派手なジャージーに身を包み、ネオン街を闊歩する三輪光４７歳。“その筋”の人と見紛うようないでたちだが、実は県立高校の教師だ。三輪先生は０６年に部員３人で柔道部を立ち上げると、創部３年目に定時制高校の全国大会で優勝。以来、三連覇している。ほとんどの生徒は本格的な柔道経験が無く、中学時代に荒れた生活を送っていた者も少なくない。地元で評判の問題児だった西岡礼央くんは、三輪先生のおかげで立ち直れたという。全国大会で優勝して恩返しをしたいと意気込むが、大会の１０日前に大怪我をする。他にも、本番に弱い中井くん。三輪先生の長女の望さんなど“多士済々”の部員たちを率い、日本一を目指す『三輪道場』に密着した。

話したい言葉が思うように出てこない｢吃音(きつおん）｣。｢どもり｣とも言われてきた。言語障害の一つで、１００人に１人にあると言われるが社会の理解は足りない。福岡市の九州大学病院の菊池良和さん(３３歳)は、吃音に悩み苦しんだ経験をもとに吃音を研究、現状を変えるために奮闘している。全国から相談に訪れる人達に伝えるのは｢どもってもいいんだよ｣ということ。自分を責めずに前向きに受け止めてほしい、周囲も温かい目で見守ってほしいという願いをこめて…。中野貴浩くん(１１歳)は発表会でセリフが詰まったり、思うように話せなかったり、思い出すと涙が出るほど傷ついてきた。その貴浩くんが菊池さんと出会って変わっていく。

２メートルを超える豪雪地帯、長野県飯山市涌井。最長老の清水咲栄さん（８８）は冬の間１９年にわたって、商店もなければ路線バスも走らないこの地で、郵便配達を任されてきた。集落は急な坂道ばかり、それでも愛用のソリに郵便物をのせて、１４軒のお宅に毎日３時間かけて配達する。坂道を登りきった最後のお宅に郵便物を届けると、あとは愛用のソリで一気に滑り降りる…何とも豪快な咲栄ばあちゃんは、地域の人気者。芽吹きの春、緑に囲まれた夏、淋しげな秋、そして酷寒の冬…。山間の集落で力強く生きる咲栄ばあちゃんの姿を周辺の老人たちの絆や、喜び、悲哀とともに描く。

長崎県平戸島に住む石田光代(テルヨ５６歳)さんは、夫と６人の子どもに囲まれて幸せな日々を送っていた。ところが７年前、突然、ＡＬＳ(筋萎縮性側索硬化症)を宣告される。次第に体の自由を奪われ、顔の表情や声まで失ってしまう難病だ。一度は死まで考えたが、子どもの成長を見届けたい一心で病に立ち向かおうと決心。痛みに耐えながらわずかに動く口でチューブを噛み、ひと文字ひと文字、母としての言葉をメールで家族へ送り続けた。末っ子の十有人君が高校受験の時は、毎日、叱咤激励のメールを送り続けて見事合格に導いた。一方、子どもたちは、家事を分担しながらベッドの母親には笑顔しか見せない…。ＡＬＳの母と家族の成長の物語。

仙台市在住の女性詩人・清岳こうさんは、詩を書くことを通じて、震災の重い記憶から子どもたちの心を解放しようと活動を続けている。去年５月からボランティアで宮城県内の学校を訪ね、｢ことばの移動教室｣を開いてきた。記憶を思い起こし、言葉に表現する…子どもたちにとって辛い作業だ。しかし、それを乗り越えて詩を書くことができた彼らは口をそろえて｢すっきりした｣と言う。胸にためていたものを吐き出して心が解放された瞬間だ。『また地震がくる こないわけがない またぜったいくる　その時は今回の地震のリベンジだ(一部抜粋)』しかし、今もその体験や気持ちを語れない子もいる。心の傷は大きく、深い。被災地から｢言葉｣を発しようともがく子どもたちを通じて｢心の復興｣を考える。