《3本の木》
1643年、エッチング・ドライポイント・エングレーヴィング、213 x 279 mm
国立西洋美術館
1643年に制作された本作品は、レンブラントの風景版画を代表する作品のひとつです。多くのステートを重ねるのを常とするレンブラントの版画の中で、ひとつのステートしかないこの作品はやや異例ともいえます。また、彼のほとんどの風景版画において、空にはなにも描かれることなく白く抜け、即興性の高い素描のような印象を与えるのが通例なのですが、入念に準備された構図と丁寧な明暗表現による完成度の高さをもつ本作品は、他の風景版画とは一線を画しています。この作品では、日常の光景と突然の天候の変化による非日常的な世界とが対比されているようです。画面全体は、どことなく暗い憂鬱感によって支配されているように見受けられますが、レンブラントは前年に妻のサスキアを失っており、そうした個人的悲劇がこの作品に暗い影を投げかけているのかもしれません。