コラム COLUMN
ズドラーストヴィチェ(こんにちは)!
アートライターの木谷節子です。
4月25日より、いよいよ「大エルミタージュ美術館展」が始まりました!
今回は「特別号」として内覧会のレポートをお送りいたしましょう。
ご存じのように本展は、ルネサンス以降の西欧絵画400年の歴史を、エルミタージュ美術館の各時代の「顔」ともいうべき秀作89点で紹介する「エルミタージュ美術館展の決定版」。美術館の常設展示の絵画作品ばかりを、古くはルネサンス美術から新しくは20世紀美術まで、5章にわけて紹介しています。それだけに本展最大の目玉作品であるマティスの《赤い部屋(赤のハーモニー)》をはじめ、もともとの作品自体の見応えは満点なのですが……、 そこに国立新美術館の展示の素晴らしさが加わって、各々の作品が「エルミタージュ美術館で観るより、ずっとステキに観えました!」というのが、実際に現地を体験した者の素直な感想です。
というのは前回もご覧いただいたように、エルミタージュ美術館はもともと宮殿。ですから、その壮麗な雰囲気や重厚な歴史を体感できる分、作品とじっくり向き合うギャラリーとしての性格はあまり期待できません。その点を補い、美術館のゴージャス感を残したままに、各々の作品輝かせているのが本展なのです。
具体的には、天井高8mという開放的な空間を生かし、セクションごとに色分けした会場づくりが秀逸。エルミタージュ美術館の宮殿空間を彷彿とさせる第1章の緋色の壁面から、《赤い部屋(赤のハーモニー)》というマティスの「赤」が映える第5章の白い壁面まで、それぞれの時代をイメージした色が作品を最大限に際立たせています。この壁の色、専門のコーディネーターが選んだのではなく、展覧会の担当者で「ああでもない、こうでもない」と決めたのだとか。展覧会を開催するにはいろんな工夫や苦労があるんですね。その甲斐あって、エルミタージュ美術館のミハイル・ピオトロフスキー館長も、内覧会のご挨拶では「(国立新美術館を設計した)故黒川紀章氏の近代建築と、エルミタージュ美術館の作品がとてもマッチしている」とご満悦でした。
「ロシアで観たのに、日本でじっくり観たらもっと良かった」という意味で、印象的だった作品をいくつかあげると、まずはルーベンスの《虹のある風景》。こちらは現地では窓際に飾ってあったため、光ってよく観えなかったのですが、国立新美術館で初めて、ルーベンスが描こうとした自然の壮大さ、虹の微妙なニュアンスがわかった作品です。
また、エカテリーナ2世が画家から直接購入したというライト・オブ・ダービーの《外から見た鍛冶屋の光景》は、屋内にいる人物の描写がとても緻密に描かれていたことを発見。ブーシェの《クピド》2点(「詩の寓意」と「絵画の寓意」)に描かれた天使は、ちょっと目つきがコワイですが、その軽やかに走るような筆致はさすがです。また、今回初めて存在を知ったドイツ人の画家フランツ・クサファー・ヴィンターハルターの《女帝マリア・アレクサンドロヴナの肖像》なども、女帝の気高さを的確に写す写実性と、衣装の部分を絵画的にササッと処理する筆使いが絶妙でした。
そして、今回の目玉マティスの《赤い部屋(赤のハーモニー)》は、ぜひ画面向かって右と下に見える緑っぽい塗り残しなどもご覧ください。展覧会カタログにも描いてあるように、この絵はもともと《青のハーモニー》として描かれたものが、一夜にして「赤」に塗り替えられた作品です。それについてマティスは、「前のままでも美しかったが、赤に変えてはるかに美しくなり、自分でも喜んでいます」と書いているのですが、作品が青だった頃の名残が、この塗り残しにあらわれているというわけです。印刷物では決してわからない、なんとも言えない深い「赤」は、その下に青や緑やいろんな寒色が塗られているからこそ出てきた色だったんですね。
さて会場を出たら、ショップのチェックもお忘れなく。こちらは本展でしか販売されない、エルミタージュ美術館とチェブラーシカのかわいらしいコラボ・グッズが注目です。
それでは、本日はこのへんで。
ダ スヴィダーニャ(さようなら)!
アートライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。