コラム COLUMN
ズドラーストヴィチェ(こんにちは)!
アートライターの木谷節子です。
美食の国、といえば、フランスやイタリアを思い浮かべますが、ロシアもなかなかのもの。ボルシチやピロシキ、ビーフストロガノフといったロシア料理は言わずもがな、旧ソ連の構成国だったグルジア料理の味付けなども、日本人の口に合うことでしょう。噂によると、ホテルの朝食に出ていたサーモンやイクラなども「すごく美味しかった!」ということでしたが、私が驚いたのは、生野菜の瑞々しさ。きゅうりにしろ、トマトにしろ、日本のものよりビッグ・サイズであるにもかかわらず決して大味ではなく、本当にフレッシュでとても美味しゅうございました。(ただし、ロシアでこんな生野菜が食べられるのも9月いっぱいまで。冬になると野菜は輸入物が多くなり、それまでのクオリティは期待できないようです )
というわけなので、サンクトペテルブルクでの食生活は、しっかり情報収集しておけば、それほど失敗することはないでしょう。とはいえ、飛行機での長旅のあとや観光で市内を歩き回ったあと、慣れない街でレストランを探し回るなんてぐったりですよね。英語とは違うロシア語のアルファベットは、メニューを読むのも一苦労ですし、だからといって「マクドナルド」に駆け込むのは味気ない。そんな時、心強い味方になってくれるのが、ロシア料理のファミリーレストラン「ヨールキ・パールキ(Ёлки Палки)」。食事はおいしく、品数豊富でリーズナブル、ロシアには珍しく従業員の愛想もとても良いお店でした。その上さらに嬉しいのは、メニューが写真で出てくるところ。ロシア語ができなくても、食べたいものをどんどん頼めるので、ロシア初心者にはぴったり。主要都市には必ず展開しているファミレスなので、サンクトペテルブルクに限らず、ロシアに行かれる方は、ぜひチェックしておくと良いでしょう。
さて、サンクトペテルブルクで観光客に人気のあるレストランといえば、「文学喫茶」です。街のメインストリート「ネフスキー大通り」の、エルミタージュ美術館寄りにあるこの店は、もとはプーシキンやドストエフスキーなどロシアの文豪たちが通ったカフェでした。とくにロシアの国民的詩人プーシキンが、妻のナターリャに言い寄った軍人ジョルジュ・ダンテスと決闘をする前に訪れたことは知られており、レストランの1階にはペンを片手に物思いにふけるプーシキン像を見ることができます。
2階のレストランの内装はゴージャスで、料理は制服を着たウェイターさんが、ドーム状のプレート・カバーをひとつひとつ開けながら給仕してくれる本格的なスタイルでした。その割には、値段も割安で、堅苦しい感じはせず、出てくるロシア料理はもちろん美味。ただし量はロシア人仕様なので、スープ類などは1人前を2人分にシェアして出してもらうとよいでしょう。
この「文学喫茶」からモイカ川に沿って歩いていくと、日の丸がはためく日本総領事館が見えてきます。その前には、決闘で撃たれたプーシキンが運び込まれ、数日後に息を引き取った「プーシキンの家博物館」があるのですが、この家をぐるりと回ったところにある「カフェstolle」は、「ピローク」というロシアのパイの専門店として有名だそう。「ピローク」の具材は、肉、野菜、きのこ、フルーツとバリエーションも豊富で、小腹がすいた時におススメです。
さて最後に、今回のサンクトペテルブルク訪問で教えてもらった、素敵なロシアのみやげをご紹介しましょう。
皆さんはロシアみやげというと一体何をイメージしますか? おそらく、人形が入れ子状になった「マトリョーシカ」他の工芸品、琥珀のアクセサリーやキャビアの缶詰、チェブラーシカのぬいぐるみなどを思い浮かべることでしょう。しかしそれらは、かさばったり高価だったり、帯に短し襷に長し……。地元の人は「チョコレートも名産だよ」と言いますが、日本人にはかなり甘くて好みが分かれそうなので、誰にでも配れるものではありません。
そんな風におみやげについて考えていた時、お世話になったロシア人のガイドさんから「これどうぞ」と渡されたのが、写真の「ボルシチの素」。「野菜を1ℓのお湯で煮込んで、その後これを入れればいいから」と言われたので、帰国後、裏のイラストを見ながら、途中までカレーを作る要領で作ってみると、これがなんと美味しいこと!
まず「うおっ!」と驚かされたのは、封を切り顆粒のブイヨンを入れた瞬間、鍋の中に広がる鮮やかな赤色。これはボルシチに欠かせない赤い野菜「ビーツ」の色なのですが、日本の料理ではほとんどお目にかからない色とあって、異国情緒は満点。味はインスタントながら、ロシアのレストランで食べたボルシチのそれとそん色ありませんでした。
あまりに美味しかったので、表参道のあの高級スーパーとか、京橋のあの老舗輸入食材店などを探しまわり、あげくの果てはこのブランドの製造販売元に「ロシアで売ってるボルシチの素、日本で購入できないんですか?」と問い合わせたところ、「ロシア用の商品は、ロシアでしか売っておりません」とのこと。つまりこのロシアを代表する食材の素、日本では超レアもの商品で、しかも数袋買っても荷物にならない……、というわけで、ロシアみやげにぴったりだと思いませんか? 一部ブログによると、実は、ロシアでも売れ筋で品切れの場合が多いということなのですが、今度ロシアに行く機会があったら、ぜひスーパーマーケットに立ち寄って探してみようと思います。
それでは、本日はこのへんで。
ダ スヴィダーニャ(さようなら)!
アートライター。現在「婦人公論」「マリソル」「Men’s JOKER」などでアート情報を執筆。アートムック、展覧会音声ガイドの執筆も多数。