《石の手摺りにもたれる自画像》
1639年、エッチング・ドライポイント、205 x 164 mm
アムステルダム、レンブラントハイス/ⓒThe Rembrandt House Museum, Amsterdam
絵画や素描だけではなく、版画においてもレンブラントが多くの自画像を制作したことはよく知られています。《石の手摺りにもたれる自画像》は、彼の自画像版画を代表する作品です。当時、アムステルダムにあったティツィアーノの《詩人アリオストの肖像》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)が本作品の手本となったことは間違いありません。一方の腕で石の手摺りに寄りかかり、身体は横向きで、顔だけを絵を見る者の方に向けた身振りにおいて、また、格式高い肖像画の形式性と親密感に溢れた個人的空間との融合という点で、両者は共通しています。翌年、レンブラントは同じようなポーズで、やはり石の手摺りに手をかけた《自画像》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー)を、今度は油彩画で制作しています。そこでは、これも当時アムステルダムで見ることのできたラファエッロの《カスティリオーネの肖像》(ルーヴル美術館)が意識されています。版画や油彩画によるこれらの自画像は、若き日のレンブラントがイタリアの巨匠たちへ捧げたオマージュであると同時に、彼らを越えようとする強い野心の発露でもありました。