術講座の講師もつとめる。